上 下
137 / 456
真祖となった吸血少女

双剣の極意

しおりを挟む
 武器の説明が終わったところで、急にラングさんが罰の悪そうな表情になる。

「ただ、一つ謝らないといけない事がある」
「謝らないといけないですか?」

 ここまで良い仕事をしてくれたのに、謝罪を受けないといけない理由が分からない。

「ああ。嬢ちゃんから貰った竜の素材をふんだんに使って、他にも色々と用意していった結果、百二十万Gになった……」
「あっ、値段の話ですか」

 竜の素材の値段じゃなくて、追加で色々と購入して作ってくれた部分で大きく嵩んだって事だと思う。

「全然だいじょう……ぶ……ですよ」
「そのわりには、歯切れが悪いな……分割にするか?」

 ラングさんが魅力的な提案をしてくれる。歯切れが悪くなったけど、貯金が大きく減る事に気付いたからであって、払えないという事はない。

「いえ、一括で払います。思えば、装備くらいにしか出費がありませんから」
「ん? ああ、嬢ちゃんは血で回復出来るからか」

 そう。皆がお金を払って買う消耗品である回復薬を、血で賄える私は買う必要がない。状態異常を回復する薬は買わないといけないけど、数を揃える必要がないので、大きな出費にはならない。だから、貯金が貯まっていても、装備以外に使うものがない。

「嬢ちゃんは、プレイヤーホームを買うつもりはないのか?」
「う~ん……特に困る事はないですしね」
「意外と便利というか、落ち着くものだぞ。俺も工房に籠もってばっかでいるよりも、一旦帰ってみた方が良いアイデアが出る事がある」
「それは確かに……」

 ラングさんの言う事は分かる。誰も来る心配がない空間は、考え事をするのに打って付けだ。今の私は、そういう考察を色々としないといけないから、あったら良いくらいには思うかも。

「今の相場だと、最低が五百万、最高が百億だな。ただ、五百万の方は、あまり勧めない。かなりボロいからな。そういう面を考えれば、最低でも七百万あった方が良いな」
「おおう……」
「嬢ちゃんなら、一月くらいで稼げるだろう。市場の相場を確認して、高額素材を狙えばの話だけどな」
「大分飽和してきた感じですか?」

 プレイヤーも増えているし、素材の需要と供給のバランスが、少し変わってきているはずだ。実際、スライムの核の売値は下がってきている。主に私のせいで。自業自得である。

「レア素材の値段は、変わっていないものが多いが、普通に出て来るモンスターの値段は下がっているな」
「なるほど。レアモンスターの素材ですか……」
「難しいが、通常のモンスターの素材でも数を揃えれば良いだけだ。鱗や甲羅、武器系のドロップなら、俺のところに持ってくれば、買い取ってやるぞ」

 変わらない相場で買い取ってくれるって事かな。それは有り難い。

「分かりました。手に入れたら、売りに来ますね。それじゃあ、武器ありがとうございました」
「おう。気をつけてな」

 支払いを済ませて、双血剣を受け取った私は、まっすぐ双刀の隠れ里に向かった。一旦スキルの装備を変える。

────────────────────────

ハク:【武芸百般Lv3】【短剣Lv61】【双剣Lv50】【武闘術Lv18】【真祖Lv23】【血液武装Lv24】【操影Lv17】【使役(蝙蝠)Lv29】【執行者Lv66】【剛力Lv43】【豪腕Lv58】【豪脚Lv37】【駿足Lv33】【防鱗Lv14】【未来視Lv3】
控え:【剣Lv65】【魔法才能Lv46】【水魔法才能Lv8】【支援魔法才能Lv45】【HP強化Lv63】【MP強化Lv20】【物理攻撃強化Lv64】【物理防御強化Lv36】【魔法防御強化Lv26】【神脚Lv43】【器用さ強化Lv30】【運強化Lv55】【視覚強化Lv33】【聴覚強化Lv43】【腕力強化Lv13】【毒耐性Lv25】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv4】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv5】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv23】【気絶耐性Lv1】【消化促進Lv53】【竜血Lv35】【登山Lv6】【毒霧Lv2】【毒液Lv2】【捕食Lv17】【狂気Lv5】【擬態Lv10】【夜霧Lv18】【言語学Lv42】【感知Lv37】
SP:251

────────────────────────

 【剣】を育てる必要は、今のところないので、【武芸百般】を装備している。それと、これからする事に【感知】も役に立たないので、【未来視】を入れてみた。これを使えるかどうかは分からないけど、極限状態では、突破口になる可能性を秘めている。逆に、地獄への切符になる可能性も秘めているけど。
 師範の家に来て、ノックする。すると、すぐに扉が開いた。

「また遅かったな」
「武器を新調していまして」
「なるほどな。それならちょうどいいかもしれないな」
「?」

 師範は、指だけで付いてくるように促してくる。そんな師範に付いていって、いつもの道場にくる。そして、いつも通り、私と向き合って立つ。

「お前に双剣の極意を教えよう」
「……良いんですか?」

 最近色々あって、すっかり忘れていたとは言えない。そういえば、知りたくなったら来いって言われていたっけ。レベルが関係するだろうと思って、まだ駄目だなって考えていたはず。

「それに値する。最近、成長していないんじゃないか?」
「成長……」

 武器の新調に合わせて、双剣自体使わなくなったから気付かなかったけど、もしかしたら、【双剣】のレベルが限界に達していたのかもしれない。【双剣】みたいに、収得方法が特殊なスキルには、一定レベルで制限を掛けられて、極意を教わらないと成長出来ないとかがあるのかもしれない。

「お前には見所がある。ここで止まるような半端ものではないだろう」
「はい。お願いします」

 レベルが上がらなくなるのは困るので、ここは師範の教えを受けよう。

「では、構えろ!」
「えっ!? 実戦!?」

 驚きつつも、すぐに双剣を抜いてしまうのは、師範との稽古の成果かもしれない。こうして、双血剣を構えて気付くことがあった。それは、刀身の長さについてだった。血刃の双剣の時、短かった刀身が、血染めの短剣くらいになっている。これだけでも十分に戦えるようにしてくれている。短剣だけとしても使う事になるから、そこら辺を配慮してくれたのだと思う。
 そんな事を想っていると、師範が急に目の前に現れた。放たれる鋭い突きを、反射的に、双剣を交差して防ぐ。

「惚けている場合か!!」
「す、すみません!!」

 師範の縦横無尽の攻撃を防ぎ続ける。目で見ているだけでは追いつけない。いつもの嫌な予感すら働く暇のない攻撃は、私の防御をすり抜けて、何度も攻撃を受ける事になる。

「視界全体から情報を拾え! 攻撃の起点! 陽動の見極め! 全てを瞬時に行え!」
「は、はい!」

 普段の稽古と違って、滅茶苦茶指摘が入る。恐らくこの目の使い方が極意なのかな。言われた通りにやろうとしているけど、師範の攻撃速度がいつもよりも速すぎて、受け止めきれない。
 HPが一割になった瞬間、師範の攻撃が止まった。

「休憩にする」
「はい……」

 フレ姉やゲルダさんとした修行とは、別の厳しさがある。攻撃に移行出来ない連撃。双血剣の慣らしを込めて、稽古に来たけど、それどころじゃなかった。まだマシだったのは、刀身が血刃の双剣よりも伸びている事だった。これがなかったら、もっと早く削られていたかもしれない。
 血を飲んで回復しながら、何か良い方法はないか考える。解決方法で考えられるのは、【未来視】だけど、あの連撃の軌道を事前に見たとしても、身体が追いつかないと思う。だから、師範の言う通り、攻撃の起点からどういう軌道を描くかを見抜くのが一番という結論になる。
 そもそもそんな事が出来ればの話だけど。

「よし、再開だ」

 HPが回復しきったところで、師範からそう言われる。

「はい」

 双剣の極意を得るための稽古が再開する。今日中に会得出来るのかな。そんな漠然とした不安を持ちながら、私は師範に挑む。
 都合四回目の休憩。段々と生き残る時間は延びているのだけど、まだ師範からの合格は貰えていない。

「ふむ。今日はこれくらいにしておくとしよう」
「はい……」

 結局、今日中に極意を会得する事は出来なかった。そう簡単に会得出来るものではないみたいだ。

「動きは良くなっている。精進しろ」
「はい」

 そこで道場から出てログアウトした。双血剣の慣らしは、次の土曜日に回して、明日も師範のところに通う事にする。なるべく早く極意を会得したいから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

吸血少女 設定資料集(おまけ付き)

月輪林檎
SF
 『吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ』のスキルやその技、武具の追加効果などを章ごとに分けて簡潔に説明します。その章で新しく出て来たものを書いていくので、過去の章に出て来ているものは、過去の章から確認してください。  さらに、ハク以外の視点で、ちょっとした話も書くかもしれません。所謂番外編です。  基本的に不定期更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

最強のギルド職員は平和に暮らしたい

月輪林檎
ファンタジー
【第一章 完】 【第二章 完】  魔物が蔓延り、ダンジョンが乱立する世界。そこでは、冒険者という職業が出来ていた。そして、その冒険者をサポートし、魔物の情報やダンジョンの情報を統括する組織が出来上がった。  その名前は、冒険者ギルド。全ての冒険者はギルドに登録しないといけない。ギルドに所属することで、様々なサポートを受けられ、冒険を円滑なものにする事が出来る。  私、アイリス・ミリアーゼは、十六歳を迎え、長年通った学校を卒業した。そして、目標であったギルド職員に最年少で採用される事になった。騎士団からのスカウトもあったけど、全力で断った。  何故かと言うと…………ギルド職員の給料が、騎士団よりも良いから!  それに、騎士団は自由に出来る時間が少なすぎる。それに比べて、ギルド職員は、ちゃんと休みがあるから、自分の時間を作る事が出来る。これが、選んだ決め手だ。  学校の先生からは、 「戦闘系スキルを、それだけ持っているのにも関わらず、冒険者にならず、騎士団にも入らないのか? 勿体ない」  と言われた。確かに、私は、戦闘系のスキルを多く持っている。でも、だからって、戦うのが好きなわけじゃない。私はもっと平和に暮らしたい!!

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...