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真冬と真夏の吸血少女

久しぶりのアク姉とアップデート予告

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 店員NPCにラングさんを呼んで貰うと、すぐに裏からラングさんが出て来た。

「おう、来たな」
「こんにちは」
「こんにちは。これが新しい短刀だ」

 ラングさんは早速武器をカウンターに置いた。早く見てもらいたいって感じかな。置かれた短刀は、前の隠密双刀と見た目は変わらない。

「特に変わった感じはしないですね」
「見た目はな。だが、中身は別物だ」

 そう言われたので、隠密双刀の追加効果を確認する。

────────────────────────

隠密双刀『月影』:月の意匠が彫られた短刀。月光石と月宝石が刀身に使われている【攻撃力上昇++】【耐久力上昇++】【投擲速度上昇++】【靱性上昇++】【修復】【月光】【共鳴】

隠密双刀『日影』:太陽の意匠が彫られた短刀。陽光石と陽宝石が刀身に使われている。【攻撃力上昇++】【耐久力上昇++】【投擲速度上昇++】【靱性上昇++】【修復】【陽光】【共鳴】

────────────────────────

 嵩張っていた追加効果が、一つにまとまっていた。空いた二つ分に恐らく耐久に関する追加効果が付けられていた。

「これって」
「ああ。同系統の素材を使用する事で、【月光】と【陽光】の要素を強めて一つにまとめる事に成功した。おかげで、耐久力に関する追加効果を二つ付けられた。一つ注意が必要なのは、こっちではMP回復方法が、【月光】を解放するしかないって点だ。【修復】に使うMPはしっかりと管理してくれ」
「分かりました」

 ラングさんから新しい隠密双刀を受け取る。それと同時に、またメッセージが届いた。

「ちょっと失礼します」
「おう」

 ラングさんに断りを入れて、メッセージを確認する。

『ハクちゃんと久しぶりにお話がしたいから、ファーストタウンの私達のハウスに来られる?』

 アク姉からのメッセージだった。そういえば、ここ最近アク姉と会ってなかったので、アク姉の我慢の限界って感じかな。

「アク姉に呼ばれたので、ここで失礼しますね」
「おう。気を付けてな」
「はい」

 ラングさんと別れて、アク姉のパーティーハウスに向かう。扉をノックすると、すぐにアク姉が出て来て、すぐに捕まって連れ込まれる。師匠と同じような感じだけど、こっちの方が、捕食者って感じが強い。

「ハクちゃ~ん!!」

 アク姉に抱きしめられて、窒息しかける。アク姉の身体を叩いて、ギブアップの意思を伝える。

「あ、ごめんね。はぁ~……久しぶりのハクちゃんが染み渡る……」
「気持ち悪いよ」

 私のそんな苦言は聞こえないフリをして、アク姉は私を抱えてソファに座った。当然のごとく、アク姉の膝の間に座らされる。師匠にも同じ事をされているけど、アク姉と大きな違いがある事に気付いた。取り敢えず、後が怖いから、師匠には言わないようにしよう。

「そういえば、みず姉は、いつ帰るの?」

 二人だけしかいないし、どのみちパーティーの人達も現実でみず姉の友達なので、普通にみず姉呼びで話す事にした。こっちの方が現実の話をしているって分かりやすいしね。

「八月の十日から四日か五日くらいかな」
「へぇ~、かー姉も合わせるのかな?」
「その予定だけど、姉さんは、こっちと違って休みの調整が利き辛いからね。例年通りとはいかない時もあると思うよ」
「そうなんだ」

 久しぶりに現実の方で会いたいとは思うので、皆が揃う事が出来れば良いな。

「それよりも、ハクちゃん、ギルドを設立したんだって?」

 ゲーム内の話に戻ったからか、みず姉はハク呼びに変えた。それに倣って私もアク姉呼びに戻す事にする。

「うん。アク姉に言ってなかったっけ? アカリと二人のギルドを作ったよ」
「聞いてないよ! アカリちゃんから話を聞いて驚いたんだから! ここ最近、レポートとかでログイン出来る時間が少なかったし……」

 アク姉と会う機会がなかった理由は、大学の課題で忙しかったからみたいだ。まぁ、私もテスト勉強で忙しかったし、それは仕方ない事だ。

「ギルドかぁ……でも、ハクちゃんには、ちょうど良い場所かもね。色々と悪目立ちしているみたいだしね」
「あははは……ボスモンスターテイムしたり、雪原で大暴れしてただけだよ」
「割と大事だけどね。掲示板で大騒ぎだったし」
「やっぱりそうなんだ。面倒くさいなぁ」
「まぁ、今は落ち着いているし、大丈夫だと思うよ。ただ、雪原のボスに挑む人達が増えたみたいだけどね。テイム出来た人はいないみたいだけど」

 スノウのテイム条件には、かなり特殊な部分があるので、普通に戦ってもテイムは出来ないと思う。まぁ、良い修行にはなるだろうし、損はないと思う。
 そんな話をしていると、急に運営からお知らせが届いた。せっかくなので、アク姉と一緒に見てみる事にする。
 その内容は、『夏季大型アップデートと第四回イベントのお知らせ』だった。

「大型アップデートが入るんだ。結構ハイペースじゃない?」
「そうだね。でも、この時期は夏休みと重なるから、メインの客層に沿ったやり方になってるんだと思うよ」
「ああ、なるほど。今回のアプデ内容は、スキルの大幅追加と調整。新エリアの追加と新ダンジョンの追加。それに伴うモンスターの追加。エンカウントボスの追加。クエストの追加。生産系アイテムの追加。細かな調整。前回とほぼ同じ内容だね」
「まぁ、追加するものって言ったら、それくらいしかないからね。この前、闘技場のアップデートもしたしね」

 テスト勉強などをしている二週間の間に、闘技場のアップデートが来て、個人でのPvPランキング戦と賭け試合が始まった。私は興味ないから参加していないけど、賭け試合の方は、かなり盛り上がるらしい。互いに平等な賭けになるようにしないといけないので、不正がされないという点でも評価が高いらしい。アカリが言っていた。


「ランキング戦も盛り上がってるし、良いアップデートだったと思うよ。トップのランカーも固まってきて、注目されるようになってきたみたいだしね。多分、こっちの話題の方が、ハクちゃんよりも上になっていくんじゃないかな」

 ランキング戦で、上位の順位になるプレイヤーが決まってきたらしい。トップにもなれば、その名前はゲーム内でも轟くだろう。多分、私の元まではこないだろうけど。

「後は、第四回イベントだね。こっちは、今までと違うイベントみたい。パーティー戦みたいだけど、最初はソロで転移して仲間を集めていくってルールみたい」
「即興パーティーで生き残れるか、いつものパーティーを集められるかって事?」
「そうみたいだね。ちょっと面白そうだね。下手すると、ずっとソロで戦う事になるみたいだけど」
「圧倒的不利だよね。そもそも即興パーティーで、どこまで戦えるんだろう? アク姉みたいな魔法職は、かなり難しいでしょ?」
「まぁ、そうだね。見ず知らずの前衛と呼吸を合わせるのは難しいね。向こうに合わせる気がないと余計にね」

 やっぱり魔法職は、前衛職と呼吸を合わせるのが難しいみたい。あのイベントでの集団戦で、魔法がばかすか撃たれなかった事からも明らかだ。

「う~ん……ソロでどこまでいけるか……いや、普通にスノウを呼べばいけるかな?」
「スノウ? テイムしたモンスターの事?」
「うん。氷炎竜のスノウとウンディーネのレイン」
「ん? もう一体いるの?」

 レインについては知らないみたいで、アク姉も驚いていた。やっぱり、他の人にレインは見えないらしい。

「うん。色々とあってね。二人ともものすごく強いよ」
「へぇ~、ハクちゃんは、本当に運が良いね。このままフェンリルも捕まえる?」
「えぇ~、まぁ、毛並みが良いなら」

 フェンリルに並々ならない想いがある訳では無く、単純に毛並みが好きだったって理由でテイムしていたから、実際テイムするかどうかと言われたら、それによるって答えるしかない。まぁ、そもそもテイム確率が低いから、狙ってテイム出来るとは思えないけど。

「アク姉は、テイム出来る状態とかになった事ある?」
「ないよ。そもそもテイムの条件は、【調教】を始めとするテイム関係のスキルを持っている事だったはずだよ」
「私は、【調教】を収得してテイムするか確認のウィンドウが出たよ?」
「じゃあ、特殊なイベントだったんだね。私は、そういうイベントが起こった事ないからなぁ……特にこのゲーム内では」

 スノウをテイム出来たのは、本当に運の良いことだったみたい。特殊テイムイベントってところかな。恐らくレインも同じ。だから、そういう意味以外で、私自身が自分でテイムしたモンスターはいない。
 この手のイベントは、もしかしたら師範や師匠との出会いも含まれるのかな。

「あっ、そうだ。ラングさんに片手剣頼まないと」
「ん? 何で片手剣?」
「まぁ、色々と」

 師匠の教えを受けるためには、【片手剣】を育てる必要がある。双血剣を【血液武装】で片手剣にする方法もあるけど、安定してスキルレベルを上げるなら、片手剣を持っている方が良い。

「私もギルドに入りたいなぁ」
「いきなりどうしたの?」

 本当に唐突に言われたので、アク姉の顔を見るために顔を上に向ける。ただ、アク姉に付属しているクッションのせいで、アク姉の顔は見づらい。

「ハクちゃんがせっかくギルド作ったって言うから、私も入りたいなぁって思っただけだよ」
「アク姉も? でも、アク姉が入ったら、メイティさん達も入る事になるでしょ? 確認しないと駄目じゃない? それとアカリにも確認しないと。私だけの意思で作ったわけじゃないし」
「そうだよねぇ……まぁ、メイティ達が断る理由はないから、こっちは大丈夫」
「えぇ~……本当に大丈夫? 私みたいに、ギルド自体が嫌だって思っていたりしない? それに、私達のギルドに入るとしたら、ギルドマスターは私だよ?」
「それも大丈夫。自分からやりたいなんて言わないし。全員、そういう役所嫌いだから」
「私に押し付けるって意味にも聞こえてくるんだけど……」

 後頭部でアク姉に頭突きしながらそう言うと、アク姉は、こっちの頬を摘まんできた。

「まぁ、責任感が強いトモエ辺りが、サポートしてくれるよ。私は、そもそも人の上に立つ事が向いてないし」
「ふ~ん……取り敢えず、アカリにメッセージ送っておく。アカリから許可でたら、そっちでも話し合ってから決めてよ? アク姉の意思だけじゃ駄目だからね」
「分かってるよ。ハクちゃんは心配性だなぁ」
「今さっき、話を聞く気がないような発言をされたんだから、心配にはなるよ」

 そうぼやいていると、アカリから返事が来た。

『私は大丈夫だよ。でも、屋敷の空き部屋がないから、別で建てる事になりそう。一応、人数が増えたら、ギルドの運営資金が増えるから、ギルドエリアの発展が進むっていうメリットもあるから、最後はハクちゃんが決断して』

 アカリからは、OKの返事を貰えた。使えるお金が増えるって点を強調される辺り、色々と追いついていないのだと思う。自作で全部済ませられれば良いけど、アカリにも予定はあるから、仕方ない。

「アカリは良いってさ。でも、今建ててある屋敷には空き部屋がないから、アク姉達用に屋敷を作る事になるって」
「まぁ、そこは全然良いよ。ギルドエリアの話だよね?」
「うん」
「なら、ギルドエリアのお金もアカリちゃんに払わないとね」

 ここで私の名前が出てこない辺り、アク姉からも貧乏のイメージが付いている事が分かる。無言の訴えとして頭突きは続けておく。
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