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真祖となった吸血少女

どうでも良い事

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 何度か戦闘をしつつ、探索を続けていて気付いた事があった。

「ステータスが、少し下がってる?」

 身体の調子が、少しだけ悪くなっていた。さっきまで簡単に倒せていた狂乱桜が、少しだけ硬くなったような感じがして気付いた。

「この豪雨だし、太陽光判定がなくなるかもと思ったけど、そこまで甘くないか。まぁ、現実でも、雨で夜みたいに暗くなる事なんて見た事ないし、多少の光は届いているんだろうなぁ。でも、他の場所よりも身体が楽だ。滅茶苦茶悪天候で最悪だけど、身体の調子は、他の環境より良いなんて、ちょっと複雑」

 雨が好きなわけじゃないから、最高とはならなかった。でも、ステータスがあまり下がらないのは、本当に有り難い。
 混乱の状態異常も抜けたところで、マップを確認すると、五分の一くらいは探索出来ていた。

「思ったよりも、探索は進んでないなぁ。途中で、混乱も挟んで方向感覚もマップ確認も出来なくなったし仕方ないか。後二時間くらいあるし、出来るだけ探索を進めてみよう」

 狂乱桜とジャイアントスライムを倒しながら、探索を進めていく。狂乱桜の混乱と硬直の叫び攻撃を防ぐために、【血液武装】で作り出した血の短剣を喉に投げつけたら、叫びを無効化出来る事を知り、混乱の状態異常と硬直する回数が格段に減った。これのおかげで、狂乱桜に苦戦するという事が減り、安全に吸血する事が出来た。おかげで、何もしていないのに【狂気】のレベルが上がっていった。
 ジャイアントスライムの方は、触手を避けながら、【真祖】で一気に吸う事で倒した。狂乱桜の方に確率を奪われているのか、ジャイアントスライムからは中々スキルが獲れない。【捕食】とか【消化促進】とかの系列で何か獲れるかもって思っていたから、ちょっと残念だった。
 傘とスキルの相性もあって、苦戦すると思われていた豪雨エリアの探索は、後半になるにつれて、結構調子よく進めていく事が出来た。
 マップを四分の一まで埋めて探索を切り上げて、アカリエに向かった。アカリに、今回の成果を伝えるのと、ちょっと確認したい事があるからだ。

「お邪魔」
「いらっしゃい。豪雨エリアは、どうだった?」
「砂漠よりも順調。日が差さないから、ステータスの低下が抑えられるんだよね」
「へぇ~、でも、低下はするんだ?」
「調子が悪くなったし、少しだけモンスターが硬くなったから、間違いないと思う」

 こういう時、ステータスを確認出来ないと不便だ。感覚的なものからしか、ステータスの低下や上昇を確認する事が出来ないから。

「そうなんだ。まぁ、夜と曇りは違うものだしね。混乱とかモンスターの方はどう?」
「それ。その事について話したいと思ってきたんだ。傘じゃなくて、合羽とか作れない?」
「あぁ、やっぱりそういう発想になるよね。結論から言うと、作れはするけど、意味は無いよ。既に試した人がいるけど、結局混乱状態になるみたい。合羽でも雨を顔に浴びる事になるから、頭から雨を被ったって判定になるみたい。だから、傘か魔法で頭から雨を被らないようにしないと、混乱になっちゃうかな」

 もしかしたらと思っていたけど、さすがに駄目みたい。良い考えだと思っていたのだけど、都合良くはいかない。

「そうなんだ……モンスターの方は、相性が良い事もあって、最初しか苦労しなかったかな」
「そうなの? ああ、そうか。スライムは飲めるから……」
「そういう事。狂乱桜も、首にダメージを負わせれば叫びを封じられるから、楽に倒せた」
「そこも気付いたんだ」
「アカリも攻撃の正確さが強みだから、同じように切り抜けられたんじゃないの?」

 アカリは、自分の武器である細剣を巧みに操って、正確に突く事を得意としている。それを考えると、私と同じように狂乱桜の首を貫く事も出来るはずだ。

「私は、気付くまでに時間が掛かったから……」
「まぁ、そういう時もあるよ。私だって、地下道とか図書館とかでゲルダさんに言われなきゃ気付かなかった事も多いし」
「ゲルダさん達は、頭良いしね」
「私達の周りの地頭が良すぎるんだと思う」

 私がそう言うと、アカリは同意するように大きく頷いた。アク姉も私への強すぎる愛が表に出すぎているだけで、頭は良い。本当に私やアカリは、あそこと比べたら下も下。もはや底辺だ。

「それにしても、意外と豪雨エリアとの相性は良いみたいだね。要らない心配だったかな?」
「そうでもないよ。心配してくれて、ムカつくとかあるわけないし」

 アカリは、少し嬉しそうに微笑む。どちらかというと、私の方が心配してくれて嬉しいのだけどね。

「後は、ボスモンスターとレアモンスターが、どんなモンスターかって感じかな。そっちとの相性が悪いって事もあり得るし」
「そこは、お楽しみにかな」
「まぁ、その方が有り難いかな。てか、湿地帯とか熱帯とか砂漠のレアモンスターとも遭遇してないんだよね」
「確率的には、ブラックレオパルドと同じような確率だったかな」
「ああ……」

 イベントで遭遇しすぎて、ブラックレオパルドとの遭遇確率を忘れてしまった。どのくらいの確率で遭遇していたっけ。

「ブラックレオパルドの価値を忘れてるね」
「だって、あんなに襲われたら、さすがに忘れるよ。いすぎだったもん」
「まぁね。おかげで、素材は飽和状態になって、上質な防具が出回る事になったしね」
「防具屋からすると、良くないこと?」
「ううん。普通に良い事だと思うよ。良い防具を揃えられたら、落ちる確率を減らせるから、良い素材を持ち帰ってくれる事も増えるでしょ?」
「へぇ~、なるほどね。それなら納得」

 良い素材で防具を作れたら、それを使って良い素材を持ってきてくれる。それの繰り返しになるわけだから、良い防具が出回るのは、必ずしもデメリットになるとは限らないみたい。

「そういえば、豪雨エリアに行ったから、豪雨エリアの地図を確認したり出来るんじゃない?」
「あっ! そうだった!」

 アカリに言われて、図書館の三階にある本を思い出した。前は見ることが出来なかったけど、豪雨エリアに行って、モンスターと戦った事で、読める本が増えたはずだ。それを確認するのも有りかもしれない。でも、せっかくだから、全部探索し終えてから確認したいという気持ちもある。

「う~ん……迷う……」
「あの紋章の事もあるし?」
「う~ん……確かに……それもあった。でも、砂漠で見つけたのに、豪雨エリアに関係あるかな」
「そこは、私も分からないけど、砂漠に関係しているのだとしたら、やっぱり砂漠に手掛かりがあるって考えるかな。でも、何もないんでしょ?」
「一応、隅々まで調べてはいるんだけどね」

 あれから、王家のコインの手掛かりを追って調べたりしたけど、結局何も得られていない。砂漠の探索もマッピングが終わっているにも関わらず、何も無かった。多分、今の私の状況は、双刀の隠れ里を見つけられない他のプレイヤーと同じ状況なのかな。すぐそこにあるのに、辿り着けないみたいな感じ。

「まぁ、豪雨エリアの探索が一段落したら、地下道も合わせて、もう一度調べるかな」
「地下道ね。本当は、ハクちゃんとゲルダさんが第一発見者なのに、他のプレイヤーが、掲示板に書き込んだから、その人が第一発見者になっちゃったんだよね」

 アカリは、少しだけ不機嫌にそう言う。そんなアカリの頭を優しく撫でる。

「別に、私もゲルダさんも第一発見者に拘ってないから、どうでも良いよ。最初から、掲示板に書き込むつもりもなかったし」
「私もただそれだけなら何も思わなかったけど、その人が街の広場で自慢しているのを見掛けたら、ちょっともやっとした。あの人からしたら、情報が出回ってなかった事と誰も対抗が出なかったから、本当に第一発見者だと思っているんだろうけど」

 アカリの言うとおり、その自称第一発見者は、一切嘘はついていない。私とゲルダさんが何も言わない限り、あちらが真実として語られる事だろう。それでも、私とゲルダさんは、一切気にしない。アカリにも言ったけど、本当にどうでも良い事だから。
 双刀の隠れ里に関しても、情報が出回ってから、第一発見者として名乗り出る事はない。そして、自分から言い回る事もない。

「そんな事気にしないで良いよ。アカリがストレスを溜めるような事でもないからさ」
「うん……まぁ、そうだよね」
「そういう事。それじゃあ、私は、そろそろログアウトするから。また今度ね」
「うん。また今度ね」

 アカリと別れて、アカリエを出た私は、広場でログアウトした。
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