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知らなかった世界
裏世界旅の終わり
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師匠と茜さんに助けて貰ってから、二週間が経った。この二週間の間は、茜さんに色々なお世話をして貰った。完全に動けなくなっていたから、仕方ないのだけど、ちょっとだけ恥ずかしさがあった。トイレやお風呂とかも手伝って貰う事になったし。それでも茜さんの方は、全然嫌そうな顔もせずに世話をしてくれたから感謝しかない。
そうして二週間に渡る治療で腕の痺れが取れて、ちゃんと動くようになった。そして、言われていた通り右腕の爪による傷は完全に塞がっていて、一切跡も残っていないけれど、左腕の焦げていた腕などは火傷の跡が残っていた。
その火傷には、毎日軟膏が塗られる。若干ヒリヒリするけれど、ちゃんと効いてはいるみたいで、火傷が段々と治ってきているのが分かった。このままいけば、跡も消えるのではと思ってしまうけど、それほど甘くはないのかな。
足の痛みの方は一週間ほどで良くなった。ちょっとずつ歩いていって、リハビリをしていたので、今ではしっかりと歩けるようになった。
「師匠、茜さん。腕の痺れがなくなったよ。もう完治」
「まだ早いわよ。体力の方は戻っていないでしょう。腕のリハビリもしないといけないしね。軽く修行をしながら二週間様子を見ましょう」
「は~い」
それから、また二週間程修行をしながら過ごす事になった。魔力増加みたいな基礎的な修行をしながら、家の周りを歩いたり、身体の調子を取り戻すような修行を続けた。その二週間で腕の火傷の跡が薄くはなったけど、完全には治らない事が判明した。これに関しては、魔法の学校で治して貰う事になっている。
計一ヶ月も休む事になったけど、そのおかげで身体の調子は戻っていた。体力的にも問題はないと思いたい。
「さてと、そろそろまた移動を再開するけど、さすがに茜も人一人を抱えたまま、長時間飛ぶのは難しいから、歩いて移動する事にするわよ。戦闘は基本的に茜がやってくれるから安心しなさい」
「うん! 任せてぇ」
「でも、さすがに悪い気がしちゃうんだけど……」
「気にしなくて良いわ。最大限安全に移動する事が優先よ。それと、これは約束のポンチョよ」
「ありがとう」
師匠が直してくれたポンチョを受け取る。制服の方は、もう着ていない。スカートはパンツが丸見えになっちゃうし、ブレザーもワイシャツも大きな穴が空いちゃっているから、師匠が作ってくれた服と茜さんが持っていたズボンを仕立て直して穿かせて貰っている。おかげで運動はしやすくなった。
ポンチョを着けて、出発の準備が整う。
「それじゃあ、出発ね」
師匠は、私の身体を器用に登ってポンチョの中に入る。師匠の代わりに、茜さんが家の施錠をして、再び裏世界旅が始まる。でも、これまでの旅よりも遙かに安全で安心が出来る旅になる。戦闘も本当に茜さんがやってくれた。茜さんの戦いは、動き回るのではなく強力な一撃で倒すといった感じの戦い方だった。これに関しては、「相手が弱いから出来るだけで、もう少し強い相手だったら、また違った戦い方になるよ」と言っていた。それに、茜さんは戦闘が得意な人ではないらしい。それでも私より強いので、本当に凄い。
それと魔法学校では、裏世界の動物達をモンスターと呼んでいるらしい。これには、師匠も驚いていた。師匠が活動していた時代ではそういう呼称じゃなかったからだ。
モンスターと呼ばれるのにも理由がある。それは、裏世界の生き物たちが好戦的過ぎるかららしい。カワードボアは怯えて逃げるのではなく攻撃しようとしてくる。あの黒い狼も黒い熊も、最初から私を殺そうとしてきていた。それを考えると、確かに好戦的な個体が多いのかもしれない。
師匠からは教わることの出来ない現在の状況とかを教えてくれる茜さんは、師匠とは別に良い教師だった。
そんなこんなで、出発から一ヶ月半掛けて、ようやく日本の座標近くまでやってきた。日本の座標は表世界と同じく海の中に孤立している状態だった。
「あぁ……懸念していた通りの事になってしまったわね」
「私、まだ『飛行』は使えないよ?」
ここに来るまでに何度か家での休息が挟まっている。その間に『飛行』の修行もしていたけど、未だに習得には至っていない。ちょっと受ける時間が延びたり、距離が伸びたりしたくらいだ。
「そうね。仕方ないから、ジルに運んで貰いましょう」
「頑張るよぉ!」
「ありがとうございます」
茜さんが私の事をお姫様抱っこしてくれる。師匠は私のお腹に乗る形だ。そのまま茜さんが浮かんで、海の遙か上を飛んでいく。安全マージンを取っている感じなのかな。
「海にいるモンスターは、そんなに危険なの?」
「そうね……ちょうど顔でも出していると分かりやすいのだけど」
「割と海の中にいる事を好むから顔を出さないんだよねぇ。あっ、でも、運が良いかもねぇ」
「あら、本当ね。水琴、あっちを見てみなさい」
「ん?」
師匠に言われて、大きく広がる海の方を見てみると、遠い海の向こうで巨大な蛇の胴体みたいなのが見えていた。遠いのに、はっきりと見えるからこそ、それが巨大な事が分かる。
「怖っ……」
「本当よね」
「今ではリヴァイアサンって呼ばれてるよぉ。こっちから何かしない限り、積極的に攻撃とかはしてこないから安心して良いよぉ」
名前はゲームとか漫画で聞いた事がある。割と大人しい性格ではあるみたい。まぁ、あんな風に身体を出して、事故が起きたりはしそうだけど。
そのまましばらく風を感じていると、茜さんが下降しだした。そろそろ地上みたい。そのまま茜さんが地面に下ろしてくれる。私を運んでくれた茜さんは、身体を伸ばしながら、私に微笑んだ。
「空の旅は、どうだったぁ?」
「ちょっと怖い感じもありましたけど、打ち付けてくる風は気持ち良かったです」
「それなら空を飛べるのも近いかもねぇ。それじゃあ、行こうか。ここら辺は九州地方だから、後二週間弱くらいだね。ここからは地続きだから、空を飛ばなくても大丈夫だよぉ」
「やっと帰られるわね」
「うん」
ようやく日本に着いた。ここからは徒歩での移動だけで良いみたい。日本に着いたから、ここから帰る事も出来なくはないけれど、移動するためのお金も連絡手段もないので、裏世界で移動する方が良い。茜さんのお金を借りるという手段もなくはないけど、さすがに悪いし、もう一つ用事があるから。
「それじゃあ、行くわよ。魔法学校は、目的地と近いのよね?」
「うん。魔法学校の施設が裏世界にあるから、そこに行って、表世界に移動して、水琴ちゃんの火傷の跡を治して、水琴ちゃんを家に送るっていう流れで良いでしょぉ?」
「ええ。それで良いわ。さっ、行くわよ、水琴」
「うん!」
裏世界旅のラストスパートだ。そこから五日程歩いていると、遠くの方に高い建物が見えてきた。ビルみたいと思ったけど、もっと適切な表現があった。あれは、塔だ。しかも、かなり高い。表世界の建物よりも高い気がする。
「あれは何?」
「私も知らないわね。もしかして、例の魔法学校の施設?」
「大正解! あれが白の塔。白の君が作ったものだよぉ。目印になるようにってねぇ。一応宿泊施設としても使われているよぉ」
「裏世界での活動拠点にしているという事ね。戦闘を学ぶための場所という事で合ってるかしら?」
「うん。モンスターとの戦いが、一番アレとの戦いに備えられるからねぇ。狩っていい対象は事前に決められているから、絶滅させるまで狩るとかはないよぉ」
「割としっかりしているわね。さすが、白の君だわ」
師匠からしても、ちゃんとしている組織みたい。でも、裏世界にいるモンスターが、かなり危険だという事は私も身をもって思い知っている。それを授業の一環とかやるのは大丈夫なのか心配になる。多分、そこら辺も考えられてはいるのだと思うけど。
それからまた五日程歩いて、見えていた塔の側まで来た。
「とうちゃ~く! それじゃあ、空間に穴を開けるね。師匠、水琴ちゃんをお願いね」
「ええ、任せなさい」
師匠がポンチョの中から返事をする。私は、師匠の指示で動けば良いらしい。茜さんは、杖を取りだして、前に向ける。
「【開門】」
詠唱した瞬間、正面の空間が揺らぎ、空間に穴が空いた。その向こうに何かが見えるけど、霞んでいる感じでよく見えない。
「飛び込みなさい」
「うん」
師匠に言われた通り、茜さんが開いてくれた穴に飛び込む。これで裏世界とはおさらばだ。
そうして二週間に渡る治療で腕の痺れが取れて、ちゃんと動くようになった。そして、言われていた通り右腕の爪による傷は完全に塞がっていて、一切跡も残っていないけれど、左腕の焦げていた腕などは火傷の跡が残っていた。
その火傷には、毎日軟膏が塗られる。若干ヒリヒリするけれど、ちゃんと効いてはいるみたいで、火傷が段々と治ってきているのが分かった。このままいけば、跡も消えるのではと思ってしまうけど、それほど甘くはないのかな。
足の痛みの方は一週間ほどで良くなった。ちょっとずつ歩いていって、リハビリをしていたので、今ではしっかりと歩けるようになった。
「師匠、茜さん。腕の痺れがなくなったよ。もう完治」
「まだ早いわよ。体力の方は戻っていないでしょう。腕のリハビリもしないといけないしね。軽く修行をしながら二週間様子を見ましょう」
「は~い」
それから、また二週間程修行をしながら過ごす事になった。魔力増加みたいな基礎的な修行をしながら、家の周りを歩いたり、身体の調子を取り戻すような修行を続けた。その二週間で腕の火傷の跡が薄くはなったけど、完全には治らない事が判明した。これに関しては、魔法の学校で治して貰う事になっている。
計一ヶ月も休む事になったけど、そのおかげで身体の調子は戻っていた。体力的にも問題はないと思いたい。
「さてと、そろそろまた移動を再開するけど、さすがに茜も人一人を抱えたまま、長時間飛ぶのは難しいから、歩いて移動する事にするわよ。戦闘は基本的に茜がやってくれるから安心しなさい」
「うん! 任せてぇ」
「でも、さすがに悪い気がしちゃうんだけど……」
「気にしなくて良いわ。最大限安全に移動する事が優先よ。それと、これは約束のポンチョよ」
「ありがとう」
師匠が直してくれたポンチョを受け取る。制服の方は、もう着ていない。スカートはパンツが丸見えになっちゃうし、ブレザーもワイシャツも大きな穴が空いちゃっているから、師匠が作ってくれた服と茜さんが持っていたズボンを仕立て直して穿かせて貰っている。おかげで運動はしやすくなった。
ポンチョを着けて、出発の準備が整う。
「それじゃあ、出発ね」
師匠は、私の身体を器用に登ってポンチョの中に入る。師匠の代わりに、茜さんが家の施錠をして、再び裏世界旅が始まる。でも、これまでの旅よりも遙かに安全で安心が出来る旅になる。戦闘も本当に茜さんがやってくれた。茜さんの戦いは、動き回るのではなく強力な一撃で倒すといった感じの戦い方だった。これに関しては、「相手が弱いから出来るだけで、もう少し強い相手だったら、また違った戦い方になるよ」と言っていた。それに、茜さんは戦闘が得意な人ではないらしい。それでも私より強いので、本当に凄い。
それと魔法学校では、裏世界の動物達をモンスターと呼んでいるらしい。これには、師匠も驚いていた。師匠が活動していた時代ではそういう呼称じゃなかったからだ。
モンスターと呼ばれるのにも理由がある。それは、裏世界の生き物たちが好戦的過ぎるかららしい。カワードボアは怯えて逃げるのではなく攻撃しようとしてくる。あの黒い狼も黒い熊も、最初から私を殺そうとしてきていた。それを考えると、確かに好戦的な個体が多いのかもしれない。
師匠からは教わることの出来ない現在の状況とかを教えてくれる茜さんは、師匠とは別に良い教師だった。
そんなこんなで、出発から一ヶ月半掛けて、ようやく日本の座標近くまでやってきた。日本の座標は表世界と同じく海の中に孤立している状態だった。
「あぁ……懸念していた通りの事になってしまったわね」
「私、まだ『飛行』は使えないよ?」
ここに来るまでに何度か家での休息が挟まっている。その間に『飛行』の修行もしていたけど、未だに習得には至っていない。ちょっと受ける時間が延びたり、距離が伸びたりしたくらいだ。
「そうね。仕方ないから、ジルに運んで貰いましょう」
「頑張るよぉ!」
「ありがとうございます」
茜さんが私の事をお姫様抱っこしてくれる。師匠は私のお腹に乗る形だ。そのまま茜さんが浮かんで、海の遙か上を飛んでいく。安全マージンを取っている感じなのかな。
「海にいるモンスターは、そんなに危険なの?」
「そうね……ちょうど顔でも出していると分かりやすいのだけど」
「割と海の中にいる事を好むから顔を出さないんだよねぇ。あっ、でも、運が良いかもねぇ」
「あら、本当ね。水琴、あっちを見てみなさい」
「ん?」
師匠に言われて、大きく広がる海の方を見てみると、遠い海の向こうで巨大な蛇の胴体みたいなのが見えていた。遠いのに、はっきりと見えるからこそ、それが巨大な事が分かる。
「怖っ……」
「本当よね」
「今ではリヴァイアサンって呼ばれてるよぉ。こっちから何かしない限り、積極的に攻撃とかはしてこないから安心して良いよぉ」
名前はゲームとか漫画で聞いた事がある。割と大人しい性格ではあるみたい。まぁ、あんな風に身体を出して、事故が起きたりはしそうだけど。
そのまましばらく風を感じていると、茜さんが下降しだした。そろそろ地上みたい。そのまま茜さんが地面に下ろしてくれる。私を運んでくれた茜さんは、身体を伸ばしながら、私に微笑んだ。
「空の旅は、どうだったぁ?」
「ちょっと怖い感じもありましたけど、打ち付けてくる風は気持ち良かったです」
「それなら空を飛べるのも近いかもねぇ。それじゃあ、行こうか。ここら辺は九州地方だから、後二週間弱くらいだね。ここからは地続きだから、空を飛ばなくても大丈夫だよぉ」
「やっと帰られるわね」
「うん」
ようやく日本に着いた。ここからは徒歩での移動だけで良いみたい。日本に着いたから、ここから帰る事も出来なくはないけれど、移動するためのお金も連絡手段もないので、裏世界で移動する方が良い。茜さんのお金を借りるという手段もなくはないけど、さすがに悪いし、もう一つ用事があるから。
「それじゃあ、行くわよ。魔法学校は、目的地と近いのよね?」
「うん。魔法学校の施設が裏世界にあるから、そこに行って、表世界に移動して、水琴ちゃんの火傷の跡を治して、水琴ちゃんを家に送るっていう流れで良いでしょぉ?」
「ええ。それで良いわ。さっ、行くわよ、水琴」
「うん!」
裏世界旅のラストスパートだ。そこから五日程歩いていると、遠くの方に高い建物が見えてきた。ビルみたいと思ったけど、もっと適切な表現があった。あれは、塔だ。しかも、かなり高い。表世界の建物よりも高い気がする。
「あれは何?」
「私も知らないわね。もしかして、例の魔法学校の施設?」
「大正解! あれが白の塔。白の君が作ったものだよぉ。目印になるようにってねぇ。一応宿泊施設としても使われているよぉ」
「裏世界での活動拠点にしているという事ね。戦闘を学ぶための場所という事で合ってるかしら?」
「うん。モンスターとの戦いが、一番アレとの戦いに備えられるからねぇ。狩っていい対象は事前に決められているから、絶滅させるまで狩るとかはないよぉ」
「割としっかりしているわね。さすが、白の君だわ」
師匠からしても、ちゃんとしている組織みたい。でも、裏世界にいるモンスターが、かなり危険だという事は私も身をもって思い知っている。それを授業の一環とかやるのは大丈夫なのか心配になる。多分、そこら辺も考えられてはいるのだと思うけど。
それからまた五日程歩いて、見えていた塔の側まで来た。
「とうちゃ~く! それじゃあ、空間に穴を開けるね。師匠、水琴ちゃんをお願いね」
「ええ、任せなさい」
師匠がポンチョの中から返事をする。私は、師匠の指示で動けば良いらしい。茜さんは、杖を取りだして、前に向ける。
「【開門】」
詠唱した瞬間、正面の空間が揺らぎ、空間に穴が空いた。その向こうに何かが見えるけど、霞んでいる感じでよく見えない。
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