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吸血少女の歩む道

予期せぬ事態

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 熱帯エリアの探索を続けていると、夜が明けてしまった。幸い木々がジャングル以上に密集しているので、ステータス低下の影響は、ほんの少しだけマシになっている感じがする。それでも四割くらいは低下していると思うけど。

「ステータスは低下しても、ツイストダガーと【操血】で、噛み付かなくても回復出来るから、ある程度戦えるはず!」

 これまでは、ステータス半減の影響が大きすぎるので、日が出たら平原とか安全な場所で吸血したりしていたけど、出血状態からの【操血】、【吸血鬼】のコンボで、近接戦をしながら回復出来るようになっている。だから、この状態になっても、少しマシに戦えるようになったのではないかと思っていた。

「念のため、【アタックエンチャント】【ディフェンスエンチャント】【スピードエンチャント】」

 このエリアで、魔法を使うような相手が出て来ていないので、物理特化で強化しておく。スローイングチンパンジーの枝投げによる不意打ちには、すぐに反応しないと避けきれないと思われるので、少しでも速度を上げておくという面でも、速度強化も付けておいた。
 準備を整えて、少し歩いていると、聞き馴染みのあるものとは別種の羽ばたく音が、大量に聞こえてきた。

「血狂い蝙蝠か……」

 正直なところ、湿地帯で戦ったアサルトバードよりも血狂い蝙蝠の方が厄介だ。通常の状態で、一撃で倒せると言っても、数が異常過ぎる。アサルトバードのように一匹一匹吸血していたら、ものすごく時間が掛かってしまうだろう。
 【追刃】っていう擬似範囲攻撃を持っているけど、本当の意味で範囲攻撃を持っていないと、相手の攻撃を何度か受ける事になる。
 そして、血狂い蝙蝠の攻撃によって、血を飲まれれば、血狂い蝙蝠が持つスキルが発動して、より好戦的になる。そうして攻撃の密度が上がれば、こっちの対応もどんどん間に合わなくなる。アサルトバードの連続突撃とは別の形で、群れとしての強さを実感させられる。
 すぐさま血染めの短剣を抜く。

「【追刃】【ラピッドファイア】」

 取り敢えず、前と同じように対処してみた。その結果、前よりも攻撃を抜けられる数が増えていた。倒しきれない個体が多い事から、ステータス低下の影響が目に見えて分かる。

「さすがに、まだ昼間はキツいかな……でも、やれるだけやろう」

 HPの残りは四割。対して、向こうの数は、まだ目算五十以上。その内、二十匹が興奮している。向こうが攻撃に移る前に、アイテムの血を飲む。七割までHPが回復したところで、向こうの攻撃が始まった。興奮している個体達が、先頭になって向かってくる。速度の違いからそうなっているみたいなので、血を飲んだ個体のステータスが上がっているのは確定で良いと思う。

「MPが……」

 エンチャントと二つの技で、MPを大きく消費していて、まだ【追刃】を発動出来るまで回復してない。だから、襲ってくる血狂い蝙蝠達は、自分自身の腕で対処するしかない。
 腕は、常に動かし続けるので、攻撃の的になってしまう身体の方に【硬質化】を使う。
 さすがに、【ラピッドファイア】程の速度は出せないけど、次々に攻撃を当てる事は出来ている。その攻撃と同時に、バックステップを踏んで、血狂い蝙蝠が一気に距離を詰められないようにする。顔面に向かって飛んできた血狂い蝙蝠に関しては、【吸血鬼】を使って思いっきり噛み付いた。吸血すると同時に、噛み切る事で倒す。回復する事が出来たので、まだ戦闘を続けられる。
 少しずつ数を減らしていたところで、急に身体が浮いたような感覚がした。

「えっ!?」

 血狂い蝙蝠の攻撃へ対処する事に集中するあまり、周辺の状況確認を怠っていた。いつの間にか、さっき見た川まで来ていたのだ。地面があると思ってバックステップしたところは、完全に川の真上だった。周辺状況の把握を怠るという油断をしてしまった私は、脚から川の中に落ちていく。

「がぼっ!?」

 落ちてもすぐに上がれば良いと考えていた私の考えは、すぐに否定された。川の流れが急過ぎて、一気に流されていく。何とか泳ごうとするけど、上手く身動きが取れない。
 藻掻きに藻掻いて、運良く水面に顔が出て一度呼吸が出来たけど、またすぐに水の中に飲まれる。
 焦っても仕方ない。どうしたものかと思っていると、正面から私に接近してくる何かが見える。水の中という事もあって、朧気にしか見えないけど、すぐにその正体が分かった。ワニだ。さっき川で見たから、すぐにそこに思い至った。それに、クロコダイルって、名前が見えたから間違いない。
 クロコダイルは、大きく口を開けて、私に噛み付こうとしていた。身体に噛み付かれると危ないと判断して、【硬質化】をした左腕を突っ込んだ。口の中に獲物が入った事で、思いっきり噛み付かれる。
 でも、【硬質化】のおかげで、腕が食いちぎられる事はなかった。同時に、左手で握っていた血染めの短剣を起こして、クロコダイルの口内から突き刺す。クロコダイルが、思わず口を開くけど、しっかりと突き刺した短剣を支えにしがみつく。
 その状態で耐えている間に、右手でツイストダガーを抜き、クロコダイルの身体に突き刺す。出血状態にさせて、【操血】で血を飲んでいく。さっきまでのダメージの他に、窒息によるであろうダメージを、少しずつ受け始めていたからだ。
 窒息ダメージがどのような判定になっているのか分からないから、これで耐えられるか分からない。でも、HPだけで考えれば、【操血】と血染めの短剣とツイストダガーの二つに付いている【HP吸収】で継続的に回復出来るから問題はない。
 若干の苦しさはあるけど、まだ死ぬまではいかない。いつまで流されるのかと思っていると、クロコダイルの身体がポリゴンに変わった。せっかくの回復手段が消えてしまった。
 私は、再び必死に身体を動かして、水面に顔を出す。

「けほっ! ごほっ! 全然動けない……」

 てっきり川の流れが急だから泳げないのだと思ったけど、何かが違う。現実で泳ぐ時よりも遙かに力が入らない。また水の中に飲まれる。そして、段々と視界が狭まっていくのが分かった。
 他にもVRゲームをやっているから、この現象はよく知っている。気絶状態になる兆候だ。水の中で気絶となれば、空気が足りていないという証拠。このままだと溺死で、街に戻る事になる。
 でも、自分に出来る事は何もない。無事に、どこかに打ち上がる事を祈りながら、視界が真っ暗になった。
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