吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

土蜘蛛討伐

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シュカ以外の彼氏達は彼らだけで集まって遊び、シュカは俺の家には来るがセイカの頭脳に頼りに来るだけだと言う。

「はぁ~……寂しいなぁ、俺につきっきりで教えてくれる優しい彼氏は居ないのかね」

「教えてあげてもいいけど~、みっつん絶対途中で「君の身体についても知りたいな」なんてイケボセクハラかまして押し倒してくるじゃん」

よく分かっているじゃないか。

「しょうがない……今日は我慢するよ。課題終わらせたら相手してくれよ?」

「もちろん!」

「約束したもんなぁ」

「がん、ばって……ね、みぃくん」

みんな可愛い。

「やる気出るなぁ。あっ、そうだ。みんなちょっとこっちに……こっちこっち」

「何?」

「なんやなんや」

「……? みぃくん……?」

大切なことを思い出した俺は彼氏達を図書館の裏手の人気がなく薄暗い場所へ集めた。ジメジメしているだの虫が居そうだだのと文句が出ている、早いところ用事を済ませてしまわねば。

「コンちゃんについて説明するよ」

「そういや言ってたね~……こんなとこで?」

「まず、俺は京都旅行に行った。ハルと出かけたな、そこで神社に寄って、石像の修理を手伝ったんだ」

「そうそう、首もがれた狐の像があってね~、首どっかやられてたんだけど、みっつんが何かすぐに見つけちゃったんだよね~。すごかったぁ~」

「その件で俺はその石像に気に入られたというか、修理の御礼に来てくれたからそこを口説いたら落ちてくれたというか……そんな感じなんだ。コンちゃん、ちょっと適当に化けてみて」

説明するより見せる方が早い。俺がそう言うとミタマはこくりと頷き、ポンッと軽い音を立てて姿を三尾の狐へと変えた。

「……えっ? な、何? 狐!? えっどこから……えっデカくない?」

「しっぽ、裂け……てる? けが……?」

ハルとカンナは困惑し、リュウはため息をついて「ガチやん……」と頭を抱え、シュカは目を見開いて動かなくなった。

「あれ、コンちゃんどこ? 」

「だから、この狐がコンちゃん」

ポンッと音を立ててミタマが少年の姿へ変わる。季節外れのマフラーを身に付けた、和服の金髪美少年だ。

「ワシは稲荷神社の狛狐の付喪神なんじゃよ。みっちゃんが修理してくれて助かった……じゃからお礼に大金を手に入れさせてやったんじゃが、こやつ金よりワシが欲しいと言い出しての」

「そ、そんな言い方したっけ……?」

「参拝客も来んで寂しいし、正体を知ってもなお口説いてくる人間なんて面白過ぎじゃ。人の子らはみんな可愛らしいし、一時俗世を楽しむのもよかろう。ということでワシはみっちゃんの彼氏じゃ、ヌシらとも仲良うしたい。改めてよろしくなのじゃ」

「つ、つまり……つまり、だよ?」

困惑したままながらハルが状況をまとめようと口を開いた。

「コンちゃんは、マジシャンってこと?」

「む……化ける瞬間を見ても信じんか。昨今の人間は疑り深いのぉ~」

呆れたように言いながらミタマは人の姿のまま狐の耳と尻尾を生やし、ハルの手を掴んで耳に触らせた。

「これが偽物だとまだ思うか?」

「ひっ……あ、あったかい……ぁあぁ震えたぁっ、動いたっ、ぴるぴるしてるぅっ……」

「耳はくすぐったいのじゃ。しーちゃん、しーちゃんも触るかの? しゅーちゃんもどうじゃ?」

カンナは恐る恐る差し出された尻尾を握る。シュカはまだ固まったままだ、瞬きすらしていない。

「……あった、かい。中……骨、ある。ほん、も……の……しっぽ」

「痛た、耳を引っ張るでないぞはーちゃん」

「と、取れないっ、周りの頭皮も引っ張られてる感あるし……マジで生えてるっ」

「……っ、ハル! 引っ張りなや無礼やなほんま! すんません!」

ミタマの耳を力強く引っ張っていたハルの手をリュウが叩き、ハルを羽交い締めにして引き離すと、背に庇うようにしつつミタマに頭を下げた。

「う、うむ……ワシが触れと言うたんじゃし、謝らんでもよいが…………のぅみっちゃん、ワシなんか怖がられとらんか? やっぱりこすぷれ好きの人間としておくべきだったかのぅ」

「途中でバレちゃったら余計怖がられてそこからの挽回難しそうだし、最初にバラした方がいいと思ったんだけどなぁ俺は。そのうち仲良くなれるよ。なっみんな」

「………………ほ、ほんとに、なんか……お化け、なの? 人間じゃ……なくて? 居るんだ、そういうの……」

「……こ、ちゃん」

「うん? 何じゃ、しーちゃん」

「かっぱ、居る?」

「ワシ神社から出たの初めてじゃからのぅ、他のお化けについては詳しゅうないんじゃ。期待に応えられんですまんの」

カンナ、やっぱりなんかズレてて可愛いな。

「じゃあさ……神様は、居るの?」

「居るぞぃ」

「じゃあなんで! 悪いヤツが普通に成功しちゃったりしてんの? おかしくない? なんでこんな正直者がバカ見ちゃうような世界な訳? 神様が本当に居るのにさ!」

「そりゃ人間のやることに手出しする神が少ないからじゃろ。公平性や平和を好む神ばかりという訳でもない……神も多種多様、千差万別……その成功しとる悪人とやらが何かしらの神に愛された血筋なのかもしれんのぅ」

「…………何それ。居ないって思ってたもんが居るって分かっても……居ない方がマシって感じなんだけど」

「神社に居る神は大抵人間に力を貸すのが好きじゃから、その神に合った祈りじゃったらええ方向に進んだりするぞぃ。しかし人間が夢見るような過干渉は神は行わん」

リュウはうんうんと頷いている。流石神社生まれ。

「……じゃがのぅはーちゃん、狐は違うぞぃ? 狐は過干渉など気にせん、対価を寄越すと約束するのなら望むものを与えてやる。それが狐じゃ」

口の端を吊り上げて、細い目を更に細めて、ミタマは極めて胡散臭く邪悪な笑みを浮かべる。

(圧倒的強キャラ感……!)

鼻先が触れ合うほどハルに顔を寄せ、尻尾を妖艶に揺らめかせ、人間を悪の道へ誘うように言葉を紡ぐ。

「平等を好むのならば神へ祈るより狐に頼むのじゃ。悪を、傲慢を、祟ってくれと。人外により人の世の理を歪めるのじゃから、それなりの覚悟と対価が必要じゃがな」

「……コ、コンちゃん! ちょっと、怖いよ。コンちゃん付喪神で正確には狐じゃないでしょ、そんなことしないでしょ?」

ハルが青ざめているのを見て、これ以上はミタマが挽回不可能なほど恐れられてしまうと判断した俺は口を挟んだ。

「稲荷神社に居ったから狐の働きには詳しいぞぃ。確かにワシは狐そのものではないが、狐を模して作られたのじゃ。狐の真似事も可能ではあるし、やりたくなるのじゃ」

「コン、ちゃん……」

この胡散臭い微笑みは、単なる人相の問題ではないのだろうか。人懐っこい善良な普段の言動よりも、見た目の印象の方が彼の本性に近いのだろうか。

「願われれば、祈られれば、頼まれれば、叶えようとしてしまう。じゃからのみっちゃん、他の者も……可愛い人間達の中でも特に可愛らしい、愛しき友人達よ、悪しき思いは抱くでないぞ。叶ってしまえば魂が穢れる」

いや、やはり彼は優しく善良だ。だからこそあえて自分の恐ろしさを垣間見せ、軽はずみに自らの力を使わせないよう牽制してみせたのだ。

「コンちゃん」

「ん? なんじゃみっちゃ……こんっ!? な、なんじゃ、なんなんじゃ……突然っ」

怖がられたくないと言っていたくせに、彼氏達のためにあえて怖がられるよう振る舞った彼が愛おしくて、俺は彼を背後から強く抱き締めた。腹に当たる尻尾達がモゾモゾとくすぐったい。
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