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吸血少女の歩む道

みんなで【吸血】検証

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 昨日入学式を終えた私は、ワンオンにログインしていた。今日は、皆で時間を合わせて、【吸血】の検証を行う日になっている。南の平原エリアに来たのは、私、アカリ、フレ姉、アク姉の四人だ。

「そんじゃあ、ハクのスキル検証といくか。前と同じ状況で確かめるために、アクアには、シャワーを浴びて貰った。浴びたよな?」
「勿論! 姉さんじゃないんだから……痛たたた! 減ってる! ここ外だから減ってる!!」
「血でも飲んで回復しろ」
「私! 【吸血】! ない!」

 いつもの姉妹喧嘩をアカリは慣れたように見ていた。実際、何度も見ているので、慣れてはいる。ちなみに、あれから少しレベルも上がった。

────────────────────────

ハク:【剣Lv25】【短剣Lv20】【格闘Lv8】【魔法才能Lv5】【支援魔法才能Lv4】【吸血Lv28】【夜霧Lv6】【執行者Lv20】
控え:【HP強化Lv19】【物理攻撃強化Lv17】【速度強化Lv18】【脚力強化Lv28】【言語学Lv5】
SP:29

────────────────────────

 控えの方に強化系と普段使いしないスキルを移動しておいた。少しずつお試しで使っている感じだから、まだ大きく育ってはない。この検証をしたら、次のエリアに向かうつもりなので、そこで大きくレベルアップさせるつもりだ。

「まずは、私から吸え」
「うん。しゃがんで」

 この中だと、アク姉が、一番背が高いけど、フレ姉もそこそこ高いので飛つかないといけない。

「仕方ねぇな」

 フレ姉が私を抱き上げてくれる。しゃがんでくれるだけで良かったけど、フレ姉もこの方が楽なのかもしれない。正直持ち上げるのもしゃがむのも腰への負担は変わらないと思うけど。
 せっかく抱き上げてくれたので、小さい頃みたいにフレ姉をぎゅっとしつつ魔力の牙を立てる。ちょっと汗臭いような匂いと共に血が口の中に入ってくる。

「フレ姉は美味しくない。それと汗みたいな変な匂いがする」
「ってなると、普通のプレイヤーと一緒ってところか」
「うん」
「それじゃあ、次は私ね。おいで、ハクちゃん」

 そう言って、アク姉がフレ姉から私を回収する。さっきフレ姉にも言った通り、しゃがんでくれるだけで良いんだけど、アク姉のことだから、絶対に降ろしてくれないので、そのままフレ姉と同じように首に噛み付く。
 フレ姉と違い花の香りと血の匂いが混じっていた。嫌なのは、血の味くらいで、やっぱり飲みやすい。

「アク姉のは、花の香りが混じってて、飲みやすかった」
「そうか。なら、最後は、アカリだな」

 アク姉から降りた私は、アカリの元に移動する。

「優しくしてよ?」
「えぇ~……どうやって……?」
「ゆっくりとか?」
「えい!」

 注射を怖がっているみたいなアカリに対して、私は予告無しにいきなり噛み付いた。ちょっとした悪戯心だ。

「ん?!」

 アカリは少し驚いていたけど、あまり痛くなかったからか突き放してくる事はなかった。ただ、こっちがわざとやった事はバレバレなので、アカリから軽くどつかれた。
 アカリの血は、匂いがキツいわけじゃないけど、アク姉のように飲みやすいわけでもなかった。

「何かフレ姉よりマシって感じ。でも、モンスターみたいにドブとか生ゴミみたいな感じは、ほぼほぼないよ」
「総合すると、モンスターよりマシ。エルフは、多少飲みやすい。身体を洗えば、さらに飲みやすいって感じか。プレイヤーに対して、【吸血】を使う事自体が、厳しいって事もあるからな」
「飲みやすい血のプレイヤーは、振りほどかれやすいし返り討ちに遭いやすい。匂いとか味で飲みにくいモンスターは、やりようによっては、簡単に飲める可能性が高いって感じだね」

 フレ姉とアク姉が、検証の結果をまとめてくれた。味や匂い的な意味で、プレイヤーの血が比較的飲みやすいってだけで、人の血だと、凄く美味しいという訳では無い。でも、アク姉みたいに花の匂いとかがすると、本当に有り難い。

「【吸血】は初めて使われたが、採血みたいだったな。貧血の状態異常とかがあったら、少し面白ぇな」
「絶対面白くないから。姉さんみたいに、サイボーグじゃないんだから」
「ここでHP全損するか?」

 フレ姉に脅されたアク姉は、すぐにアカリの後ろに隠れる。

「アクアさん、私を盾にしないで下さいよ」
「フレ姉は、ハクちゃんとアカリちゃんには、暴力振るえないからね。後ろに隠れれば安全!」
「恥ずかしい奴だな」
「何だとう!?」

 フレ姉とアク姉がギャーギャーと騒いでいる間に、アカリの手を取って少し離れる。
「そういえば、靴の調子はどう?」
「ああ、良いよ、これ」

 私はそう言って、自分が履いている靴を見る。そこには、前までのブーツとほぼ同じだけど、脛部分に金属の鋲が付いていて、靴底にも鋲が付いている。おかげで、私の蹴りの威力というかダメージが上がった。これは【格闘】の効果もあるけど、装備による効果もある。打撃ダメージに加えて、鋲による刺突ダメージを与える事が出来るというものだ。本当に刺突ダメージなのかは、ちゃんと判明していないけど、靴を交換して検証したから、装備の効果なのは間違いない。

「石畳を歩く時だけ、ちょっと心配になるけどね」
「削れる事はないから、そこは安心して。現実のスパイクみたいな感じにはならないから。でも、メンテナンスには来てね。出来れば週一で」
「そんな頻度で?」
「うん。ハクちゃんに作ったのが、初めてだから、少し不備もあるかもしれないし、どのくらいの戦闘でどのくらい消耗するのか調べておきたいんだ」
「なるほどね。分かった」

 アカリとそんな話をしていたら、フレ姉とアク姉の言い争いも終わりを迎えたみたい。頭を押えているところを見るに、アク姉が負けたみたいだ。

「【吸血】は、結構興味深いスキルだな。他のスキルも色々な要素が関わってくるんだろうな。私もあいつらと色々検証してみるか」
「姉さん達って、検証が必要そうなスキルなんて持ってるの?」
「どうだろうな。ハクみたいに面白そうなスキルがあったかは覚えてねぇな。お前は、【言語学】があっただろ? 何か分かったか?」
「あははは……」
「使ってねぇな」

 目を泳がせたアク姉が思っていた事を、フレ姉は即座に言い当てた。アク姉は、そこまでガリ勉ってタイプでもないから、図書館に入り浸る事はないらしい。だから、【言語学】は育っていない感じかな。

「私、ちょっとだけ上げたよ!」
「そうか。ハクは偉いな。何か分かったか?」
「【言語学】は、レベルが上がりにくいかな。何度か読んでいるけど、全然育たない」
「読む本によって、得られる経験値が違うのかもな。まぁ、何か分かったら教えてくれ。私も図書館は苦手だ」
「うん。分かった」

 二人とも図書館が苦手だけど、頭は良い。だから、あまり馬鹿には出来ない。

「それじゃあ、私は、ここで抜けるな。今日は定期会があってな」

 フレ姉の言っている定期会は、ギルドの定期報告会の事だ。それぞれのプレイヤーもしくはパーティーのリーダーが、一週間の成果などを報告しに来るというものだ。ギルドとしてやっていく上で、運営金の管理や支給するべきものの選定などを考えるのに必要なことみたい。ソロ専の私には縁がない事だ。同時に、アク姉やアカリにも縁はないと思う。

「私も、そろそろ皆がログインしてくるから、別れるね。ごめんね、一緒にいられなくて」

 アク姉がそう言って抱きしめてくる。別に寂しいとは一言も言ってないのだけど、アク姉は、自分がいなくなると私が寂しがると思っているみたい。
 私としては、最近濃密に絡んでいるので、特に寂しいとは思ってないのだけど。思いっきり抱きしめられて、頬にキスをしてから、ようやく離れた。
 フレ姉とアク姉は、手を振りながら、一緒に街の方へと戻っていった。

「それじゃあ、私は、お店に戻るね。ハクちゃんは?」
「東の森の奥に行く。そこで修行したいし」
「夜だから、心配はないかもだけど、気を付けてね」
「昼の弱さが、あまり実感出来てないけどね」
「まぁ、三割だもんね。最近は、スキルのレベルも上がってるだろうし、あまり実感なくてもおかしくはないかもよ?」
「ちゃんと補えているって事なら、ちょっと有り難いかな。それじゃあ、また会いに行くね」
「うん。またね」

 アカリとも別れて、私は東の森の奥。新しいエリアへと向かった。
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