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吸血少女の始まり

立て続け

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 少し打ちのめされている私の耳に、ここの戦闘音以外の足音が聞こえた。そっちを見ると、フレ姉達を見つけて攻撃しようとしている魔法使いの女性がいた。
 私は、即座にその魔法使いに向かって駆けていく。十メートルを四歩で駆け抜けて、真横から、その魔法使いに噛み付く。

「えっ!?」

 フレ姉達を見ていて、私に気が付かなかったのか、私に噛み付かれて驚愕していた。その間にも【吸血】により、向こうのHPが減って、私のHPが増える。

「な、何!? やめて!」

 首に噛み付いてぶら下がっていた私は、思いっきり突き飛ばされてしまった。片手を失い、もう片方の手には短剣を握っていたという事もあって、突き飛ばし攻撃で身体が離れてしまう。でも、【吸血】は十分に出来たので、HPも八割まで回復している。

「【ファイアボール】!」

 たった一言そう発しただけで、私に向かって火の球が放たれた。これが魔法らしい。確かに、一言で発動出来るのは、結構強いかもしれない。でも、その速さは、そこまででもない。普通に私の脚力で避ける事が出来る速さだった。
 でも、避けられた事に相手は、驚いているみたいだった。でも、すぐに我に返って、また私に魔法を放とうとするけど、その時には私は相手の懐に潜り込んで、そのお腹に足の裏を当てていた。そこから思いっきり力を入れて、蹴り飛ばす。
 【格闘】を持たない私には、そこまでの攻撃力は出せないけど、ノックバックを与える事は出来る。魔法使いは、勢いよく吹き飛んで近くにあった木に背中を打ち付けた。

「けほっ……こほっ……」

 魔法を放とうと空気を吸ったところで、お腹を思いっきり蹴られて背中を強く打ち付けられたので、身体の中にあった空気が出て行った判定を食らったみたい。おかげで、魔法の発動は無効化された。
 その魔法使いに急接近し、その首に短剣を突き刺してから、首元に牙を突き立てた。クリティカル判定の攻撃と【吸血】によるHP吸収で、魔法使いのHPは、すぐになくなった。

「不味っ……」

 二人の戦いに茶々を入れたくなくて倒したけど、結果的に私のHPが完全回復する事になった。まぁ、こっちも狙ってやった事だったけど。

「フレ姉……」

 フレ姉とあの人の戦闘を見ようとしたところで、私の肩に矢が当たる。刺さらなかったのは、アカリが作ってくれた血姫の装具のおかげだろう。夜霧の鎧を材料に使っているだけあって、ある程度までだったら、矢を弾いてくれそうだ。

「もう……! 邪魔!!」

 私は、私を攻撃してきたプレイヤーに向かって、駆け出す。まだ片手は戻って来ていない。それでも、攻撃されるのであれば、倒さないといけない。
 弓を持っているプレイヤーに駆けていくと、その傍にある木から、槍が突き出されてきた。完全に不意を突かれた形だったけど、紙一重で反応が間に合って、頬を浅く斬るだけで済んだ。

「はぁ!? そんなの有りかよ!?」

 槍を持った男の人は、そう喚く。短剣を口に咥えてから、突き出された槍を掴んで、思いっきり引っ張る。槍を突き出した形で止まっていた男の人は、重心を前に置いていたみたいで、そのままこっちによろよろと引っ張られてきた。その脇腹に回し蹴りを叩き込んで、弓持ちの仲間に飛ばす。

「うわっ!?」

 弓を引き絞っていた男の人は、突然飛んできた仲間(?)を受け止めて、攻撃を止める事になった。

「【バックスタブ】」

 こっちに背中を向けている槍を持っていた方に向かって、短剣を突き刺す。力の限り短剣を突き刺して、クリティカル判定を得られる心臓に達させる。HPが赤ゲージに達したところで、【吸血】を使い倒す。

「おえっ……」

 吐き気を堪えて、弓持ちの方の首に短剣を振う。

「ぐっ……このっ!」

 クリティカルダメージを赤ゲージで耐えた弓持ちは、弓で私を叩こうとしてくる。咄嗟の行動としては間違っていないのかもしれないけど、どう考えてもダメージは期待出来ない。冷静に、短剣を首に刺してHPを削り切った。

「ふぅ……」

 一息ついたところに、水の球が飛んできた。咄嗟の防御など間に合わず、地面を転がる事になる。それを利用して、近くの木の裏に隠れて、魔法による攻撃の射線を切る。

「ああ……もう! キレた!」

 私は、メニュー画面を開いて、新しくスキルを取る。イベント中にスキルを取ってはいけないというルールもないので、この行動自体問題はない。でも、スキル収得は慎重にやった方が良いことを考えると、普通はやらない事だった。
 目的のスキルを装備して、魔法を放ってきた相手の方に向かう。まっすぐ向かってくる私を鴨だと思ったのか、にやりと笑いながら男の人が杖を向けてきた。

「【ウォーターボール】!」

 私に向かって飛んでくる水の球を、ギリギリまで引きつけて、スライディングで避ける。そんな避け方をされると思っていなかったのか、魔法使いは、目を見開いていた。さっきから、色々な事を想定していないプレイヤーが多すぎる。VRMMOをやっている人達からしたら、結構ありがちな避け方だから、そこまで驚く事はない。つまり、ワンオンから始めた人達か、あまりやっていなかった人達が多いのかもしれない。
 それなら、色々と都合が良い。驚いている魔法使いに向かって、血染めの短剣を投げつける。頭を狙って投げた短剣は、狙いがズレて、肩に突き刺さった。

「ぐっ……!?」

 この行動も予想していなかったのか、魔法使いは、かなり動揺していた。HPは、まだ八割近く残っているけど、短剣が刺さったなら問題ない。
 魔法使いが短剣を抜こうとしている間に、思いっきり踏み込んで急加速し、そのがら空きの腹に向かって、蹴りを叩き込んだ。
 魔法使いの身体が浮いて、近くの木に叩きつけられる。さっきまでは、これで一割も減らなかった。でも、今は、四割削る事が出来る。
 これが、私が取ったスキルの効果。

────────────────────────

【格闘(ランク1)】:身体の扱いに補正が入る。

────────────────────────

 スキルの効果範囲がどこまでを指しているのか明確じゃないから、ちょっと分かりにくいけど、私の身体のどの部分でも攻撃判定を得る事が出来たのだと思う。つまり、足だけでなく手、頭などに関しても攻撃判定を得られるという事だ。
 これを取った理由は一つ。片腕がない状態でも、敵にダメージをしっかりと与えられるように、足技を強化する事だ。
 木に叩きつけた魔法使いから、血染めの短剣を引き抜いて、その首を斬り裂く。完全にHPを削り切った。残り六割なら、クリティカルダメージで削り切れる。
 一人倒した私の元に、後ろから足音を出しながら、大きなハンマーを振り上げている男の人が襲い掛かってきた。

「【ショックインパクト】!」

 技を使ってくるが、私は既にその場にはいない。【脚力強化】に加えて、【格闘】による効果が乗ったジャンプは、前よりも素早い退避を可能にしてくれた。
 ハンマーが叩きつけられた場所から、放射状に衝撃波が広がっていた。その範囲内にいたら、ダメージを負う事になるのだと思う。直撃したら、どうなっていたことやら。
 近くの木の幹を足場にして、ハンマーを振り下ろした姿勢になっている男の人に向かって飛び込む。途中で身体を縦回転させて、その後頭部に踵を叩き込む。【脚力強化】もあって、男の人は、顔面から地面にめり込む。その首に短剣を突き刺して倒す。
 ようやく一息付けるかと思ったところで、三人組の男の人達に囲まれた。片手剣、両手剣、短槍を装備している。片手剣と短槍持ちは、小さな盾も装備していた。

「あの時は、よくも俺達の厚意を無下にしてくれたな!」
「そうだ!」

 三人の内二人がそんな事を言ってくる。その言葉から、あの時のナンパパーティーの二人だと分かる。残り一人は、あの後に仲間になった人かな。ちょっと混乱しているような表情をしていた。

「そんなだから、断られるんでしょ。気持ち悪い」

 私がそう言うと、二人が歯を剥き出しにして睨んできた。残り一人は、相変わらずオロオロと混乱している。その混乱している片手剣の男の人に接近し、盾を持っている方の肩に短剣を突き刺す。布装備なので、そのまま貫き肩を落とす。

「うわあああああああ!?」

 肩が落ちたことに驚いている欠損ダメージを負うのは初めてらしい。慌てふためいているその人の首に、短剣を突き刺して、最後に背中を斬りつける事で倒した。そこまでたったの五秒くらいの事だった。
 それでも、他の二人は唖然としているだけで、すぐに行動に移そうとしなかった。
 私は、一瞬の溜めで地面を蹴り飛ばし、両手剣持ちに接近する。両手剣持ちの方は、すぐに攻撃しようとしたけど、両手剣の間合いの内側に入ったので、上手く振う事が出来ず、あたふたとしていた。その首を狩って、後ろに回る。

「【バックスタブ】」

 うなじへ短剣を突き刺して、HPを削り切る。最後に一人残った短槍持ちは、続けて二人やられた事と私に対する謎の怒りで、震えていた。

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 短槍を構えて掛かってくるのに対して、私も突っ込む。向こうは、そんな私を見て、下卑た笑みを浮かべる。真っ向勝負に出た事を馬鹿にしているようにも見える。

「【疾風突き】」

 風に後押しを受けたような素早い突きが私に迫った。これで倒したと思ったのか、さっきよりも気持ち悪い笑みを浮かべている。でも、すぐに驚愕の表情に変わった。それは、私が相手の予想と全く違う行動をしたからだと思う。
 私は、前にもやった事のある思いっきり踏み切ってからの相手の背後に着地するという行動を取った。理由は、簡単だ。相手が、絶対に槍を突き出してくると思ったからだ。
 地面に着地ではなく、木の幹に着地して斜め上から突っ込み、首を斬る。本当に皮一枚ってくらいに深く斬ることが出来て、一撃で倒しきる事が出来た。

「……私、強いよね」

 他のプレイヤーのほとんどを圧倒出来ている気がする。でも、そんな私よりもフレ姉やあの女の人の方が何倍も強い。

「もっと頑張らないと」

 そんな風に改めて奮起しているところに、大きな音が響いてきた。音の正体は、フレ姉と彼女の戦いだった。向かってくる敵を倒す為に大きく移動していたのだけど、ここまで移動してきたみたい。
 HP的には、五分五分で六割ずつ残っている。二人とも技を使っている様子がない。もしかしたら、ここまでも技も一度も使っていないのかもしれない。

「巻き込まれそう」

 正直、このまま二人の戦闘を見ていたいけど、多分フレ姉の邪魔になるので、このまま離れる事に決める。
 フレ姉達の戦いから離れた私は、すれ違うプレイヤーを倒していく。完全無傷で倒せる戦いは減っていったけど、アイテムとして取っておいてある血を飲む事で回復しながら、進んで行った。
 そうしてイベント終了の時間がやって来て、急に身体が動かなくなった。そして、白い光に包まれた後、最初に集まっていた広場まで戻って来た。
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