上 下
95 / 417
吸血少女と最悪な環境

砂漠の暴走族

しおりを挟む
 オアシスタウンに着いた私は、すぐに日傘を差す。嫌な慣れだけど、ファーストタウンとかでのステータスダウンには慣れてきていたので、ファーストタウンで傘を差す機会が減ったのだけど、オアシスタウンでは、ちゃんと差さないと辛い。

「暑……」

 暑いと感じるのは、耐性装備をしても変わらない。まぁ、急に暑さを感じなくなったらなったで、怖いけど。

「大分、マシかな。いるだけで息切れするみたいな事もないし。でも、この倦怠感は、どうにかして欲しい……」

 暑さはマシになっているけど、倦怠感だけは、普段よりも強かった。それだけ日差しが強いって事なのだと思う。砂漠だからって、太陽光のパラメータを弄らないでも良い気がする。私みたいな【吸血鬼】持ちがいる事も考えて欲しい。
 まぁ、何を言っても、私の我が儘でしかないのだけど。

「さてと、取り敢えず、砂漠のモンスターを見に行こっと。種類によっては、吸血が捗るし」

 自分で言って、何を言っているのだろうと思わないでもない。言っている事が、ほぼほぼ吸血鬼そのものだ。ただ、複雑な事に、これも私の本心から出ている言葉だった。だって、新しいスキル欲しいし。
 日傘を差したまま、砂漠を歩き始める。色々なところに砂丘が出来ていて、遠くを見通す事が出来ない。ジャングルや熱帯とは別の意味で厄介かもしれない。

「砂丘は、転んだら危なそう。登る時は、気を付けよ。それにしても歩き辛い……」

 巨大な砂浜を歩いている気分。日本にも砂丘があるけど、もしかしたら、似たような感じなのかも。ちょっと行ってみたくなった。
 近くにあった砂丘の上に着いた。でも、この砂丘は、まだ小さい方だったみたいで、周囲は、砂丘だらけだった。

「これは……また迷子になりそうな地形だなぁ……」

 一応マッピングはされているので、現在位置は分かるけど、これがなかったら迷子になって延々と彷徨うことになるだろう。

「ここから向こうまで跳べるかな」

 砂漠には、【神脚】になって使い勝手が悪くなった脚の練習にも来ているので、無駄だと思えるこの行動も、私にとっては重要な事だ。
 日傘を畳んで、思いっきり踏み切る。砂丘に向かってジャンプした私は、高く舞っていた。でも、飛距離は全然足りず、砂丘の途中に落ちる。普通の地形なら、地面を掴んで落ちるのを耐えられるのだけど、ここにあるのは、砂。掴んでも意味が無い。

「うわっ!?」

 体勢を保っていられず、背中から倒れる。そのままの勢いで、後ろに二回程回ってしまう。

「はぁ……せっかくシャワー借りたのに……」

 再び砂まみれになって、気分もガタ落ちだ。軽く砂を払いながら、起き上がる。そのまま何気なく上を見ると、でかいアルマジロが、こっちを見下ろしていた。一秒くらい視線が合っていた。
 でも、すぐに身体を丸めた。砂丘の上で、身体を丸めるという事は、そのまま坂道を下る事になる。その先には、当然の事だけど、私がいる。

「ですよね~!!」

 アルマジロを見た時から、そうなるだろうとは思っていた。私は、すぐに砂丘を下る。でも、向こうの方が速い。そりゃ球体で転がる方が、私より速いよね。

「なるようになれ!」

 私は、さっきみたいに踏み切ってジャンプする。それだけでは足りないと思ったので、大して効果はないけど、日傘を差す。イベントの時同様、落下速度がほんの少しだけ落ちる。今は、一秒でも長く滞空しておきたいので、この方法が有効だと思った。

「ゲルダさんに見られたら、また怒られるな」

 この場に自分しかいない事に安堵しつつ、自分の下を高速で転がっていくアルマジロを見送る。そこで、ようやくアルマジロの名前が見えた。デザートアルマジロ。それが、あのアルマジロの名前だ。
 デザートアルマジロは、砂丘の下まで転がると、球体から通常の姿に戻った。

「【流星蹴り】」

 日傘を閉じた私は、そのままデザートアルマジロに向かって落下する。流星のように落下した私は、デザートアルマジロの背中に蹴りを入れる。アルマジロだけあって、背中の甲羅は、かなり硬い。でも、【神脚】もあって、ダメージは与えられている。それに、身体の半分が砂に埋まっていた。
 おかげで、硬直時間が解けるまでの時間が稼げた。血刃の双剣を抜き、デザートアルマジロの甲羅にある隙間に向かって、突き刺す。出血状態にさせて、【血装術】を発動する。

「【アタックエンチャント】【スピードエンチャント】【スタンショック】」

 自身の強化と、駄目元で相手を気絶状態にさせる魔法を放つ。すると、運の良いことに、デザートアルマジロが気絶した。
 この好機と考えた私は、デザートアルマジロの上に乗りながら、双剣で滅多斬りにしていく。本当は、柔らかそうなお腹に攻撃しようと思ったけど、せっかく硬いのなら、経験値稼ぎになると思ったので、このまま【双剣】と【血装術】のレベル上げに使わせて貰う。
 デザートアルマジロのHPを半分削ったところで、デザートアルマジロが動き出す。その場で身体を丸めて、勢いよく転がり始めたのだ。

「わわっ!?」

 私は、サーカスの玉乗りのように、デザートアルマジロの上で走る事になった。このままどこかに着地すると、デザートアルマジロが轢きに来る可能性があるので、このまま上で走っているのが一番安全だった。
 でも、この状態だと、私に出来る事が【血装術】で血を抜くくらいしかない。

「こんな曲芸をしたい訳じゃないのに……あっ、これなら! 【踏鳴】」

 私は、デザートアルマジロを思いっきり踏みつける。すると、私の攻撃とデザートアルマジロの回転が、互いに弾き合って、三メートルくらい離れる。幸いだったのは、衝撃でデザートアルマジロの回転が止まって、通常状態に戻った事だ。あのまま回転したままだったら、私は轢かれていただろうから。

「【月駆】」

 高速で移動して、デザートアルマジロとすれ違いざまに身体を独楽のように回転させて、デザートアルマジロを斬りつけて抜ける。後ろに抜けたところで、身体が硬直する。これで、残りHPは、一割程になる。デザートアルマジロは、身体を丸めて、前に進んでUターンしてきた。
 私は、硬直が解けると同時に、左脚を軸に回転して、後ろ回し蹴りを合わせる。さっき【踏鳴】で互いに攻撃を弾き合ったので、【神脚】なら対抗出来るのではと思った。そして、その考えは正しかった。デザートアルマジロが、サッカーボールのように飛んでいく。デザートアルマジロは、空を舞いながら、通常状態に戻った。
 それを見逃さず、右手の短剣を投げる。腹に刺さって、デザートアルマジロのHPは無くなった。

「【共鳴】」

 血刃の双剣の追加効果である【共鳴】を発動させて、手元に双剣を戻す。瞬間移動的な戻り方ではなく、私に向かって飛んできたのを掴み取るという形だった。まぁ、戻って来てくれるだけマシかな。
 デザートアルマジロのドロップは、デザートアルマジロの甲羅、デザートアルマジロの皮、デザートアルマジロの舌だった。

「舌? 長い舌が特徴とかなのかな? まぁ、いいや」

 アルマジロの生態など知らないので、考える事をやめた。取り敢えず、デザートアルマジロ相手なら、十分に戦える事が分かった。
 砂漠のモンスターがデザートアルマジロだけなわけがないので、まだ安心は出来ない。これから、どんなモンスターが出るのか怖いけど、ちょっと楽しみでもある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

処理中です...