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魔族の聖女

大歓声

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 クララは、目を覚ましてから三日間をベッドの上で過ごし、サーファが作ってくれる消化に良い料理を食べていった。この間に、サラとアリエスがお見舞いに来てくれた。

「クララ、本当に良かった。無事に帰ってきたけど、目を覚まさないって言われてたから、ずっと心配だったんだ」

 サラは泣きながら、クララの無事を喜ぶ。クララが眠ったままだという事は、追悼式の際に知っていたので、こうして起きてくれた事が本当に嬉しかったのだ。

「ごめんね。心配掛けて。でも、サラが持ってきてくれた材料も役に立ったよ。薬の量が足りなくなってたから。私は調合出来なかったけどね」

 治療の最後の方では、薬の量が足りなくなったので一部の看護師が、緊急で薬を作るという場面があった。その時は、治療などで駆けずり回っていたので、クララが携われる事は無かったのだ。

「役に立ってくれたのなら良かった。本当に無事に帰ってきてくれて良かったよ」

 サラはそう言って、クララを抱きしめる。

「それじゃあ、私はもう行くね。仕事もあるから」
「うん。態々来てくれてありがとう。またよろしくね」
「うん。よろしく」

 サラは、クララに手を振って薬草園に帰って行く。
 アリエスの方は、サラとは別の日に来ていた。ちょうど薬室で仕事があったからだ。

「ク、クララ、もう大丈夫なの?」
「うん。私がいない間、薬室を支えてくれてありがとう」
「ううん。仕事だもん」

 アリエスは、クララ達が戦場に向かってから今日まで薬室での作業を一人で支え続けた。おかげで、クララの懐にもお金が入ってきている。クララは、この間のアリエスの給料は割り増しする事にした。

「そ、それにしても、本当に無事で良かったよ」
「ありがとう。まだしばらくは、薬室を任せて良い?」
「うん。良いよ」

 クララが何故そう言うのかを察したアリエスは、即答で返事をした。

「ありがとう」
「ううん。気持ちは、何となく分かるから。それじゃあ、私は薬室に向かうね」
「うん」

 その後、また三日掛けて、身体を少しずつ動かしていき、衰えた身体を通常の生活が送れる程度に戻していった。そして、ある程度自由に動けるようになったクララは、リリンの部屋に向かう。
 リリンは部屋のベッドで寝ていた。

「リリンさん」

 クララが呼び掛けても、リリンは目を覚まさない。静かに呼吸を続けるだけだった。クララの両目から自然と涙が零れてくる。クララは、泣きながらリリンの手を握る。そして、ゆっくりと回復魔法の要領で、リリンに魔力を流していった。杖、祭服、絵画のおかげで、多少力が回復したので、その力をリリンに使っているのだ。
 残っている聖剣の呪いを打ち消すには、自分の力が最適だと思われるからだ。これは、エリノラの許可も貰った上での行動だ。念のため、クララが倒れないように、サーファが見張っている。
 それから、リリンの傍でリリンに魔力を流すという作業を毎日繰り返していった。ある程度体力が回復し、身体も動けるようになったところで、薬室の作業も再開した。
 そんな中、クララが目を覚ましてから二週間が経った時、カタリナから一つの頼まれ事をされた。

「私への感謝の宴ですか?」
「そうよ。今回の戦いにおけるクララちゃんの献身は、魔族の皆が認めているわ。そして、それはここの住人達も同じなの。その中から、クララちゃんへの感謝をしたいって声が沢山上がってきていてね。クララちゃんさえ、良ければ皆の前に顔を出して欲しいのよ。大丈夫そう?」
「はい。大丈夫です。でも、私、もう聖女と呼べるような状態ではないですよ?」

 聖別した物に残った自分の力によって、クララの身体に残った力が呼び起こされ、ある程度の聖女の力は戻っていた。だが、それでも回復魔法が通常よりも強いくらいだ。前のような奇跡は起こせない。

「良いのよ。皆が感謝しているのは、聖女じゃなくてクララちゃんだから。聖女でもそうじゃ無くても関係ないのよ」
「それなら良いんですが……」
「心配しすぎよ。当日は、あの人と一緒に壇上に上がってもらうわ。クララちゃんからの言葉を貰うつもりはないから、ただ手を振ってくれるだけで良いわ」

 あくまでクララの顔を見せて欲しいという意見が多く、クララから言葉を貰いたいという訳では無い。寧ろ、こっちから言葉を浴びさせろと言われている。

「分かりました」
「一週間後に行うから、そのつもりでいて」
「はい」
「それじゃあ、また来るわ」

 カタリナはクララの頬にキスをして、クララの部屋を出て行った。

「何だか、最近、カタリナさんからよくキスをされている気がします」
「クララちゃんを愛している証拠だよ。本当に娘だって思ってくれているんじゃないかな」

 サーファは、クララを抱きしめながらそう言う。

「それは、嬉しいですね」
「好きな人から愛されるのは、特に嬉しいもんね」
「はい」

 それから一週間が経ち、件の宴の日がやってきた。クララは、祭服に着替えて、しっかりと準備をする。

「忘れ物はない?」
「祭服と杖だけなので、大丈夫です」
「じゃあ、待機場所に移動しようか」

 今日のサーファは、いつもと違いドレスを着用している。基本的には、クララとガーランドが前に出るのだが、その傍で控えていないといけない関係上、サーファもおめかしをする必要があるのだ。
 サーファは、クララと手を繋いで、魔王城前に設置された天幕に入る。その中には、既にカタリナが待っていた。

「あら、二人とも可愛いわね。やっぱり、ユーリーは良い仕事をするわ」
「あ、サーファさんのドレスも、ユーリーさんが作ったものなんですか?」
「うん。一昨日くらいに送られてきたんだ。必要だろうからって」
「まぁ、その真相は、私が作ってって、頼んだんだけどね。サーファにもおめかししてもらわないとだから」
「えっ!? そうだったんですか!?」

 サーファは、全く知らなかった事実に驚く。

「そうよ。こっちが頼む以上、必要な事だから。お金は気にしなくて良いわ。こっちから頼んだ事だから」
「わ、分かりました」

 サーファは、ユーリーお手製の服を貰いすぎでは無いかと思っていたが、カタリナからこう言われてしまえば、頷くほかない。
 そんな事を話していると、天幕にガーランドが入ってきた。

「そろそろ時間だ。準備は良いか?」
「あ、はい!」
「そうか。段取りとしては、カタリナ、サーファと一緒に入場。その後、俺とクララが前に出るという形だ。最初は、サーファに手を取って貰いながらの入場になる。しっかりエスコートしてくれ」
「かしこまりました」

 サーファは、クララの手を取って、歩き始める。その誘導に従って、クララも一緒に歩き始めた。そうして、魔王城の門を抜けると、正面に仮設で作られた階段があった。撤去しやすさも兼ね備えているものだ。

「階段が急だから、気を付けてね」
「はい」

 そうしてガーランド達の後に続いて、クララ達が壇上に上がっていく。すると、大歓声が響き渡った。クララの目に映ったのは、魔王城前にある空き地を埋め尽くす魔族達だった。デズモニアだけで無く、近隣の街にいた魔族もクララの事を見に来ていた。
 予想外の歓声と視界を埋め尽くす魔族達の量に、面食らっていたクララの背中を、サーファが優しく押す。そうして、ガーランドの隣に並んだ。クララは、魔族達に向かって小さく手を振る。それだけで、さらに歓声が上がる。

「実は、クララの聖女としての力が弱まっている事を触れで出していたんだ」
「!!」

 そんな事をして大丈夫なのかと思ったクララだったが、この大歓声を聞いて、それが杞憂だと知った。

「クララが魔聖女か聖女かなんてことは、関係ないんだ。そんなものが無くても、クララは、クララとして、慕われているんだ。それに、良く皆の声を聞いてみろ」

 ガーランドからそう言われて、クララは魔族達の声を聞き分けようとする。すると、聞こえてくる言葉の中に聖女様や魔聖女様、魔聖女ちゃんが混ざっている事に気が付いた。

「クララが、実際に聖女かどうかは関係ない。クララという存在が、俺達にとって聖女という呼び名に相応しいんだ。例え、聖女としての力のほとんどを失ったとしても、クララは、俺達の聖女だ。胸を張れ」

 ガーランドからの言葉と、魔族の皆からの声があり、クララはぽろぽろと涙を流し始めた。視力の良い魔族達は、それを見てギョッとする。クララを称えるような声から、どんどんクララを励ます声へと変わっていく。
 そんな魔族の皆がおかしく思い、クララは笑顔になる。クララの笑顔を見て、魔族達はまた歓声を上げる。これでは聖女と言うよりも魔族のアイドルという感じだった。
 そんな大盛況の感謝の宴は、まだ続く。といっても、クララの出番は終わりで、後は魔族達がさっきのクララを肴に思い思いに話して飲んで食べてを繰り返しているだけだった。
 ここにクララが入ると、ほぼ確実にもみくちゃにされてしまうという事で、クララはリリンの部屋から、その様子を見ていた。

「私がいなくても大盛り上がりですね」
「さっき、クララちゃんが顔を出したからこその盛り上がりだけどね。私達もご飯にしようか」
「はい」

 クララが動けるようになってからは、基本的にリリンの部屋で食事を摂っている。皆で一緒に食べるためだ。

「そうだ。演習の手伝いはまだだけど、運動の方は、そろそろ再開するから、そのつもりでいてね」
「うっ……でも……」
「でもじゃありません。リリンさんが起きた時に、怒られたくないでしょ。やらないといけない事はやらないと。ただでさえ、二週間の昏睡で、体力とかが落ちているんだから」

 そう言われてしまうと、クララも反論は出来なかった。ただ、一つだけ言いたい事もあった。

「分かりました」

 少し唇を尖らせながらそう言うクララに、サーファは苦笑いをしながら頭を撫でた。
 クララのいつも通りだが、いつも通りではない日常がやってくる。足りないのは、たった一つ。リリンの存在だけだ。
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