上 下
35 / 429
吸血少女の歩む道

嫌な事

しおりを挟む
 日傘を受け取ったアカリは、それを自分のアイテム欄に入れる。そうして、私の事を見てくる。

「というわけで、ちょっと元気補充したい」

 アカリはそう言って、私の方に両手を向けてくる。アカリは、本当に時々アク姉みたいになる。頻度で言えば、極度に疲れた時とか嫌な事があった時くらいだから、一ヶ月に一回あったら多いって感じだ。注文とかが多かったのか、毎日忙しかったからなのか、私には分からないけど。
 取り敢えず、アカリに色々と頼んでいるのは私なので、大人しく言う事を聞いておく事にした。正面からアカリを抱きしめるとアカリからも手を背に回される。
 そのまま引っ張られるので、アカリの膝の上に乗る形になる。結果、アカリが私の胸に顔を突っ込む事になるけど、特に気にする事でもないので、そのままアカリが満足するまでそうさせる。

「何か変な客が来てさ。他のプレイヤーを優遇してるだろとか、何かよく分からない事を喚いてたの。面倒くさくて、裏にずっといたんだけどさ。全然いなくならなくて。最終的に、フレイさんが、叩きだしてくれたの」
「ああ、フレ姉が来てくれたんだ。良かった」

 アカリが消耗している理由が、迷惑客だったと聞いてちょっと心配になったけど、フレ姉が来てくれたのであれば、その場では解決したと考えて良いと思う。これからは心配だけど。

「でも、何でそんなクレーマーが来たの?」
「何かハクちゃんが気にくわない人がいるみたい」
「あぁ~……悪目立ちしてるからなぁ……ごめんね」
「ううん。ハクちゃんが悪くないのは、分かってるから良いよ。あそこまで怒鳴られてたのは初めてで、びっくりしちゃって……」

 知らない人が店内で騒いでいたら怖くなるのは、普通の事だと私も思う。そして、私を標的に色々言ってくる人には、不本意だけど心当たりがある。正直、私が原因って言われると意味が分からないって感じてしまうけど。
 取り敢えず、アカリの頭を優しく撫でる。私のせいでアカリが不快な思いをしてしまったので、私が慰めるのは当然のことだ。

「迷惑行為が多いし、早くBANしてくれると良いんだけどね」
「BANとかあるかな?」
「普通はあるでしょ。あそこまで迷惑な人の行為を放置するなんて、運営としてあり得ないと思うし」
「はぁ……久しぶりにプレイヤーのせいで不快な思いをしたなぁ。ここ最近は、人に恵まれてたって事かな」
「絶対違うと思う。ああいった馬鹿の方が珍しいし。最近じゃ、あそこまでの馬鹿はそうそういないよ」

 VRMMO内での迷惑行為は、随分前に問題視され、BANなどの対策が為される事になっている。通報すればすぐに対処してくれる訳では無く、その後にプレイヤーの動向を監視して、実際に迷惑行為が認められれば、BANなどの対策が取られる。
 プレイ人口が減るという懸念もあってか、BAN措置自体は、最終手段として使われる事がほとんどだ。最初は、注意から始まる。それでも止めないプレイヤーが対象となる。
 一つアカウントに一つのアバターで登録しているので、同一アカウントで新しいキャラを作る事は出来ない。これが、基本的なVRMMOのBAN措置だ。
 新しいアカウントを作ってくる可能性は否定出来ないけど、今まで育てていたアバターが消されるのは、かなり辛い。そこから続ける人は、そこまで多くない。
 恐らく、今回アカリエに迷惑行為をしに来た人は、私がパーティー勧誘を断って、イベントで倒した人達の誰かもしくは全員だと思われる。
 徹底的に打ちのめしてやりたいけど、私が出張れば、余計に拗れる可能性がある。それは、フレ姉達も同じだけど。
 だから、運営に連絡した後は、対処を待つしかない。フレ姉達にも、しっかりと言い聞かせておかないと。
 念のため、フレンド通信のメッセージ機能を使い、二人に連絡しておく。これくらいなら、片手でも簡単に操作出来る。メッセージを送ったら、すぐにフレ姉から返信が来た。

『了解。敵は三人組だった。あの時の奴も混じっていたから、ハクが目的だろう。PvPで叩きのめしておいたから、しばらくは、アカリエに近づかないとは思う。運営には連絡済みだ。一週間は様子見した方が良い。アカリには、なるべく一人にならないか店の裏に引き籠もっているように言っておいてくれ。一週間経っても改善していないようだったら、また運営に連絡する。それと、このゲームでもPK自体は出来る。ハクも気を付けろ』

 フレ姉は、アカリエに来た人達を本当にボコボコにしたみたい。PvPは申請制みたいだから、互いに了承しないと始まらない。フレ姉がボコボコに出来たという事は、あの人達も受け入れたという事だから、迷惑行為には引っ掛からない。
 それにしっかりと運営に通報もしてくれていた。フレ姉の判断や行動は、結構早い。これで解決してくれると良いけど。
 フレ姉の少し後に、アク姉からも返信が来た。

『分かったよ。どういう人か分からないから、私からは何も出来ないと思う。ごめんね。一応、皆にも伝えて、アカリエ周辺に気を配ってもらうようにしとくよ。アカリちゃんに、外への用事があったら、私とか姉さんも頼るように伝えておいてくれる? 代理で出来る事は私達でもやるからって。それとハクちゃんも十分に気を付けてね。PKの被害にあったプレイヤーもいるみたいだから。因みに、PKにメリットは、ほぼないよ。所持金の一部を貰えるくらい。それも千単位くらいだったかな。それでもやりたい人はやるから。度が過ぎれば、迷惑行為に認定されるかもだけど、普通に被害にあっただけだと迷惑行為に当てはまらないから』

 アク姉のパーティーメンバーもアカリエに気を配ってくれるみたい。がっちり守るわけじゃないけど、見てくれる人が増えるだけでも有り難いと思う。
 それに、アク姉からはPKについて少し詳しく伝えられていた。PKのメリットは、ほんの数千G。普通にモンスターを狩って、素材を売った方が遙かに儲けられるので、本当にメリットは薄い。やる意味があるのかどうかも分からないくらいだ。
 運営としては、PKは楽しみ方として認めるけど、あまり推奨はしないみたいな感じなのかもしれない。

「フレ姉がもう通報してくれたってさ。それに、アク姉のパーティーも気に掛けてくれるって。もしかしたら、フレ姉のギルメンも気に掛けてくれるかもよ、それと何か欲しいものとかがあったら、言って欲しいってさ。アカリの安全が確保出来るまでは、持ってきてくれるみたい」
「うん……ありがとう……」

 アカリの声には元気がない。二人にも迷惑を掛けてしまっていると思っているのだと思う。

「もう。アカリのせいじゃないんだから、元気だしなよ。いつものアカリの方が、私は好きだよ」

 私がそう言うと、アカリが私の事をぎゅっと締めてくる。喜んでくれている証拠だ。ちょっとすると、アカリが私を放す。

「ありがとう、ハクちゃん」
「良いって。可愛いアカリも見られたし」
「もう……」

 アカリは少し恥ずかしそうにしながら、そっぽを向く。そんなアカリのほっぺをつんつんと突っついていたら、指先を噛まれた。噛み付きでも攻撃判定があるのは、私がよく分かっている。
 まぁ、街の中だから、ダメージ判定はない。でも、何か口の中的な感覚はする。

「私が噛んだ時も、舌とかの感触した?」
「あまりしなかったけど。そもそも舐めてはないでしょ?」
「確かに。じゃあ、ちょっと噛んでみて良い?」
「えぇ~……まぁ、良いけど」

 アカリから許可を貰ったので、アカリの首元に噛み付く。街の中だからか、魔力の牙は出なかった。なので、ただただ噛み付いただけになる。

「ほお?」
「ただ噛まれてる感じ。舌の感触もあるよ」
「やっぱり? 現実っぽい?」
「ちょっと違和感はあるけどね」

 感触を完璧に再現している訳では無さそう。変な検証をしちゃったけど、ちょっと面白かった。

「もうそろそろログアウトしようかな。アカリは?」
「私も。そろそろご飯だし」
「それじゃあ、またね」
「うん。またね」

 アカリと別れて、ログアウトする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

転生者、万能宇宙戦艦もらって無双する

手跡那舞
SF
転生者は、転生特典に万能宇宙戦艦を要求した。そんな宇宙戦艦をもらい、管理しながら、各地で暴れる物語である。

Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡〜

虚妄公
SF
新月流当主の息子である龍谷真一は新月流の当主になるため日々の修練に励んでいた。 新月流の当主になれるのは当代最強の者のみ。 新月流は超実戦派の武術集団である。 その中で、齢16歳の真一は同年代の門下生の中では他の追随を許さぬほどの強さを誇っていたが現在在籍している師範8人のうち1人を除いて誰にも勝つことができず新月流内の順位は8位であった。 新月流では18歳で成人の儀があり、そこで初めて実戦経験を経て一人前になるのである。 そこで真一は師範に勝てないのは実戦経験が乏しいからだと考え、命を削るような戦いを求めていた。 そんなときに同じ門下生の凛にVRMMORPG『Recreation World』通称リクルドを勧められその世界に入っていくのである。 だがそのゲームはただのゲームではなく3人の天才によるある思惑が絡んでいた。 そして真一は気付かぬままに戻ることができぬ歯車に巻き込まれていくのである・・・ ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも先行投稿しております。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...