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可愛がられる聖女

マーガレットの美術講座(1)

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 ユーリーとの裁縫講座が終わった翌日、今度はマーガレットの番がやってきた。クララは朝早くからクララの部屋にやってきた。

「おはよう!」
「もごっ……んぐっ……おはようございます、マーガレットさん」

 朝ご飯を食べている途中だったクララは、急いで口の中のものを飲み込んで、挨拶をした。

「あら、まだ、朝食中だったか……って、本当に沢山食べるのね。それでも太らないのは、きちんと運動しているからか。そうじゃないと脂肪ばかりになるし」
「そういう事です。申し訳ありませんが、食事が終わるまでお待ち頂いてもよろしいですか?」
「さすがに、そこを急かすことはしないから安心して。クララもゆっくり食べて良いから」
「あ、はい」

 マーガレットはクララのベッドに腰掛けるとそのまま後ろに倒れて寝始めた。

「寝ちゃいました……」
「あまり寝ていないのかもしれませんね。マーガレット様は、時折平気で一睡もしない事がありましたから」
「そうなんですか?」
「はい。昔、私の部屋に遊びにいらっしゃった際、ベッドに直行して、寝ていらっしゃった事がありました。その時に、寝ていなかったと言っていました。良くある事だとも」
「……一体、何をしにいらっしゃったんですか?」

 リリンの話から、サーファは、マーガレットが何をしにリリンの部屋に行ったのか分からなくなっていた。リリンも気持ちは分かるとばかりに頷いた。

「本当に遊びにいらっしゃったらしいのですが、眠さに負けて寝たとおっしゃっていました」
「……」

 マーガレットの自由さに、クララは唖然としていた。

「早く食べてしまいましょう。マーガレット様が熟睡されてしまいますので」
「あ、はい」

 手が止まってしまっていたクララを促して、リリン達も朝食を食べ終える。そして、食器を片付けたところで、リリンがマーガレットを起こした。

「マーガレット様、お待たせしました」
「ふぁ……う~ん……あ、そうだ」

 身体を起こしたマーガレットは、ポケットから昨日クララが作ったハンカチを取り出す。

「昨日ユーリーから受け取った。作ってくれてありがとう」
「い、いえ。ちょっと不格好かもですけど」
「そんな事ないでしょ。初日に作ったものって考えたら、良く出来てるし。これは、裁縫の才能があったのかもね。まぁ、今日は芸術の才能を磨くんだけど」

 そう言いながら、マーガレットはベッドから腰を上げる。

「それじゃあ、私の部屋に行こうか。昨日のうちに、クララに必要な道具は揃えておいたから。何かお父さんがお金出してくれたし」
「あ、本当に出して下さったんですね……」

 昨日、ガーランドが言っていた事が、こんな形で証明されるとは思っていなかったクララは、驚いていた。

「おかげで、全部揃ったからね。助かった、助かった」
「そんなにいっぱい買う予定だったんですか?」
「画材だけでも色々あるし、どうせだから、彫刻とかも教えようかなって思ってたからね。私のお下がりでも良いかと思ったんだけど、やっぱり、こういうのは新品じゃないとね。取りあえず、今日は絵をやるから、そのつもりでいて」
「はい」

 どんな事をするのだろうと気になったクララは、少しそわそわとしていた。クララのそんな気持ちに気付いたマーガレットは、楽しみにしてくれている事を嬉しく思っていた。
 そんなこんなで、マーガレットの部屋の前に着いた。

「さっ、中に入って」

 マーガレットが扉を開けて促すので、クララは先に中に入る。そして、一歩踏み入れた瞬間、その場で立ち止まった。その理由は、マーガレットの部屋にある。
 マーガレットの部屋は、整理整頓が行き届いたユーリーの部屋と違い、色々なものが散らかっていた。

「マーガレットさんとユーリーさんって正反対なんですね」
「ん? ああ、あの子は無駄なものを置きたがらないからね。しかも、あの子の部屋は、この部屋より狭かったでしょ?」
「あ、そういえば」

 マーガレットの部屋は、ユーリーやクララの部屋よりも広かった。クララは、それを長女だからかと考えた。

「あの子、自分の部屋を作業場にして、物置を自分の部屋にしているの。変でしょ?」
「えっ!?」

 マーガレットとしては、物置を自分の部屋にしている事に驚いて欲しかったのだが、クララが驚いたのは、自分の部屋と同じくらいの広さで物置なのかというところに驚いていた。

「ユーリーさんの部屋の件は置いておくとして、この部屋には、色々な物があるんですね」
「ごちゃごちゃでしょ。一応分野別に分けているけどね。ただまぁ、美術方面に傾いているから、半分以上は美術のものなんだけど。あっちは、絵画で、そっちは彫刻。向こうは工芸とかね。こっちは音楽系統」
「えっ、音楽も出来るんですか?」
「齧ってる程度だけどね。そっちは、人に教えられる程出来ないから、教える予定はないけど」
「そうなんですね」

 音楽にも若干興味があったクララは、少ししょんぼりする。それを見たマーガレットは、どうしたものかと悩む。

「う~ん……時間が余ったら、ちょっとだけ教えてあげる」
「本当ですか!?」
「本当。でも、最初は美術の方からね」
「はい!」

 教えて貰える事が増えて、クララは喜ぶ。そんなクララの頭を撫でながら、マーガレットは部屋の一角に案内する。そこには少し大きめの箱が置かれていた。

「ここにある箱の中身が、クララの道具。後で持って帰って」
「はい」
「今日使うのは、これと……これ」

 マーガレットが取りだしたのは、パレットと絵筆だった。

「こっちのパレットに絵の具を出して、筆を使って絵を描くの。今日は水彩画ね」
「わ、分かりました」

 こっちも最初から難しそうだと思いクララは、奮起した。マーガレットは、そんなクララを部屋の絵画エリアに連れて行き、イーゼルの前に立たせる。

「絵の具は、ここから使って。水はこれね。基本的に筆に水を付けてから、絵の具を少量付けて塗ればいいから。さっ、やってみて」
「…………えっ!?」

 何も手本も無しに実践から入ると思っていなかったクララは、驚いてマーガレットを見る。

「ん? どうしたの?」
「えっと、何かを見て描くものだと思っていたので……」
「ああ、まぁ、それでも良いんだけど、最初から形が決まったものを描くよりも、適当に自由に表現してみるのが良いって思ってるからさ。初めて触るなら尚更ね」
「そういうものなんですか?」
「私の考えってだけ。さっ、やってみよう」

 ユーリーが付きっ切りで教えるタイプだとしたら、マーガレットは放任タイプだった。マーガレットとしては、最初からクララに凝り固まった考えを持って欲しくないのだった。
 困ったクララは、絵の具の種類を確かめ始めた。どんな色があるのかを調べているのだ。そこから自分の好きな色を導き出していく。
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