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吸血少女の歩む道

湿地帯のボス

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 ボスエリアに来た私達は、フレ姉を先頭にして、まっすぐ歩いていく。

「ここのボスは、ジャイアントトードって言ってな。マッドフロッグと同じように、初撃が不意打ちになってやがる。初見だと危ねぇが、慣れれば対処は簡単だ」
「舌の掴み取り?」
「いや、素手は危ねぇから止めとけ。ジャイアントって名前が付くくらいにはでけぇからな。下手すると、絡め取られて飲まれるぞ」
「実際に、そうなった【格闘】持ちプレイヤーがいるからね。さすがに、ハクちゃんが粘液まみれになっちゃうのは……ちょっと興奮するけど……」

 ほんのりと顔を赤らめて言うアク姉の額に、フレ姉が槍の石突きをぶつけた。

「あ痛っ!?」
「変態発言してんじゃねぇ。そのうち、ハクと口利けなくなるぞ」
「それは嫌! ごめんね! ハクちゃん!」

 本日何度目の泣きつきなのか分からない。

「良いよ。諦めてるから」
「やった!」
「喜ぶところじゃねぇ」

 フレ姉はそう言いながら、私達を手で制止させる。

「そこにいる。私が近づいて、攻撃を誘発させる。アクアは、ハクを援護しろ。ハクは、好きに動け。私達がサポートしてやる」
「うん」

 私が返事をすると、フレ姉は、私達よりも先行するために駆け出す。フレ姉が沼の近くを通るのと同時に、その沼から二メートル以上の高さがある。
 異常なでかさのジャイアントトードが、その巨大に似合った太さの舌をフレ姉に向かって伸ばす。フレ姉は、上にジャンプして舌を避けると、槍で地面に縫い付けた。

「【フリーズ】」

 アク姉は、ジャイアントトードがいる沼を凍らせる。そのおかげで、ジャイアントトードは動けない状態になった。
 私は、そこにリビングアーマーの時と同く思いっきり踏み切って、高速で突っ込んだ。すれ違いざまに短剣で斬りつける。深い傷を与えられたけど、HPは、数ドットしか削れていない。

「こいつは、HPと防御力が高い! 畳みかけろ!」
「うん!」

 ジャイアントトードの上に跳び上がり、背中に向かって落下する。

「【アタックエンチャント】【バックスタブ】!」

 思いっきり突き刺して、クリティカル判定有りのダメージを与える。それで一割いかないくらいのダメージを与える事が出来た。同時に、ジャイアントトードの身体が小さく震える。

「離れろ!」

 フレ姉の指示を聞いて、ジャイアントトードの背中を踏み台にして跳び退いて、フレ姉の後ろに着地する。ジャイアントトードの身体が二センチくらい沈んだ後、背中からミスト状の液体が飛び出した。

「何あれ?」
「酸攻撃だ。あの場にいるだけで継続ダメージを受ける事になるが、一番問題なのは装備耐久へのダメージが大きいってところだな」
「そうなんだ。身体が震えてから沈んだ後、注意って事ね」
「いや、沈んだのは、ハクがジャンプしたからだな。【脚力強化】と【格闘】の組み合わせは、意外と強力だな」
「あっ、そうなんだ」

 てっきり、あの沈んだのも攻撃モーションの一つかと思ったけど、私のせいだったみたい。

「じゃあ、正面から攻撃した方が良い?」
「正面は、あの口があるからな。飲み込まれないように気を付けろ」
「うん!」

 また思いっきり踏み切って、突っ込む。ジャイアントトードの舌は、フレ姉によって縫い止められたままだ。だから、舌による攻撃はこない。なので、正面からは噛み付きとか飲み込みとかだけと思ったけど、すぐに一つ思い出した事があった。それは、マッドフロッグの毒攻撃だ。
 種類は違うと言えど、ジャイアントトードは、同じカエルモンスター。毒攻撃をしてもおかしくない。
 そう考えた瞬間、ジャイアントトードの口から紫色の霧が出る。それを見て、すぐに跳び上がった私は、ジャイアントトードの頭に向かって踵落としをする。開いていた口を勢いよく閉めさせた。その結果、ジャイアントトードの舌が千切れる。

「【フリーズバインド】」

 閉じた口をそのままにするかのように、凍った沼から伸びてきた氷がジャイアントトードに絡みついて縛った。

「ハク! 下がれ!!」

 フレ姉に言われて、後ろに下がる。

「アクア!」
「【ウィンドカーテン】【ウォーターエンブレンス】」

 水がジャイアントトードを覆い、その外に風の幕が降りる。その内側で、ジャイアントトードが弾けた。同時に、ジャイアントトードのHPが二割減った。

「うわっ!?」

 唐突な破裂音に、ちょっとびっくりした。

「ジャイアントトードの毒攻撃は液体じゃなくて気体で吐き出される。それを体内で止めると、吐き出そうとした毒が体内で膨れ上がっていって、自然と破裂すんだ。結果、毒は撒き散らされるんだが、こうして魔法で防ぐ事が出来る。正直、風魔法だけで事足りるんだが、ハクがいるから念入りにしているんだろうな」
「ふ~ん。なるほど……」

 それなら、一人で戦う時には口を塞ぎ続けさせる事は出来ないので、毒息を避ける感じになりそうだ。

「あいつは舌も再生する。厄介な攻撃が戻る前に、ダメージを増やすか」
「うん!」

 瞬間的に早く走れる私が先行して、ジャイアントトードの側面を通り抜けながら斬り裂く。いつも通りにグリップを効かせようとしたけど、沼が凍っていて、そのまま滑ってしまう。
 もう少しジャイアントトードの身体に刀身を沈める事が出来れば、ブレーキを掛ける事が出来たけど、ちょっと浅かった。だから、少ししか削れなかった。
 フレ姉の方は、凍った床で滑りながら接近していた。

「【五連突き】!」

 ジャイアントトードの頭を五連続で突く。深々と刺さって、二割削った。私との攻撃力の差が凄い。フレ姉は、後ろに飛び退いて、槍を肩に担ぐ。

「【乾坤一擲】」

 赤い光を纏った槍を、ジャイアントトードに向かって投げつけた。槍は、ジャイアントトードの身体に突き刺さった。HPが四割も削れる。そこで赤ゲージに染まるので、私も本領を発揮出来る。

「【ラピッドファイア】」

 短剣を持つ手が、高速で動く。これを制御しようとすると、途中で終わってしまうので、このまま動くままにさせる。
 これは、自分から止めなければ、計二十回斬るまで止まらない。一撃一撃は、通常の攻撃と同じ威力だけど、連続で攻撃出来るのは良い。ジャイアントトードのHPが一割以下まで削れる。これで削り切りたかったけど、今の私じゃまだ無理みたい。

「【サンダージャベリン】」

 ジャイアントトードの頭に雷が飛んでいって、HPを削り切り、ジャイアントトードがポリゴンに変わった。目の前にドロップアイテムのウィンドウが出てくる。落ちたのは、ジャイアントトードの皮、ジャイアントトードの舌、ジャイアントトードの毒袋、ジャイアントトードの毒血、ジャイアントトードの核が落ちた。
 次いで、ジャイアントトードを倒した称号が貰える。

『ジャイアントトードを討伐しました。称号【巨大蛙を狩る者】を獲得しました』

────────────────────────

【巨大蛙を狩る者】:蛙系モンスターとの戦闘時、攻撃力が一・五倍になる

────────────────────────

 蛙系モンスターとの戦闘が、ちょっと楽になりそう。ここまで二種類も見ているから、他にもいそうだし、ゴリラより役に立つかな。
 でも、私は、称号よりも気になるものがあった。

「毒血だ」
「安易に飲むなよ? 毒になるかもしれないからな。毒消しを用意してからにしろ」
「うん」
「ハクちゃん、大丈夫? ダメージはないけど……」

 アク姉は、私を心配して周りをくるくると回り始める。ゲーム内だから、余程派手な傷でもない限り傷は残らないのだけど、それでもアク姉は心配だから、身体全体を見ていた。

「うん。大丈夫。アク姉の魔法って凄いね。あんなに自由に出来るものなの?」

 アク姉の魔法は、結構自由が利くように見えた。魔法使わない私だから、そう見えたのかもだけど。

「う~ん……拘束系は、ある程度出来るかな。攻撃魔法は、そこまで自由は利かないかな」
「ふ~ん、そうなんだ」
「魔法始める?」
「支援魔法だけで良いや。フレ姉、私の戦い方どうだった?」

 同じ近接戦を主とするフレ姉に自分の戦い方を見て、どう思ったか訊いてみた。話が終わった寂しさからか、後ろからアク姉に拘束されるけど、フレ姉と話すだけなので、されるがままにしておく。

「あの高速移動は魅力的だな。地面が凍っていなければ、急ブレーキも上手く出来るんだろ?」
「うん。沼だったら、ギリギリ止まれるけど、氷は無理みたい。アク姉のおかげで意図せず検証出来た」
「そうだな……恐らくだが、アクアのレベルが高いからというのもあるだろう。スパイクがある靴でも踏み抜けないみたいだからな」
「あっ、そういえばそうだった」

 今の私の靴はスパイクが付いているので、氷を掴む事も出来たかもしれない。でも、実際には、踏ん張りは利かなかった。そこから、アク姉とのレベル差から、氷に踏み込む事が出来なかったと考えられる。

「う~ん、じゃあ、普通に凍っている場所だったら、氷も掴める?」
「私は、そう考えたけどな。普通に厄介ではあるから、どんな環境でも使える方が良いだろう。ただ、懸念で言えば、少し直線的過ぎる部分はあるな。読まれれば、カウンターを食らわされるだろう。私は出来る」
「……確かに」

 私も直線的に動きすぎるとは思っていた。そして、カウンターに関しては、フレ姉なら出来るという事も納得だ。

「途中で軌道を変える?」
「そんな曲芸めいた事出来るの?」
「フレ姉が持ってる【蹴り】で、空中を蹴る事って出来ない?」
「出来ねぇな。まだスキルレベルが低いからかもしれねぇがな」

 フレ姉から指摘された部分は、ちゃんと気にしないといけない部分なので、私も解決法を探ろうと思った。

「図書館に何かあるかな?」
「何もなさそう」

 今持っているスキルの中に解決出来るものはないから、唯一の例外である【言語学】から情報を得られるかもって思って言ったら、アク姉がそう呟いた。アク姉の胸のせいでうまく表情が見られないけど、多分遠い目をしていると思う。

「まぁ、私達には無理だな。一時間いられねぇ」
「うんうん。メイティに連れて行かれて、レベル上げをさせられるけどさ。すぐに、帰りたくなるもん」
「勉強出来るのに……」
「勉強出来るのと図書館嫌いは別だもん。これからどうする? そろそろ夜明けだけど」

 ボスも倒して、目的は完了した。後は、夜明けに何をするかとなる。

「私の部屋で騒ぐか。アカリ呼べるか?」
「一応、ログインしてるから呼べると思う」
「なら、そうしてくれ。せっかくだからな」
「うん」

 私達は、フレ姉の部屋に向かった。アカリにも連絡したので、家の前で落ち合う事になっている。
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