上 下
234 / 417
高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

あっさりとした結末

しおりを挟む
 最後の一人を倒した後、ゲルダさんが私の元にやってきた。

「最初のビルから出て来た人はいないわ」

 最初に倒壊させた時、その場にいたプレイヤー達は、確かに崩落に巻き込まれていた。

「崩落で全滅ですか?」

 他のプレイヤーが、崩落に巻き込まれていても無事だったから、あれで全滅する可能性は低いと思う。でも、無い訳じゃない。

「可能性はあるわね。でも、油断しないように」
「分かりました」

 ゲルダさんと会話をしていると、フレ姉達が出て来た。何か慌てている様子だった。その理由は、すぐに分かった。フレ姉達の背後で、ビルが下から崩れ始めたからだ。

「うぇっ!? 何してるの!?」
「知るか! 壊れかけの柱をソルがぶっ壊しやがった!」
「あ~、燻り出しかな」

 アーサーがどこに隠れたのか分からないから、いっそビルを潰してやれって考えたのかな。割と過激な事を考える人だな。

「何か知ってんのか?」
「あの白い鎧を倒すためだと思う。どこかに消えちゃったから」
「ビルに入ってれば、絶対に出て来るって事か。ハク、空を飛べ」
「うん!」

 いくらソルさんでもビルの全体を見ることは難しい。だから、私が空を飛んで、アーサーの居場所を割り出すように言われたのだ。私が戦闘を始めれば、音でソルさんも居場所を把握する事が出来る。土台を失ったビルは、どんどんと崩れていく。そこから、一条の稲妻が出て来る。ソルさんだ。

「アーサーは……いた!」

 崩れゆくビルから慌てて出て来るアーサーの姿を発見した。まさか、自分からビルを倒壊させると思っていなかったらしい。出て来るのが遅かった理由は、少し高い階にいたからかな。
 双血剣を血で強化して上から急降下する。相手には、【第六感】がある。それを掻い潜る方法は、範囲攻撃だ。私も全力で逃げるしかないから、攻撃に繋げる事が出来ない。だから、まずは【竜息吹】で牽制する。【第六感】で攻撃に気付いたアーサーが、盾で炎を防ぐ。そこに、【影武装】と【火炎武装】を施した双血剣を叩きつける。

「【疾風乱月】」

 羽で位置調整を行いつつ、連撃を盾に食らわせていく。怒濤の攻めに、アーサーは防御に集中した。それでも、私は気にしない。そもそも防御に専念させる事が目的だからだ。五十回程斬ったところで、身体が固まる。技を使った硬直時間だ。
 それを見て、アーサーが笑う。私に攻撃が出来るからかな。

「【エクスカリバー】」

 アーサーの持つ剣が金色に輝き、私に向かって振り下ろす。【影武装】に内包された防影が防御するけど、呆気なく破壊される。結構強い技みたいだ。それでも、私に焦りはない。何故なら、【夜霧の執行者】で攻撃を無効化出来るからだ。アーサーの剣が触れた瞬間、私の身体が夜霧となり、剣がすり抜けた。【夜霧の執行者】は、致命傷となる攻撃にしか発動しない。つまり、アーサーの【エクスカリバー】は、私の素のHPの大半を削る威力があるという事だ。
 私の身体を剣がすり抜けた事で、アーサーは、狼狽していた。こんなスキルを持っている人と戦った事がないからだろう。
 夜霧になっている間に、硬直時間が過ぎたので、一気に上昇する。アーサーが何かを喚こうとしたけど、急に顔を青くして真後ろに盾を構えた。その理由は単純。真後ろからソルさんが突っ込んできたからだ。【電光石火】で加速したソルさんの刀により突きを、アーサーが盾で受ける。ソルさんの攻撃は、アーサーの盾を砕いた。その事に、またアーサーが狼狽する。
 盾が壊れるのも当然だ。【腐食】【影武装】【侵食】のコンボを五十回も受けているのだから、耐久値もゴリゴリと減っていた。恐らく、ソルさんの攻撃力は相当強いので、その分耐久値にも影響してくる。寧ろ、壊れない訳がない。
 ソルさんの刀は、そのままアーサーの鎧に突き進む。そして、鎧に触れた瞬間砕け散った。【刀】の特徴である耐久値の減少速度上昇かな。
 自分の鎧に触れて壊れた刀を見て、アーサーが、また笑う。この人、どんどん小物っぽくなっていくな。

「【エクスカリバー】ああああああああああああ!!!」

 なんか気合いを込めて叫んでいる。そんな大声を出す必要はないのに。
 金色に輝く剣がソルさんに迫る。でも、その剣がソルさんに命中する事はなかった。ソルさんが、再び【電光石火】を発動して、アーサーの背後に回ったからだ。そして、その手にはいつの間にかこれまで以上に大きな刀が握られている。最早、刀と呼ぶのかとも思ってしまう。だって、ソルさんの身長よりも大きな刀だったから。

「【真一文字】」

 まっすぐ真横に振われた大きな刀は、アーサーの脇腹に命中した。鎧に阻まれると思ったけど、そのまま両断された。

「なっ……」

 アーサーの言葉は、そこで終わってポリゴンに変わった。本当にあっさりと終わった。私は、ソルさんの方に飛んでいって、身体を抱えて空に戻る。技の硬直時間もあって、崩落に巻き込まれる可能性があったからだ。

「お疲れ様でした」
「いやぁ、やっぱりそこまで強くなかったね。攻撃力のゴリ押しで倒せるよ」
「それは、ソルさんだけだと思います……」

 防御力が高いから攻撃力のゴリ押しで倒すって、それはどうなのだろうと思ってしまう。普通は防御力を削ぐ方向で考えるはずだからだ。

「でも、ハクちゃんでも倒せるんじゃない? 【吸血】って防御無視でしょ?」
「まぁ、そうですね。相手の動きを止められれば、どんな相手でも倒せますけど……」
「ハクちゃんも十分規格外だよ」

 「も」って付けるという事は、ソルさんも自分が規格外だという自覚があるのかな。
 ソルさんを連れて、フレ姉達を探していると、戦闘をしている皆がいた。フレ姉がアタッカーの攻撃を一手に引き受けていて、アク姉達の元に攻撃が届かないようにしていた。ゲルダさんは、奥にいる魔法使いを攻撃しに行って、タンクと戦っている。アク姉達の支援があるから、すぐに突破していたけど。

「ハクちゃん、私を投げられる?」
「えっ!? まぁ、出来なくはないですけど」
「それじゃあ、あの奥に向かって投げて」
「はい」

 血液で手の先に足場を作って、ソルさんに乗って貰う。そのままその場で一回転し、【回転】の力を加えて、ソルさんを投げる。吹っ飛んでいったソルさんは、【電光石火】も合わせて使い、ものすごい勢いで突っ込んだ。正直、ダメージで倒れるのではと思っていたけど、ソルさんは、勢いを完全に殺して着地して、後ろにいる魔法使い達を倒していった。

「どうやったら、あんな動きが出来るんだろう? スキルかな」

 参考になりそうでならない動きの分析をしながら、血で作った弓で敵を射貫いていく。せっかくなので、新しい戦い方を練習しておきたい。空を飛べる優位性を最大限に活かす戦い方だ。やっぱり遠くになりすぎると、上手く当てられないけど、【圧縮】の解放と【支配(血)】で嫌がらせ出来るから、フレ姉達の援護にはなる。
 私とメイティさんで妨害、フレ姉がタンク、ゲルダさんが翻弄、アク姉とソルさんで殲滅が為されていた。フレ姉のタンクが優秀で、魔法による攻撃の大半を薙刀で打ち消していたし、突っ込んでくるアタッカーを難なく足止めする。そこにアク姉が的確に魔法を放つので、アタッカーが即落ちしていく。
 本当にフレ姉は、何でも出来る人なのだなと実感させられる。さすがに、あれを求めるのは高望み過ぎるかな。
 そのままイベントは進んでいき、時間切れになる前に終わりを迎えた。私達が全ての参加者を倒しきったからだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

処理中です...