吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

文字の大きさ
上 下
7 / 506
吸血少女の始まり

アップルパイと紅茶

しおりを挟む
 アカリの案内で、中央広場に近い場所にある飲食店にやってきた。そこはNPC運営じゃなくて、プレイヤーが経営している飲食店らしい。ウェイトレスもNPCに混じってプレイヤーがやっていた。

「甘酸アップルパイを二つと赤紅茶あかこうちゃ二つ」
「は~い、かしこまりました」

 アカリとウェイトレスさんがやり取りをして、ウェイトレスさんが離れていく。

「これって、どのタイミングでお金払うの?」
「今のタイミングだよ。今日は、私の奢り」
「そうなんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「そうだ。アカリのスキルも見せてよ」
「それもそうだね。良いよ」

 アカリは、すぐにスキルを見せてくれる。

────────────────────────

アカリ:【剣Lv26】【片手剣Lv21】【HP強化Lv18】【MP強化Lv19】【物理攻撃強化Lv16】【器用さ強化Lv24】【裁縫Lv30】【鍛冶Lv18】
控え:なし
SP:25

────────────────────────

 一ヶ月先にやっているという事もあり、結構育っている。それに、スキルポイントが余っている事から、結構慎重に取っているという事も分かる。私も安易に決めない方が良さそうだ。

「この内、最初のスキルは?」
「【鍛冶】だよ」
「ああ、なら、アカリは運が良かったのか」
「うん!」

 アカリは、基本的に生産職がなければ、サポート職を選ぶことが多い。裏で色々とサポートするのが好きなんだと思う。

「魔法のスキルは取ってないみたいだけど、この【MP強化】は何で取ったの?」
「生産系のスキルだと、一気に加工する時とかにMPを消費するの。だから、効率良くするために、上げておこうと思ってね」
「ああ、そういう事ね。この【片手剣】は?」
「ランク1のスキルだけど、【剣】がレベル10以上にならないと出てこないスキルだよ。他にも【短剣】【両手剣】があるね」
「なるほどね……」

 三つの派生スキル。ここから、どの剣を選んで戦うかで収得するスキルが変わっていくんだと思う。

「私は、【片手剣】か【短剣】かな。でも。【吸血】を交えるなら、【短剣】かな」
「えっ……本当に【吸血】も使い続けるの?」
「うん。そのつもり。せっかく手に入れたものだし」
「まぁ、ハクちゃんらしいか」

 そんな風に話していると、ウェイトレスさんが、アップルパイと紅茶を持ってきてくれた。さっそくアップルパイを一切れ食べる。煮詰められて甘さが上がった林檎とサクサクパイ生地が、とても美味しい。甘酸林檎をそのまま食べるのとは大違いの美味しさだ。
 明るい赤色をした赤紅茶は、渋みが少し強い紅茶だった。その渋みのおかげで、アップルパイの甘さがさらに際立ってくれる。

「これもプレイヤーメイドなんだよね? プレイヤーメイドの利点て何?」
「簡単に言うと、自由かな。レシピ通りに作っても、市販されているものよりも性能が良くなるけど、見た目が決められた形にしか出来ないんだ。でも、レシピを使わずに、自分の手で作れば、自分の好きな見た目で作る事が出来るの。その場合、性能は作り手の技量とスキルレベル次第って感じかな。スキルレベルは、技量で補えるよ」
「ふ~ん、そうだ。私の防具、アカリに作って欲しいんだけど」
「良いよ。下着、インナー、上着、外套、右腕、左腕、腰、靴、頭って、結構細かくあるけど、重要な部分だけ作るんだったら、五十万くらいかな」

 防具の設定は本当に細かそうだ。改めて、自分でも装備欄を確認してみると、アカリの言った通りに分けられている。

「下着って必要?」
「下着だけは、脱げないようになっているからね。本当におしゃれに拘る人は、下着も拘っているみたいだよ。因みに、ここだけは、耐久もないよ」

 下着の変更もおしゃれの一環みたいになっているみたい。多分、主に女性の間で拘られているのかもしれない。

「まぁ、下着も脱げたら、私達はプレイ出来ないゲームになるか。私達の最後の砦みたいなものね。それで、重要な部分って、どこら辺?」
「インナー、上着、外套、腰、靴の五つ」
「一つ十万か……」
「ある程度差はあるけど、簡単に計算したら、そんな感じだね。何か、良い素材を手に入れたら、強い防具に出来るから」
「まぁ、出来たらね」

 最低五十万というと、今回の狩りが三万なので、結構遠く思える。まぁ、結構ゲームに慣れてきたから、少しは上がると思うけど。

「まぁ、日中ステータスダウンなんだから、気を付けてね。気休めに、これでも使う?」

 アカリがそう言ってメニューを操作すると、目の前に譲渡ウィンドウが出て来た。そこには、日傘という文字が書かれていた。受け取るボタンを押して、取り出す。出て来たのは、黒の日傘で、レースなどもあしらわれた綺麗なものだった。

「どこかで売ってるの?」
「それは、私が作ったやつ。一応、攻撃判定もあるけど、杖武器って感じだから、ハクちゃんのスキル構成だと補正は付かないよ」
「ふ~ん、差してたら貴婦人に見えたりするかな?」
「初期服だから、それはないと思うよ。武器に関しては、私は専門外だから、ごめんね」
「それは大丈夫。武器屋を探すから」
「うん。じゃあ、私は、ハクちゃんに似合うデザインを考えておくね。【吸血】を使う気なら、ちょっと良いデザインが思い付きそう」

 アカリは、本当に楽しそうに笑った。このゲームの生産職にハマっているみたいだ。
 アップルパイを食べ終えた私達は、店を出る。

「それじゃあ、私は金策に励んでくるよ。三割ダウンの戦闘も経験しておきたいから」
「頑張って。デスペナは、ステータス二割ダウンだから気を付けて」
「……死んだら、半分になるのか。アイスみたい」
「あ、そうそう。移動型のボスがいるから、それも気を付けてね」
「エンカウントボスって事?」
「そんな感じ」

 私が調べた範囲内に、そんな情報はなかったので、ちょっとだけ気になった。

「どんなボス?」
「発見されたのは、夜霧よぎり執行者しっこうしゃって黒い鎧のモンスター。両手剣を使うモンスターなんだけど、馬鹿みたいに硬いのと攻撃が強すぎるのもあって、まだ一度も倒せてないんだ。見つけても挑んじゃ駄目だよ?」
「オッケー」
「ああ、絶対に挑むパターンだ。何か情報手に入れたら教えてね」
「了解。それじゃあね」
「あっ、待って。フレンド登録だけしておこ」
「ああ、そうだね」

 アカリとフレンド登録をしてから別れて、街の出口を目指す。その際に、日傘を差してみると、心なしか身体が楽になった気がする。

「日を遮る事が出来れば、ステータスダウンもなくなるって考えて良さそう。洞窟とかダンジョンみたいな場所なら、私も普通に戦えそうかな。森の影でも、同じようになればいいけどなぁ」

 燦々と陽光が照らされている平原を歩いて、森まで向かって行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

New Life

basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。  待ちに待ったVRMMO《new life》  自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。  ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。  第二部? むしろ本編? 始まりそうです。  主人公は美少女風美青年?

吸血少女 設定資料集(おまけ付き)

月輪林檎
SF
 『吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ』のスキルやその技、武具の追加効果などを章ごとに分けて簡潔に説明します。その章で新しく出て来たものを書いていくので、過去の章に出て来ているものは、過去の章から確認してください。  さらに、ハク以外の視点で、ちょっとした話も書くかもしれません。所謂番外編です。  基本的に不定期更新です。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...