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真冬と真夏の吸血少女
師匠の正体
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家の中に入った後、畳の部屋まで連れて行かれた私は、座椅子の上で、師匠の膝に座りながら、後ろから抱きしめられていた。アク姉によくやられている事なので、この体勢に慣れすぎて、恥ずかしいとかの感情は一切ない。それよりも困惑の方が大きかった。
「何ですか、これ?」
「私って、実は幽霊みたいなものなのよね」
「えっ!? あっ!」
まさかの事実に驚いたけど、すぐにあることに気が付いた。それは、私がスノータウンで見つけた紙の一枚。そこに書かれた物語だ。
「何かの宿願を果たしたんですか?」
「ん? 何でそんな事を……いや、もしかして、私の手記でも見つけた?」
「手記なのかは分かりませんが、こういう紙を見つけたんです」
アイテム欄に入れていた紙を、師匠に見せる。
「あ~……私のね。色々あってなくしたと思ったら、まさか拾われるなんてね。そうよ。この里の住人を皆殺しにした雪狼会っていう悪党ども全滅させたの。それだけを目的に生きていたから、一気に生きる意味を見失ってね。そんな時に、師匠から受け継いだこれを思い出してね。次の時代に残そうとしたのだけど、さっきも言った通り、この里の住人は皆殺しされていなかったから、受け継ぐ相手がいなかったのよ」
「それなら、外に出れば良かったのでは?」
技術を伝える事を目的にしているのであれば、ここに籠もる理由もないのではと思った。絶対に、隠れ里にいないといけないわけではないというのは、師匠の手記に書かれている雪狼会を全滅させたって事から明らかな訳だし。
「そうもいかないのよね。隠れ里を作った理由は、この技術が広く回らないようにするため。そういう決まりがあるから、伝授は隠れ里の中でする事になっているの。他の人に見られないようにね」
「私、思いっきり【双剣】を使ってますけど……」
今の話からすると、私の行為もアウトになってしまう。これに対して、師匠は首を横に振う。
「問題ないわ。だって、あなたの技術は、【双剣】の全てを引き出している訳では無いから。それを見たところで、技術の再現なんて不可能よ。駄目なのは、指導しているところを見られる事」
「なるほど」
つまり、師範や師匠との稽古を多くの人に見られないようにすれば、私自身がいくら扱おうとも問題ないという事だ。そもそも、師範達に認められないとスキル自体取れないから、私が使っても問題ないって判断も出来た。
「それじゃあ、【刀】とそれに関する全てを教えたら、師匠は消えてしまうんですか?」
幽霊として残っているのが、この部分の未練だとしたら、それを終えたら師匠がいなくなる可能性は普通にある。
「ううん。幽霊って言っても、厳密には違うのよね。妖命霊鬼っていう種族なの。鬼って付いているけど、幽霊よりなのよね。無念があって残っているとかそういう事ではないから、成仏するとかは関係ないのよ。ただ、色々と問題もあってね。黒狐を使うと、生気を消耗するの」
「生気?」
【聖気】とは違うものなのかな。音が一緒だから、ちょっと混乱してしまう。
「まぁ、元々命を削る技だから、生気を失うだけで済むのは助かるのだけど。おかげで、休んでいれば回復するから」
「なる……ほど……? それで、この状況は?」
「闇の因子や光の因子を持つ人って、この生気を豊富に持っているから、それを吸収させて貰うって事よ」
「それって、危なくないですか?」
話を聞く限りでは、私のHPが削れる可能性が高い気がする。生気って、HPに直結してそうな感じがするし。
「そこら辺の調節は出来るし、あなたも【高速再生】とか【超回復】とか持っているでしょ?」
「えっ、ないです」
「へ? 闇の眷属よね? 吸血鬼か悪魔だと思ったのだけど」
「あ、はい。一応、真祖です」
「う~ん……それなら持っていてもおかしくないのに……まぁ、良いわ。吸血鬼なら、私の血を吸えば良いものね」
「それじゃあ、意味ないのでは?」
互いにHPの消耗と回復をしていたら、プラスマイナスゼロになる気がする。それなら、師匠から血を吸うのはやめておいて、自分でアイテムの血を使って回復するのが良い。
「私は、自分で血を持っているので、普通に吸って良いですよ」
「そう? なら、遠慮無く」
師匠がそう言った瞬間、HPが減り始めた。緩やかに減っているから、少し遠慮しながら吸っているのかな。
「前に来た人には頼まなかったんですか?」
「まぁ、あなたに頼んだのも、自然回復力が高いはずだからって理由だから、あの子には頼まないわね」
ソルさんには頼んでいないみたい。せっかくだから、師匠からソルさんについて訊いてみる事にした。その前に、血を飲んで回復するのを忘れない。痛い目を見たばかりだし。
「前に来た人は強かったですよね?」
「そうね。もしかして、知り合い?」
「二回程戦った事があります」
「そうなの。あの子は、本当に強かったわ。こっちの動きは、全て見られていたわね。それに、【刀】を手に入れてからは、自分の手脚のように扱っていたわ。正真正銘の天才でしょうね。あの子との稽古は、こっちにも良いものになるわ」
「もしかして、最後の黒いお面の時も防げたんですか?」
「そうね。あれを防がれたのは、本当に驚いたわ」
ソルさんは、最後の黒狐の攻撃を防いだらしい。本当に凄い人なのだと実感させられる。
「多分だけれど、あの子は、私よりも強い人と稽古をした事があるのだと思うわ。あの領域を見せられると、私も精進しないといけないってなるわね」
「へぇ~、私はどんな感じですか?」
ソルさんの評価を聞いたので、私への評価も聞きたくなった。師範は、そういう事を話してくれなさそうだけど、師匠は普通に話してくれそう。
「まぁ、先を視ているから、動きに迷いが少なかったわね。後は、勘が鋭いわね。最初の不意打ちにも反応出来ていたし」
家の中から攻撃した件だろう。青狐になった時は、ずっと勘で動いていたし、この評価は納得だ。
「総合したら、もう少し頑張りましょうってところね」
「ああ……」
さすがに、そこまで評価が高いわけではなかった。一応合格出来ただけでも凄いって感じなのかな。
「刀は良いわよ。割と壊れやすいけど」
「そうなんですか? 【抜刀術】で耐久が減るっていうのは知っているんですけど、ソルさんの刀を折ることは出来なかったです」
大分耐久を減らす事は出来ていたみたいだけど、結局折ることは出来ていない。壊れやすいと言われても、あまり実感がなかった。
「耐久に特化した刀とかを使っているのかもしれないわね。興味出て来た?」
「興味はありますけど……」
「あなたの【双剣】で、ちょっと化ける可能性もあるけど」
「へ? 本当ですか!?」
「うごっ!?」
まさかのスキル収得のヒントを貰えるとは思わず、思いっきり顎に頭突きする事になってしまった。
「あっ、ごめんなさい……」
「いや、大丈夫よ。興味あるみたいね」
「まぁ、それはありますけど、結局【片手剣】が必要なんですもんね」
「そうよ。器用なんだから、問題なく扱えると思うけれど、気が進まない?」
「いや、色々と育てないといけないスキルが多いので、どうしたものかって感じです」
今から【片手剣】を育てるっていうのは、そこまで抵抗はない。ただ、他にも育てたいスキルが多いので、まだ取りたくはないなっていうのが本音だ。
「それじゃあ、気長に待ってるわ。私は、これから先も長いから」
「ありがとうございます、師匠」
「まぁ、それはさておき、これからもここに来てくれると嬉しいわ」
「あ、はい。稽古ですよね」
「いや、あなたの生気、結構美味しいのよね。面白い中身をしているだけあるわ。これから、もっと味の変化を体感出来るだなんて、楽しみで仕方ないじゃない?」
生気に味があるのは初耳だ。ただ、私が血から感じ取っているものと同じだとしたら、ちょっと納得出来るかもしれない。味の変化というのは、私の身体を流れる闇の因子と光の因子の変化を表しているのだと思う。
「本当は素肌から吸った方が、効率が良いのだけどね」
「手を繋ぐとかですか?」
「いや、裸で抱き合うとかよ。でも、知り合ったばかりで、そんなお願いするなんて出来ないじゃない?」
知り合ったばかりで、膝に乗せて後ろから抱きしめるのもどうかと思うけど、口には出さないでおく。思えば、現実で会ったばかりの頃のメイティさんとか、最初からそんな感じで接してきていたし。まぁ、アク姉の妹っていう関係性があったからってのあるだろうけど。
「まぁ、これからお世話になるわけですし、このくらいなら良いですよ」
「助かるわ。この身体になってから、人から生気を吸う機会が少なすぎて、困っていたのよ。食事も必要じゃなくなったのもあって、楽しみがなかったしね」
「へぇ~」
「あなたは、血を吸うのが楽しみって訳じゃ無さそうね。よく血は不味いって聞くけど、本当にそうみたいね」
血が不味いのは、この世界共通の認識みたいだ。
「美味しい血を見つけられたら良いわね。私の血も吸ってみる?」
「…………」
正直、妖命霊鬼の血が、どんな感じか気にならないと言ったら嘘になる。でも、NPCの血を吸って良いものなのかという考えもある。
「じゃあ、ちょっとだけ」
好奇心を抑えきれず、師匠の膝の上で身体の向きを反転させる。師匠は、襟元を緩めて首を曝け出す。そこに噛み付いて、血を吸う。いつも通りの血の匂いと味が広がる。でも、その中に、何か甘みにも似たものを感じた。
結論を言うと、師匠の血は、他のどの血よりも美味しい。でも、そこまで長く吸ってはいられない。まだ吸っていたいという欲求を抑えて、師匠の首から口を離す。
「これまでのどの血よりも美味しかったです」
「生気の違いかしらね。でも、美味しいかったのなら良かったわ」
師匠はそう言って、私の頭を撫でながら立ち上がった。
「さてと、そろそろ帰る?」
「あ、そうですね。また来ます」
「楽しみに待っているわ」
色々な事を学ばせてくれた師匠と別れて、私はギルドエリアに転移する。先に帰したスノウとレインに会ってからログアウトする。今日一日で、色々な事があった。レインと出会い、師匠と出会う。大きな出来事は、この二つだけど、付随する濃度がこってり系ラーメンの最上級かってくらい濃かった。その分、得られたものも大きかったけど。
「何ですか、これ?」
「私って、実は幽霊みたいなものなのよね」
「えっ!? あっ!」
まさかの事実に驚いたけど、すぐにあることに気が付いた。それは、私がスノータウンで見つけた紙の一枚。そこに書かれた物語だ。
「何かの宿願を果たしたんですか?」
「ん? 何でそんな事を……いや、もしかして、私の手記でも見つけた?」
「手記なのかは分かりませんが、こういう紙を見つけたんです」
アイテム欄に入れていた紙を、師匠に見せる。
「あ~……私のね。色々あってなくしたと思ったら、まさか拾われるなんてね。そうよ。この里の住人を皆殺しにした雪狼会っていう悪党ども全滅させたの。それだけを目的に生きていたから、一気に生きる意味を見失ってね。そんな時に、師匠から受け継いだこれを思い出してね。次の時代に残そうとしたのだけど、さっきも言った通り、この里の住人は皆殺しされていなかったから、受け継ぐ相手がいなかったのよ」
「それなら、外に出れば良かったのでは?」
技術を伝える事を目的にしているのであれば、ここに籠もる理由もないのではと思った。絶対に、隠れ里にいないといけないわけではないというのは、師匠の手記に書かれている雪狼会を全滅させたって事から明らかな訳だし。
「そうもいかないのよね。隠れ里を作った理由は、この技術が広く回らないようにするため。そういう決まりがあるから、伝授は隠れ里の中でする事になっているの。他の人に見られないようにね」
「私、思いっきり【双剣】を使ってますけど……」
今の話からすると、私の行為もアウトになってしまう。これに対して、師匠は首を横に振う。
「問題ないわ。だって、あなたの技術は、【双剣】の全てを引き出している訳では無いから。それを見たところで、技術の再現なんて不可能よ。駄目なのは、指導しているところを見られる事」
「なるほど」
つまり、師範や師匠との稽古を多くの人に見られないようにすれば、私自身がいくら扱おうとも問題ないという事だ。そもそも、師範達に認められないとスキル自体取れないから、私が使っても問題ないって判断も出来た。
「それじゃあ、【刀】とそれに関する全てを教えたら、師匠は消えてしまうんですか?」
幽霊として残っているのが、この部分の未練だとしたら、それを終えたら師匠がいなくなる可能性は普通にある。
「ううん。幽霊って言っても、厳密には違うのよね。妖命霊鬼っていう種族なの。鬼って付いているけど、幽霊よりなのよね。無念があって残っているとかそういう事ではないから、成仏するとかは関係ないのよ。ただ、色々と問題もあってね。黒狐を使うと、生気を消耗するの」
「生気?」
【聖気】とは違うものなのかな。音が一緒だから、ちょっと混乱してしまう。
「まぁ、元々命を削る技だから、生気を失うだけで済むのは助かるのだけど。おかげで、休んでいれば回復するから」
「なる……ほど……? それで、この状況は?」
「闇の因子や光の因子を持つ人って、この生気を豊富に持っているから、それを吸収させて貰うって事よ」
「それって、危なくないですか?」
話を聞く限りでは、私のHPが削れる可能性が高い気がする。生気って、HPに直結してそうな感じがするし。
「そこら辺の調節は出来るし、あなたも【高速再生】とか【超回復】とか持っているでしょ?」
「えっ、ないです」
「へ? 闇の眷属よね? 吸血鬼か悪魔だと思ったのだけど」
「あ、はい。一応、真祖です」
「う~ん……それなら持っていてもおかしくないのに……まぁ、良いわ。吸血鬼なら、私の血を吸えば良いものね」
「それじゃあ、意味ないのでは?」
互いにHPの消耗と回復をしていたら、プラスマイナスゼロになる気がする。それなら、師匠から血を吸うのはやめておいて、自分でアイテムの血を使って回復するのが良い。
「私は、自分で血を持っているので、普通に吸って良いですよ」
「そう? なら、遠慮無く」
師匠がそう言った瞬間、HPが減り始めた。緩やかに減っているから、少し遠慮しながら吸っているのかな。
「前に来た人には頼まなかったんですか?」
「まぁ、あなたに頼んだのも、自然回復力が高いはずだからって理由だから、あの子には頼まないわね」
ソルさんには頼んでいないみたい。せっかくだから、師匠からソルさんについて訊いてみる事にした。その前に、血を飲んで回復するのを忘れない。痛い目を見たばかりだし。
「前に来た人は強かったですよね?」
「そうね。もしかして、知り合い?」
「二回程戦った事があります」
「そうなの。あの子は、本当に強かったわ。こっちの動きは、全て見られていたわね。それに、【刀】を手に入れてからは、自分の手脚のように扱っていたわ。正真正銘の天才でしょうね。あの子との稽古は、こっちにも良いものになるわ」
「もしかして、最後の黒いお面の時も防げたんですか?」
「そうね。あれを防がれたのは、本当に驚いたわ」
ソルさんは、最後の黒狐の攻撃を防いだらしい。本当に凄い人なのだと実感させられる。
「多分だけれど、あの子は、私よりも強い人と稽古をした事があるのだと思うわ。あの領域を見せられると、私も精進しないといけないってなるわね」
「へぇ~、私はどんな感じですか?」
ソルさんの評価を聞いたので、私への評価も聞きたくなった。師範は、そういう事を話してくれなさそうだけど、師匠は普通に話してくれそう。
「まぁ、先を視ているから、動きに迷いが少なかったわね。後は、勘が鋭いわね。最初の不意打ちにも反応出来ていたし」
家の中から攻撃した件だろう。青狐になった時は、ずっと勘で動いていたし、この評価は納得だ。
「総合したら、もう少し頑張りましょうってところね」
「ああ……」
さすがに、そこまで評価が高いわけではなかった。一応合格出来ただけでも凄いって感じなのかな。
「刀は良いわよ。割と壊れやすいけど」
「そうなんですか? 【抜刀術】で耐久が減るっていうのは知っているんですけど、ソルさんの刀を折ることは出来なかったです」
大分耐久を減らす事は出来ていたみたいだけど、結局折ることは出来ていない。壊れやすいと言われても、あまり実感がなかった。
「耐久に特化した刀とかを使っているのかもしれないわね。興味出て来た?」
「興味はありますけど……」
「あなたの【双剣】で、ちょっと化ける可能性もあるけど」
「へ? 本当ですか!?」
「うごっ!?」
まさかのスキル収得のヒントを貰えるとは思わず、思いっきり顎に頭突きする事になってしまった。
「あっ、ごめんなさい……」
「いや、大丈夫よ。興味あるみたいね」
「まぁ、それはありますけど、結局【片手剣】が必要なんですもんね」
「そうよ。器用なんだから、問題なく扱えると思うけれど、気が進まない?」
「いや、色々と育てないといけないスキルが多いので、どうしたものかって感じです」
今から【片手剣】を育てるっていうのは、そこまで抵抗はない。ただ、他にも育てたいスキルが多いので、まだ取りたくはないなっていうのが本音だ。
「それじゃあ、気長に待ってるわ。私は、これから先も長いから」
「ありがとうございます、師匠」
「まぁ、それはさておき、これからもここに来てくれると嬉しいわ」
「あ、はい。稽古ですよね」
「いや、あなたの生気、結構美味しいのよね。面白い中身をしているだけあるわ。これから、もっと味の変化を体感出来るだなんて、楽しみで仕方ないじゃない?」
生気に味があるのは初耳だ。ただ、私が血から感じ取っているものと同じだとしたら、ちょっと納得出来るかもしれない。味の変化というのは、私の身体を流れる闇の因子と光の因子の変化を表しているのだと思う。
「本当は素肌から吸った方が、効率が良いのだけどね」
「手を繋ぐとかですか?」
「いや、裸で抱き合うとかよ。でも、知り合ったばかりで、そんなお願いするなんて出来ないじゃない?」
知り合ったばかりで、膝に乗せて後ろから抱きしめるのもどうかと思うけど、口には出さないでおく。思えば、現実で会ったばかりの頃のメイティさんとか、最初からそんな感じで接してきていたし。まぁ、アク姉の妹っていう関係性があったからってのあるだろうけど。
「まぁ、これからお世話になるわけですし、このくらいなら良いですよ」
「助かるわ。この身体になってから、人から生気を吸う機会が少なすぎて、困っていたのよ。食事も必要じゃなくなったのもあって、楽しみがなかったしね」
「へぇ~」
「あなたは、血を吸うのが楽しみって訳じゃ無さそうね。よく血は不味いって聞くけど、本当にそうみたいね」
血が不味いのは、この世界共通の認識みたいだ。
「美味しい血を見つけられたら良いわね。私の血も吸ってみる?」
「…………」
正直、妖命霊鬼の血が、どんな感じか気にならないと言ったら嘘になる。でも、NPCの血を吸って良いものなのかという考えもある。
「じゃあ、ちょっとだけ」
好奇心を抑えきれず、師匠の膝の上で身体の向きを反転させる。師匠は、襟元を緩めて首を曝け出す。そこに噛み付いて、血を吸う。いつも通りの血の匂いと味が広がる。でも、その中に、何か甘みにも似たものを感じた。
結論を言うと、師匠の血は、他のどの血よりも美味しい。でも、そこまで長く吸ってはいられない。まだ吸っていたいという欲求を抑えて、師匠の首から口を離す。
「これまでのどの血よりも美味しかったです」
「生気の違いかしらね。でも、美味しいかったのなら良かったわ」
師匠はそう言って、私の頭を撫でながら立ち上がった。
「さてと、そろそろ帰る?」
「あ、そうですね。また来ます」
「楽しみに待っているわ」
色々な事を学ばせてくれた師匠と別れて、私はギルドエリアに転移する。先に帰したスノウとレインに会ってからログアウトする。今日一日で、色々な事があった。レインと出会い、師匠と出会う。大きな出来事は、この二つだけど、付随する濃度がこってり系ラーメンの最上級かってくらい濃かった。その分、得られたものも大きかったけど。
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