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吸血少女の歩む道
新しい街と迷惑プレイヤー
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街の中に入ると、白い壁で覆われた家々が並んでいた。ファーストタウンのような感じもするけど、色が単色なので印象が違う。
「取り敢えず、中央に行ってみよ」
ファーストタウンは、街の中央に広場があったので、この街も同じだろうと判断して中央に向かっていった。すると、本当に広場があったので、ちょっと驚いた。
『ウェットタウンへの転移が可能になりました。街の広場から転移が可能になります』
街から街に転移が可能になったので、態々森を抜ける必要がなくなった。これは結構有り難いかも。
「これで湿地帯の探索が進むかも。日中は、ここかファーストタウンの平原で【吸血鬼】のレベル上げしよっと。もしかしたら、スライムやホワイトラビットからも新しいスキルを手に入れられるかもしれないし」
取り敢えずの方針が決まったところで、地図の掲示板を見に行く。この街は、四角形になっているらしい。四つの区画で分けているみたいな感じかな。
「この街では、何が出来るんだろう? フレ姉かアク姉が起きてないかな?」
十四時近くなので、二人がログインしていてもおかしくはない。二人ともゲーム好きだし、休日にはログインしていると思うので、フレンド欄を見る。すると、二人とも起きていたので、アク姉に通話を掛ける。
『もしも~し、ハクちゃんの大好きなお姉ちゃんだよ~』
「湿地帯の街って、何か出来る事ある?」
いつものアク姉なので軽く流して、本題を訊く。
『ウェットタウンかぁ。そこだとあまりないかな。クエストが受けられるくらいかな。南のジャングルの先にある街だとちょっとしたアトラクションがあるけどね』
アク姉もスルーされ慣れているからか、すんなりと本題に答えてくれた。
「クエストって何?」
『簡単な討伐クエストと採取クエストだね。普通に湿地帯にいるモンスターを討伐するのと果物とかの植物採取のクエストだよ』
「へぇ~」
『でも、旨みはないよ。お金も普通に素材を売るのに、プラスαがあるくらいで、そのプラスαも一万くらいだから』
「確かに、美味しいって感じではないね。それってやる人いるの?」
『いるいる。実は、討伐クエストの方で、レアモンスターに遭遇する可能性が高まるって噂があるんだ。だから、結構受ける人いるよ。あくまで噂だから、私達は受けてないけどね』
「ふ~ん」
メリットというには、ちょっとだけ薄い気もするけど、ブラックレオパルドのようなレアモンスターと遭遇出来る可能性が高くなるって聞いたら、ちょっと試したくなるのも分かる。
『因みに、湿地帯のレアモンスターは、マッドゴーレムって言って、マッドパペットの超強力版みたいな敵だよ』
名前だけ聞くと、巨大なマッドパペットが思い付くけど、実際どんな感じなのか気になる。
「強い?」
『核が奥深くにあるからね。近接戦主体のハクちゃんだと厳しいんじゃないかな? 相手の身体を大きく削って、泥沼に行かせないように戦う必要があるよ。ここら辺はマッドパペットと同じだね』
「そうなんだ。結構苦戦しそう。さすがに、マッドパペットを吸血しようなんて思えないしなぁ」
スライムと同じ理論でいけば、飲めない事はない。でも、かなりの量を飲まないといけなさそうなのと、そもそも泥を飲むという事が嫌だと思ってしまうので、やってみようとは思わなかった。
『あまり身体に悪い物を食べちゃ駄目だよ?』
「身体に悪そうな物を食べさせてくるアク姉には言われたくない」
『うぐっ! でも、栄養バランス的には良いはずだし……残念なのは、味だけだし……』
「取り敢えず、教えてくれてありがとう。またね」
『あ、ちょっと待って。一応、報告しておくね。アカリエの周りだけど、取り敢えず怪しい人物はなし。嫌がらせを画策してそうな人も近くには見当たらないみたい』
昨日報告した時の返信に書いてあった通り、アク姉のパーティーもアカリエを見に行ってくれたみたい。
「分かった。アカリも不用意に外には出ないだろうから、大丈夫だと思う。ごめんね」
『ハクちゃんとアカリちゃんが気にする事じゃないよ。迷惑行為をしてくるプレイヤーが悪いんだから』
「……ありがとう。じゃあ、もう切るね。この街も安全って訳じゃないだろうし」
『……うん。分かった』
そこでアク姉との通話を切る。そして、ゆっくりと背後を振り返った。
「私に何か用?」
私が振り返った先にいたのは、ログイン初日とイベントで会った迷惑プレイヤー三人組だった。
「お前に復讐しないと、俺達の気が済まないんだよ!」
「復讐も何も、私は、あなた達に何もしてないけど。パーティー勧誘を断ったのが、そんなに不満? そんなに私に固執されると本当に気持ち悪いんだけど」
「お前のせいで、パーティー勧誘が失敗続きになって、ようやく入ってくれた奴も抜けちまったんだよ!!」
「それに、PvPで一方的にボコられて、笑いものにされたんだぞ!」
私を無理矢理加入させようとして、チュートリアルの場所で騒いだのはあっちだし、イベントで勝手に因縁付けて関係ない仲間を巻き込んだもあっちだ。PvPも互いに承諾した結果のはず。
動機も何もかも馬鹿すぎて呆れてしまう。ゲームをプレイする上で、そういうプレイヤーもいる事は知っているけど、実際に見ると、怒りなどよりも呆れが先行してしまう。
「自業自得でしょ……そうやって、何もかも他人のせいにしか出来ないの? ゲーム向いてないんじゃない? やめたら?」
取り敢えず、思った事をそのまま伝えた。迷惑プレイヤー達は、それぞれの武器を構えてきた。
「ここが街の中だって忘れたの?」
「はっ! ダメージは通らなくても、武器の当たり判定はあるんだよ!」
「これで、お前に復讐してやる!」
つまり、痛めつけてログイン出来ないトラウマを刻んでやるって事だと思う。言っている事のやばさに気付いていないみたいだ。冷静に考えれば、自分達の首を絞める行為だと理解出来るはずだけど、そんな事も出来ないくらい血が上っているみたい。
ここで戦闘すると、私も迷惑プレイヤーの一人に数えられてしまうかもしれないので、普通に逃げる事にした。
「なっ!? 逃げるな!!」
馬鹿の言う事を無視して走り続ける。向こうも【速度強化】を持っていると思うけど、私には【脚力強化】もあるので、向こうよりも早く走れる。ただ、あまり複雑ではない街なので、追い掛けられ続ける事になる。
「もうちょっと立体に移動してみようかな」
ぐっと一秒溜めて、近くの建物の上に移動する。
「おい! さっさと降りてこい!」
あの口振りから、ここに登る術がないみたい。今の内に、メニュー画面から通報をしておく。相手は、片手剣、短槍、両手剣なので、遠距離攻撃が出来ず、下で喚いている。通報の仕方は、通報ボタンを押して、相手の事をスクショするというものだった。そのスクショは、自分のところに保存されるのでは無く、そのまま運営に送られる仕組みらしい。
運営は、スクショの中から相手の情報を読み取る事が出来るのだと思う。
「さてと、面倒くさいなぁ」
このまま運営が何かしてくれるのを待つのも有りだけど、せっかくの休日の時間をこんな事で消費したくない。
少し苛々としてきたところで、アク姉から通話が掛かってきた。
『ハクちゃん。今、ハクちゃんのいる家の後ろ側にいるよ。パーティーで来て、皆で通報しておいたから、姉さんとハクちゃんの通報も合わせて考えてくれると思う。そのまま降りてこられる?』
「うん。分かった」
私は、家の裏側に向かって落ちる。
「おい! 待て!」
そんな声が聞こえるけど、すぐに家の裏に来たので、聞こえなくなる。後ろに倒れるように落ちたので、着地をするために反転しようとする前に受け止められた。受け止めてくれたのは、アク姉ではない。
「大丈夫か?」
ロングの茶髪を首元でまとめた女性が見えた。その人には、私も見覚えがないのにある。アク姉のパーティーメンバーのサツキさんだ。基本的に前衛のアタッカーで、基本的に両手剣を使っている。今も背中に背負っている。
「ありがとうございます。サツキさん」
「気にしなくて良い。移動する」
サツキさんにお姫様抱っこされながら移動する。後ろから見ているアク姉が怨嗟の表情をしているけど、構っているような状況ではないので、放置する。
「どこに行くんですか? 外に出たら、危険ですよね?」
「街の中に隠れられる場所がある。そこまで移動する」
そうしてサツキさんに運ばれてきた場所は、何の変哲もない家だった。
「勝手に入って良いんですか?」
「大丈夫。検証は済ませた。内見が出来る家という感じだから、誰でも入れる。ただ、その事はあまり知られてないから、こういうところで使える」
「なるほど」
それなら隠れるのにうってつけではある。相手が知ってなければだけど。
「うん。うん。オッケー。ここはバレてないっぽい」
アク姉は、他のパーティーメンバーと通話して、相手の動きを確認していたみたい。
「てか、サツキは、いつまでハクちゃんを抱っこしてるの!?」
「じゃあ、返すわ」
そう言ってサツキさんは、私をアク姉に投げ渡した。アク姉は、慌てて私を受け止める。直後に、アク姉から頭を撫でられる。
「ハクちゃん、怖かったよね……」
「いや、別に。面倒くさくはあったけど」
「まぁ、あそこまで粘着してくるプレイヤーは、今時珍しいプレイヤーよな。まぁ、アカリエとこの件があるから、BANの条件は満たしているだろう。ハクちゃんも安心して良いと思うぞ」
サツキさんがそう言ったところで、アク姉がピクッと身体を動かした。
「BANが実行されたみたい。三人同時に消えたって」
「まぁ、当然の措置だな。別アカウントで入ってくる可能性は否定しきれないから、そこだけは気を付けるように」
「は~い」
「姉さんにも連絡しとく。皆、ありがとうね」
アク姉がメンバーとの通話を切って、フレ姉に連絡し始めた。
「あっ、私もアカリに連絡しとく」
アカリに通話を掛ける。
『もしもし』
「もしもし、アカリ? この前の人達BANされたから安心して良いよ」
『そうなの? 良かったぁ……でも、BANされたって、ハクちゃんが言うって事は、絡まれたの?』
「うん。アク姉のパーティーが助けてくれたから、無事。街の中で戦闘しようとしてきたから、通報してそのままって感じ。多分、もう大丈夫だよ」
『ありがとう』
「ううん。トラブルがあったら、いつでも言ってね」
『うん』
アカリの声は、少し明るいものになっていた。アカリが元気になってくれたなら、私も嬉しい。
「それじゃあ、今日時間あったらアカリエに寄るから」
『うん。待ってる』
「それじゃあね」
『うん。またね』
アカリとの通話を切るのとアク姉がフレ姉との通話を切るのは同時だった。
「姉さんが、少し間アカリエにいてくれるってさ。別アカウントでログインしてきた事を考慮するってさ」
「なら、安心かなぁ。はぁ~、良かった」
アカリにも迷惑を掛けてしまった迷惑プレイヤーの騒動も、これでひとまず終わりを迎えた。呆気ない終わりだけど、何か大きな問題が出てからじゃ遅いから、こんな終わり方で良かった。
「取り敢えず、中央に行ってみよ」
ファーストタウンは、街の中央に広場があったので、この街も同じだろうと判断して中央に向かっていった。すると、本当に広場があったので、ちょっと驚いた。
『ウェットタウンへの転移が可能になりました。街の広場から転移が可能になります』
街から街に転移が可能になったので、態々森を抜ける必要がなくなった。これは結構有り難いかも。
「これで湿地帯の探索が進むかも。日中は、ここかファーストタウンの平原で【吸血鬼】のレベル上げしよっと。もしかしたら、スライムやホワイトラビットからも新しいスキルを手に入れられるかもしれないし」
取り敢えずの方針が決まったところで、地図の掲示板を見に行く。この街は、四角形になっているらしい。四つの区画で分けているみたいな感じかな。
「この街では、何が出来るんだろう? フレ姉かアク姉が起きてないかな?」
十四時近くなので、二人がログインしていてもおかしくはない。二人ともゲーム好きだし、休日にはログインしていると思うので、フレンド欄を見る。すると、二人とも起きていたので、アク姉に通話を掛ける。
『もしも~し、ハクちゃんの大好きなお姉ちゃんだよ~』
「湿地帯の街って、何か出来る事ある?」
いつものアク姉なので軽く流して、本題を訊く。
『ウェットタウンかぁ。そこだとあまりないかな。クエストが受けられるくらいかな。南のジャングルの先にある街だとちょっとしたアトラクションがあるけどね』
アク姉もスルーされ慣れているからか、すんなりと本題に答えてくれた。
「クエストって何?」
『簡単な討伐クエストと採取クエストだね。普通に湿地帯にいるモンスターを討伐するのと果物とかの植物採取のクエストだよ』
「へぇ~」
『でも、旨みはないよ。お金も普通に素材を売るのに、プラスαがあるくらいで、そのプラスαも一万くらいだから』
「確かに、美味しいって感じではないね。それってやる人いるの?」
『いるいる。実は、討伐クエストの方で、レアモンスターに遭遇する可能性が高まるって噂があるんだ。だから、結構受ける人いるよ。あくまで噂だから、私達は受けてないけどね』
「ふ~ん」
メリットというには、ちょっとだけ薄い気もするけど、ブラックレオパルドのようなレアモンスターと遭遇出来る可能性が高くなるって聞いたら、ちょっと試したくなるのも分かる。
『因みに、湿地帯のレアモンスターは、マッドゴーレムって言って、マッドパペットの超強力版みたいな敵だよ』
名前だけ聞くと、巨大なマッドパペットが思い付くけど、実際どんな感じなのか気になる。
「強い?」
『核が奥深くにあるからね。近接戦主体のハクちゃんだと厳しいんじゃないかな? 相手の身体を大きく削って、泥沼に行かせないように戦う必要があるよ。ここら辺はマッドパペットと同じだね』
「そうなんだ。結構苦戦しそう。さすがに、マッドパペットを吸血しようなんて思えないしなぁ」
スライムと同じ理論でいけば、飲めない事はない。でも、かなりの量を飲まないといけなさそうなのと、そもそも泥を飲むという事が嫌だと思ってしまうので、やってみようとは思わなかった。
『あまり身体に悪い物を食べちゃ駄目だよ?』
「身体に悪そうな物を食べさせてくるアク姉には言われたくない」
『うぐっ! でも、栄養バランス的には良いはずだし……残念なのは、味だけだし……』
「取り敢えず、教えてくれてありがとう。またね」
『あ、ちょっと待って。一応、報告しておくね。アカリエの周りだけど、取り敢えず怪しい人物はなし。嫌がらせを画策してそうな人も近くには見当たらないみたい』
昨日報告した時の返信に書いてあった通り、アク姉のパーティーもアカリエを見に行ってくれたみたい。
「分かった。アカリも不用意に外には出ないだろうから、大丈夫だと思う。ごめんね」
『ハクちゃんとアカリちゃんが気にする事じゃないよ。迷惑行為をしてくるプレイヤーが悪いんだから』
「……ありがとう。じゃあ、もう切るね。この街も安全って訳じゃないだろうし」
『……うん。分かった』
そこでアク姉との通話を切る。そして、ゆっくりと背後を振り返った。
「私に何か用?」
私が振り返った先にいたのは、ログイン初日とイベントで会った迷惑プレイヤー三人組だった。
「お前に復讐しないと、俺達の気が済まないんだよ!」
「復讐も何も、私は、あなた達に何もしてないけど。パーティー勧誘を断ったのが、そんなに不満? そんなに私に固執されると本当に気持ち悪いんだけど」
「お前のせいで、パーティー勧誘が失敗続きになって、ようやく入ってくれた奴も抜けちまったんだよ!!」
「それに、PvPで一方的にボコられて、笑いものにされたんだぞ!」
私を無理矢理加入させようとして、チュートリアルの場所で騒いだのはあっちだし、イベントで勝手に因縁付けて関係ない仲間を巻き込んだもあっちだ。PvPも互いに承諾した結果のはず。
動機も何もかも馬鹿すぎて呆れてしまう。ゲームをプレイする上で、そういうプレイヤーもいる事は知っているけど、実際に見ると、怒りなどよりも呆れが先行してしまう。
「自業自得でしょ……そうやって、何もかも他人のせいにしか出来ないの? ゲーム向いてないんじゃない? やめたら?」
取り敢えず、思った事をそのまま伝えた。迷惑プレイヤー達は、それぞれの武器を構えてきた。
「ここが街の中だって忘れたの?」
「はっ! ダメージは通らなくても、武器の当たり判定はあるんだよ!」
「これで、お前に復讐してやる!」
つまり、痛めつけてログイン出来ないトラウマを刻んでやるって事だと思う。言っている事のやばさに気付いていないみたいだ。冷静に考えれば、自分達の首を絞める行為だと理解出来るはずだけど、そんな事も出来ないくらい血が上っているみたい。
ここで戦闘すると、私も迷惑プレイヤーの一人に数えられてしまうかもしれないので、普通に逃げる事にした。
「なっ!? 逃げるな!!」
馬鹿の言う事を無視して走り続ける。向こうも【速度強化】を持っていると思うけど、私には【脚力強化】もあるので、向こうよりも早く走れる。ただ、あまり複雑ではない街なので、追い掛けられ続ける事になる。
「もうちょっと立体に移動してみようかな」
ぐっと一秒溜めて、近くの建物の上に移動する。
「おい! さっさと降りてこい!」
あの口振りから、ここに登る術がないみたい。今の内に、メニュー画面から通報をしておく。相手は、片手剣、短槍、両手剣なので、遠距離攻撃が出来ず、下で喚いている。通報の仕方は、通報ボタンを押して、相手の事をスクショするというものだった。そのスクショは、自分のところに保存されるのでは無く、そのまま運営に送られる仕組みらしい。
運営は、スクショの中から相手の情報を読み取る事が出来るのだと思う。
「さてと、面倒くさいなぁ」
このまま運営が何かしてくれるのを待つのも有りだけど、せっかくの休日の時間をこんな事で消費したくない。
少し苛々としてきたところで、アク姉から通話が掛かってきた。
『ハクちゃん。今、ハクちゃんのいる家の後ろ側にいるよ。パーティーで来て、皆で通報しておいたから、姉さんとハクちゃんの通報も合わせて考えてくれると思う。そのまま降りてこられる?』
「うん。分かった」
私は、家の裏側に向かって落ちる。
「おい! 待て!」
そんな声が聞こえるけど、すぐに家の裏に来たので、聞こえなくなる。後ろに倒れるように落ちたので、着地をするために反転しようとする前に受け止められた。受け止めてくれたのは、アク姉ではない。
「大丈夫か?」
ロングの茶髪を首元でまとめた女性が見えた。その人には、私も見覚えがないのにある。アク姉のパーティーメンバーのサツキさんだ。基本的に前衛のアタッカーで、基本的に両手剣を使っている。今も背中に背負っている。
「ありがとうございます。サツキさん」
「気にしなくて良い。移動する」
サツキさんにお姫様抱っこされながら移動する。後ろから見ているアク姉が怨嗟の表情をしているけど、構っているような状況ではないので、放置する。
「どこに行くんですか? 外に出たら、危険ですよね?」
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そうしてサツキさんに運ばれてきた場所は、何の変哲もない家だった。
「勝手に入って良いんですか?」
「大丈夫。検証は済ませた。内見が出来る家という感じだから、誰でも入れる。ただ、その事はあまり知られてないから、こういうところで使える」
「なるほど」
それなら隠れるのにうってつけではある。相手が知ってなければだけど。
「うん。うん。オッケー。ここはバレてないっぽい」
アク姉は、他のパーティーメンバーと通話して、相手の動きを確認していたみたい。
「てか、サツキは、いつまでハクちゃんを抱っこしてるの!?」
「じゃあ、返すわ」
そう言ってサツキさんは、私をアク姉に投げ渡した。アク姉は、慌てて私を受け止める。直後に、アク姉から頭を撫でられる。
「ハクちゃん、怖かったよね……」
「いや、別に。面倒くさくはあったけど」
「まぁ、あそこまで粘着してくるプレイヤーは、今時珍しいプレイヤーよな。まぁ、アカリエとこの件があるから、BANの条件は満たしているだろう。ハクちゃんも安心して良いと思うぞ」
サツキさんがそう言ったところで、アク姉がピクッと身体を動かした。
「BANが実行されたみたい。三人同時に消えたって」
「まぁ、当然の措置だな。別アカウントで入ってくる可能性は否定しきれないから、そこだけは気を付けるように」
「は~い」
「姉さんにも連絡しとく。皆、ありがとうね」
アク姉がメンバーとの通話を切って、フレ姉に連絡し始めた。
「あっ、私もアカリに連絡しとく」
アカリに通話を掛ける。
『もしもし』
「もしもし、アカリ? この前の人達BANされたから安心して良いよ」
『そうなの? 良かったぁ……でも、BANされたって、ハクちゃんが言うって事は、絡まれたの?』
「うん。アク姉のパーティーが助けてくれたから、無事。街の中で戦闘しようとしてきたから、通報してそのままって感じ。多分、もう大丈夫だよ」
『ありがとう』
「ううん。トラブルがあったら、いつでも言ってね」
『うん』
アカリの声は、少し明るいものになっていた。アカリが元気になってくれたなら、私も嬉しい。
「それじゃあ、今日時間あったらアカリエに寄るから」
『うん。待ってる』
「それじゃあね」
『うん。またね』
アカリとの通話を切るのとアク姉がフレ姉との通話を切るのは同時だった。
「姉さんが、少し間アカリエにいてくれるってさ。別アカウントでログインしてきた事を考慮するってさ」
「なら、安心かなぁ。はぁ~、良かった」
アカリにも迷惑を掛けてしまった迷惑プレイヤーの騒動も、これでひとまず終わりを迎えた。呆気ない終わりだけど、何か大きな問題が出てからじゃ遅いから、こんな終わり方で良かった。
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