上 下
50 / 417
吸血少女の歩む道

予期せぬ事態

しおりを挟む
 熱帯エリアの探索を続けていると、夜が明けてしまった。幸い木々がジャングル以上に密集しているので、ステータス低下の影響は、ほんの少しだけマシになっている感じがする。それでも四割くらいは低下していると思うけど。

「ステータスは低下しても、ツイストダガーと【操血】で、噛み付かなくても回復出来るから、ある程度戦えるはず!」

 これまでは、ステータス半減の影響が大きすぎるので、日が出たら平原とか安全な場所で吸血したりしていたけど、出血状態からの【操血】、【吸血鬼】のコンボで、近接戦をしながら回復出来るようになっている。だから、この状態になっても、少しマシに戦えるようになったのではないかと思っていた。

「念のため、【アタックエンチャント】【ディフェンスエンチャント】【スピードエンチャント】」

 このエリアで、魔法を使うような相手が出て来ていないので、物理特化で強化しておく。スローイングチンパンジーの枝投げによる不意打ちには、すぐに反応しないと避けきれないと思われるので、少しでも速度を上げておくという面でも、速度強化も付けておいた。
 準備を整えて、少し歩いていると、聞き馴染みのあるものとは別種の羽ばたく音が、大量に聞こえてきた。

「血狂い蝙蝠か……」

 正直なところ、湿地帯で戦ったアサルトバードよりも血狂い蝙蝠の方が厄介だ。通常の状態で、一撃で倒せると言っても、数が異常過ぎる。アサルトバードのように一匹一匹吸血していたら、ものすごく時間が掛かってしまうだろう。
 【追刃】っていう擬似範囲攻撃を持っているけど、本当の意味で範囲攻撃を持っていないと、相手の攻撃を何度か受ける事になる。
 そして、血狂い蝙蝠の攻撃によって、血を飲まれれば、血狂い蝙蝠が持つスキルが発動して、より好戦的になる。そうして攻撃の密度が上がれば、こっちの対応もどんどん間に合わなくなる。アサルトバードの連続突撃とは別の形で、群れとしての強さを実感させられる。
 すぐさま血染めの短剣を抜く。

「【追刃】【ラピッドファイア】」

 取り敢えず、前と同じように対処してみた。その結果、前よりも攻撃を抜けられる数が増えていた。倒しきれない個体が多い事から、ステータス低下の影響が目に見えて分かる。

「さすがに、まだ昼間はキツいかな……でも、やれるだけやろう」

 HPの残りは四割。対して、向こうの数は、まだ目算五十以上。その内、二十匹が興奮している。向こうが攻撃に移る前に、アイテムの血を飲む。七割までHPが回復したところで、向こうの攻撃が始まった。興奮している個体達が、先頭になって向かってくる。速度の違いからそうなっているみたいなので、血を飲んだ個体のステータスが上がっているのは確定で良いと思う。

「MPが……」

 エンチャントと二つの技で、MPを大きく消費していて、まだ【追刃】を発動出来るまで回復してない。だから、襲ってくる血狂い蝙蝠達は、自分自身の腕で対処するしかない。
 腕は、常に動かし続けるので、攻撃の的になってしまう身体の方に【硬質化】を使う。
 さすがに、【ラピッドファイア】程の速度は出せないけど、次々に攻撃を当てる事は出来ている。その攻撃と同時に、バックステップを踏んで、血狂い蝙蝠が一気に距離を詰められないようにする。顔面に向かって飛んできた血狂い蝙蝠に関しては、【吸血鬼】を使って思いっきり噛み付いた。吸血すると同時に、噛み切る事で倒す。回復する事が出来たので、まだ戦闘を続けられる。
 少しずつ数を減らしていたところで、急に身体が浮いたような感覚がした。

「えっ!?」

 血狂い蝙蝠の攻撃へ対処する事に集中するあまり、周辺の状況確認を怠っていた。いつの間にか、さっき見た川まで来ていたのだ。地面があると思ってバックステップしたところは、完全に川の真上だった。周辺状況の把握を怠るという油断をしてしまった私は、脚から川の中に落ちていく。

「がぼっ!?」

 落ちてもすぐに上がれば良いと考えていた私の考えは、すぐに否定された。川の流れが急過ぎて、一気に流されていく。何とか泳ごうとするけど、上手く身動きが取れない。
 藻掻きに藻掻いて、運良く水面に顔が出て一度呼吸が出来たけど、またすぐに水の中に飲まれる。
 焦っても仕方ない。どうしたものかと思っていると、正面から私に接近してくる何かが見える。水の中という事もあって、朧気にしか見えないけど、すぐにその正体が分かった。ワニだ。さっき川で見たから、すぐにそこに思い至った。それに、クロコダイルって、名前が見えたから間違いない。
 クロコダイルは、大きく口を開けて、私に噛み付こうとしていた。身体に噛み付かれると危ないと判断して、【硬質化】をした左腕を突っ込んだ。口の中に獲物が入った事で、思いっきり噛み付かれる。
 でも、【硬質化】のおかげで、腕が食いちぎられる事はなかった。同時に、左手で握っていた血染めの短剣を起こして、クロコダイルの口内から突き刺す。クロコダイルが、思わず口を開くけど、しっかりと突き刺した短剣を支えにしがみつく。
 その状態で耐えている間に、右手でツイストダガーを抜き、クロコダイルの身体に突き刺す。出血状態にさせて、【操血】で血を飲んでいく。さっきまでのダメージの他に、窒息によるであろうダメージを、少しずつ受け始めていたからだ。
 窒息ダメージがどのような判定になっているのか分からないから、これで耐えられるか分からない。でも、HPだけで考えれば、【操血】と血染めの短剣とツイストダガーの二つに付いている【HP吸収】で継続的に回復出来るから問題はない。
 若干の苦しさはあるけど、まだ死ぬまではいかない。いつまで流されるのかと思っていると、クロコダイルの身体がポリゴンに変わった。せっかくの回復手段が消えてしまった。
 私は、再び必死に身体を動かして、水面に顔を出す。

「けほっ! ごほっ! 全然動けない……」

 てっきり川の流れが急だから泳げないのだと思ったけど、何かが違う。現実で泳ぐ時よりも遙かに力が入らない。また水の中に飲まれる。そして、段々と視界が狭まっていくのが分かった。
 他にもVRゲームをやっているから、この現象はよく知っている。気絶状態になる兆候だ。水の中で気絶となれば、空気が足りていないという証拠。このままだと溺死で、街に戻る事になる。
 でも、自分に出来る事は何もない。無事に、どこかに打ち上がる事を祈りながら、視界が真っ暗になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

処理中です...