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吸血少女の歩む道
流された先
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真っ暗な視界のまま、ただただ時間が経過していく。気絶と言っても、本当に意識がなくなるわけじゃない。他のVRゲームと同じなら、視界がなくなる状態は暗闇状態と同じだ。異なるのは、身体の自由が利くかどうか。この状態から考えて、ワンオンでも同様の状態異常と考えて良いはず。
いつまでも、視界が開けて街が映ってこないという事は、まだ死んでいないという事だ。運良く空気を確保出来ているのか、既にどこかに流れ着いているのか、そこの判断が出来ないのは、中々に困る。
それから二、三分で、視界が戻って来た。直後に、身体の自由も戻って来た。
「けほっ! こほっ! ふぅ……ここは……?」
周囲を見回してみると、薄暗い洞窟の中にいる事が分かった。川の終着点ではなく、カーブしているところで、身体が投げ出されたみたいだ。
「川は、洞窟の中を通っているんだ。でも、すぐに外に出てる。カーブの部分だけ洞窟に入っている感じか。水の中に入れば、外に……いや、私が泳げる確証はない。カナヅチではないんだけどなぁ……スキルなしだと泳げないとか?」
このまま川に入れば、外に出る事は出来る。でも、先程までの自分の状態から考えて、川に入ったら、また溺れる。
ここから脱出するために取れる行動は、泳ぎ系統のスキルを取るか、先に続いているであろう洞窟を進むかだ。
「……さっきスキルを取ったばかりだし、まずは洞窟を探索する事にしよう。【吸血鬼】のおかげで、視界は保たれているわけだし」
私は、洞窟を進む方を選択する。軽く服を絞ってから、自分の持ち物を確認する。血染めの短剣もツイストダガーも一緒に流れ着いていた。位置的には、私の手があった場所の近くだ。という事は、ここに流れ着くまで、しっかりと握りしめていたのかもしれない。
「運が良かったって感じかな」
短剣二つを鞘に納める。防具も壊れている感じではないので、まだ戦闘は続けられるだろう。
「洞窟の中は、少し涼しいなぁ」
さっきまで暑いから胸元を開けていたけど、ここではしっかりと閉めて良さそうだ。そんな風に身支度をしつつ、周囲を見回す。
「モンスターは近くにいない。モンスターが、そもそもいないのか……あるいは、あの遺跡と同じようにギミック系の場所かな?」
モンスターがいなくても、警戒は解いてはいけない。それを湿地帯の遺跡で十分に学ばせて貰った。なので、油断をせずに歩き始めた。そのまましばらく歩いていると、分かれ道に出た。右側の先には明るい光が、左側には暗闇が続いている。
「右を行けば、ほぼ確実に外に出る。左に行けば、何があるか分からない。こうなったら、選ぶべきは決まってるよね!」
私は、迷わず左側に足を踏み出した。何があるか分からないという事は、かなりわくわくするからね。幸い、私は灯りを必要しない。このまま突き進んでも問題ない。
左側は、緩やかな下り坂となっていて、どんどん地下へと向かっていた。
「どこまで下れば良いんだろう……っ!?」
道がどこまで続いているのか疑問に感じ始めたところで、また浮遊感が襲ってくる。油断なんてしていない。最大限警戒していた。でも、何の兆候もなく、足元の地面が崩れるとは、誰も予期しないはず。
「遺跡より酷いねっ!」
落とし穴の縁に手を伸ばす。そうして掴んだ縁すらも崩れてしまう。次に、落とし穴の壁に靴底を噛ませて、思いっきり壁を蹴って、三角跳びの要領で上に戻ろうとする。しかし、その壁すらも崩れて力が逃げてしまった。
「なんじゃ、そりゃ!?」
為す術をなくしてしまった私は、そのまま落ちていく事しか出来なかった。
「う~ん……これは……落下死か。水に落下出来れば……ゲームなら死なないはず! でも、水なんて急に出現させられないし……って、良い事思い付いた!!」
私は、アイテム欄から血を取り出して、口に含む。【吸血鬼】さえ発動させなければ、このまま消費されること無く口の中に留まるはずだ。正直、飲むよりも辛い。いつもは即行で飲んでいたから、まだマシだったという事を実感した。
口の中に留まるという事は、それだけの間、血の味を感じ続けないといけないという事だからだ。
これで落下ダメージを負うと同時に、【吸血鬼】を発動して回復すれば、ギリギリ耐えられるのではないかという考えだ。
着くならさっさと地面に着いて欲しい。割とマジでヤバイ。アク姉の料理よりヤバイ。今なら、アク姉の料理でも美味しいと思って食べられるかもしれない。ごめんなさい。嘘です。無理です。食べられはしても、美味しいとは思えないです。
そんな馬鹿みたいな事を考えていると、大きな空間に出て、液体の中に落ちた。水に落ちたって事になるけど、ダメージは受けるようで一瞬半分までHPが減った。空間に出た瞬間に【吸血鬼】を発動しておいたから、すぐに回復した。
「ぷはっ! ほんっとうに巫山戯てる。私が苦しんだ時間を返して欲しいわ。てか、何かピリピリする。うげっ!? HP減ってるじゃん!?」
私は、すぐに血を飲んでから、地面まで泳いだ。
「……普通に泳げる。何で、さっきは泳げなかったんだろう? やっぱり流れが急だったかな?」
色々な疑問が浮かぶけど、それを解く事は出来なさそうなので、取り敢えず置いておいて、地面に上がった。
「うぅ……まだピリピリする……聖水か何か? 全く良い迷惑だよ」
HPが減りすぎないように血を飲みながら、服が乾くのを待つ。
「あっ、【吸血鬼】を外せば……」
ほぼ確実に原因はそれなので、取り敢えず装備から外してみる。すると、HPが減らなくなった代わりに、周囲が全く見えなくなった。
「外すのは、却下かな」
周辺の警戒が出来ないと困るので、【吸血鬼】を装備し直す。じりじりと減っていくHPを回復するために、血を少しずつ飲んでいく。ようやく服が乾いて、ダメージを受けなくなった。
「吸血鬼って、やっぱり邪悪なものって感じなのかな。もう少し優しくして欲しいよ」
身体を伸ばして、状態を確認する。ピリピリは消えて、問題無く身体は動く。試しに、指一本だけさっきの水に浸けると、指がピリピリして、HPがほんの少しずつ削れていた。
「やっぱり、この水は駄目だ。でも、何かに使えるかもだから、採取だけはしておこうかな」
適当な瓶に水を入れてみると、禊ぎの水という名前が付いていた。
「そりゃ、吸血鬼は駄目だよね。アカリに見せて、何かに使えないか訊こっと」
数本採取して、血で回復してから、再び歩き始めた。この場所は、端っこに禊ぎの水が溜まっている池みたいなのがあって、少し開けた場所になっている。通路に続く場所は、一箇所だけ。再び準備を整えて、通路へと進んだ。
いつまでも、視界が開けて街が映ってこないという事は、まだ死んでいないという事だ。運良く空気を確保出来ているのか、既にどこかに流れ着いているのか、そこの判断が出来ないのは、中々に困る。
それから二、三分で、視界が戻って来た。直後に、身体の自由も戻って来た。
「けほっ! こほっ! ふぅ……ここは……?」
周囲を見回してみると、薄暗い洞窟の中にいる事が分かった。川の終着点ではなく、カーブしているところで、身体が投げ出されたみたいだ。
「川は、洞窟の中を通っているんだ。でも、すぐに外に出てる。カーブの部分だけ洞窟に入っている感じか。水の中に入れば、外に……いや、私が泳げる確証はない。カナヅチではないんだけどなぁ……スキルなしだと泳げないとか?」
このまま川に入れば、外に出る事は出来る。でも、先程までの自分の状態から考えて、川に入ったら、また溺れる。
ここから脱出するために取れる行動は、泳ぎ系統のスキルを取るか、先に続いているであろう洞窟を進むかだ。
「……さっきスキルを取ったばかりだし、まずは洞窟を探索する事にしよう。【吸血鬼】のおかげで、視界は保たれているわけだし」
私は、洞窟を進む方を選択する。軽く服を絞ってから、自分の持ち物を確認する。血染めの短剣もツイストダガーも一緒に流れ着いていた。位置的には、私の手があった場所の近くだ。という事は、ここに流れ着くまで、しっかりと握りしめていたのかもしれない。
「運が良かったって感じかな」
短剣二つを鞘に納める。防具も壊れている感じではないので、まだ戦闘は続けられるだろう。
「洞窟の中は、少し涼しいなぁ」
さっきまで暑いから胸元を開けていたけど、ここではしっかりと閉めて良さそうだ。そんな風に身支度をしつつ、周囲を見回す。
「モンスターは近くにいない。モンスターが、そもそもいないのか……あるいは、あの遺跡と同じようにギミック系の場所かな?」
モンスターがいなくても、警戒は解いてはいけない。それを湿地帯の遺跡で十分に学ばせて貰った。なので、油断をせずに歩き始めた。そのまましばらく歩いていると、分かれ道に出た。右側の先には明るい光が、左側には暗闇が続いている。
「右を行けば、ほぼ確実に外に出る。左に行けば、何があるか分からない。こうなったら、選ぶべきは決まってるよね!」
私は、迷わず左側に足を踏み出した。何があるか分からないという事は、かなりわくわくするからね。幸い、私は灯りを必要しない。このまま突き進んでも問題ない。
左側は、緩やかな下り坂となっていて、どんどん地下へと向かっていた。
「どこまで下れば良いんだろう……っ!?」
道がどこまで続いているのか疑問に感じ始めたところで、また浮遊感が襲ってくる。油断なんてしていない。最大限警戒していた。でも、何の兆候もなく、足元の地面が崩れるとは、誰も予期しないはず。
「遺跡より酷いねっ!」
落とし穴の縁に手を伸ばす。そうして掴んだ縁すらも崩れてしまう。次に、落とし穴の壁に靴底を噛ませて、思いっきり壁を蹴って、三角跳びの要領で上に戻ろうとする。しかし、その壁すらも崩れて力が逃げてしまった。
「なんじゃ、そりゃ!?」
為す術をなくしてしまった私は、そのまま落ちていく事しか出来なかった。
「う~ん……これは……落下死か。水に落下出来れば……ゲームなら死なないはず! でも、水なんて急に出現させられないし……って、良い事思い付いた!!」
私は、アイテム欄から血を取り出して、口に含む。【吸血鬼】さえ発動させなければ、このまま消費されること無く口の中に留まるはずだ。正直、飲むよりも辛い。いつもは即行で飲んでいたから、まだマシだったという事を実感した。
口の中に留まるという事は、それだけの間、血の味を感じ続けないといけないという事だからだ。
これで落下ダメージを負うと同時に、【吸血鬼】を発動して回復すれば、ギリギリ耐えられるのではないかという考えだ。
着くならさっさと地面に着いて欲しい。割とマジでヤバイ。アク姉の料理よりヤバイ。今なら、アク姉の料理でも美味しいと思って食べられるかもしれない。ごめんなさい。嘘です。無理です。食べられはしても、美味しいとは思えないです。
そんな馬鹿みたいな事を考えていると、大きな空間に出て、液体の中に落ちた。水に落ちたって事になるけど、ダメージは受けるようで一瞬半分までHPが減った。空間に出た瞬間に【吸血鬼】を発動しておいたから、すぐに回復した。
「ぷはっ! ほんっとうに巫山戯てる。私が苦しんだ時間を返して欲しいわ。てか、何かピリピリする。うげっ!? HP減ってるじゃん!?」
私は、すぐに血を飲んでから、地面まで泳いだ。
「……普通に泳げる。何で、さっきは泳げなかったんだろう? やっぱり流れが急だったかな?」
色々な疑問が浮かぶけど、それを解く事は出来なさそうなので、取り敢えず置いておいて、地面に上がった。
「うぅ……まだピリピリする……聖水か何か? 全く良い迷惑だよ」
HPが減りすぎないように血を飲みながら、服が乾くのを待つ。
「あっ、【吸血鬼】を外せば……」
ほぼ確実に原因はそれなので、取り敢えず装備から外してみる。すると、HPが減らなくなった代わりに、周囲が全く見えなくなった。
「外すのは、却下かな」
周辺の警戒が出来ないと困るので、【吸血鬼】を装備し直す。じりじりと減っていくHPを回復するために、血を少しずつ飲んでいく。ようやく服が乾いて、ダメージを受けなくなった。
「吸血鬼って、やっぱり邪悪なものって感じなのかな。もう少し優しくして欲しいよ」
身体を伸ばして、状態を確認する。ピリピリは消えて、問題無く身体は動く。試しに、指一本だけさっきの水に浸けると、指がピリピリして、HPがほんの少しずつ削れていた。
「やっぱり、この水は駄目だ。でも、何かに使えるかもだから、採取だけはしておこうかな」
適当な瓶に水を入れてみると、禊ぎの水という名前が付いていた。
「そりゃ、吸血鬼は駄目だよね。アカリに見せて、何かに使えないか訊こっと」
数本採取して、血で回復してから、再び歩き始めた。この場所は、端っこに禊ぎの水が溜まっている池みたいなのがあって、少し開けた場所になっている。通路に続く場所は、一箇所だけ。再び準備を整えて、通路へと進んだ。
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