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可愛がられる聖女

一人前?

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 シャワーを浴び終えたクララ達は、服を着てから出て来た。服自体にも土は付いているので、サラが新しい服を貸してくれた。体格がほとんど同じのため、問題無く着る事が出来た。

「今度返すね」
「ううん。それあげる。新品だから、あまり気にしないで良いよ。色々なお礼って事で」
「良いの? じゃあ、有り難く貰うね」

 汚れた服を持って、クララはリリン達の元に戻っていく。

「シャワー浴びてきました」
「ちゃんと自分で洗えましたか?」
「洗いっこしました。それに、この服もくれるみたいです」
「そうでしたか。サラ、ありがとうございました」
「いえいえ!」

 リリンからお礼を言われたサラは、両手を振ってそう言った。正直、お礼を言われるような事は何もしていないので、こうしてお礼を言われるのがむず痒いという感じだった。

「では、私達は失礼します」
「はい。今日収穫したものは、明日届けるから」
「うん。よろしく。それじゃあ、またね」
「うん。またね」

 クララとサラは手を振り合ってから別れた。リリンとサーファに挟まれる形で歩いているクララは、かなりご機嫌だった。

「新しい薬の材料が揃いましたか?」
「はい! 明日は、色々作れるものが増えそうです。そうだ。リリンさんに訊きたい事があるんですが」
「はい。何でしょうか?」
「媚薬って、需要ありますか?」

 それを聞いたリリンは、少し驚いていた。そして、ちらっとサーファの方を見る。サーファは、顔を少し赤くしながら目を逸らした。クララとサラの話は聞いていたが、同じ理由で割り込む事は出来なかった。
 リリンは、サーファの反応から理由を察した。

「お作りになるのですか?」
「サラと話したら、ある程度の需要はあるみたいなので、作るのも良いかなって」
「そうでしたか。媚薬は、サキュバスやインキュバスに売れています。自身には効きにくいですが、相手には普通に効きますので」
「自分達には効かないのに使うんですか?」
「効きにくいというだけで、効かないというわけではないです。サキュバスやインキュバスは、元々性欲が強いですから。それに付いてきて貰うために使用する者が多いようですね」

 身体の体質から、サキュバスやインキュバスは媚薬が効きにくい。だが、その特有の性欲の強さに相手がついていけないという事があるので、購入して使用する者が多いのだった。

「でも、それだったら、持久力を上げるような薬の方が良いんじゃ?」
「媚薬の中に、既に含まれています」
「へぇ~……リリンさん、詳しいですね?」
「これでもサキュバスですから。そういった知識はある程度入ってきますので」
「そうなんですね」

 リリンからこの話を聞いて、やっぱり一定の需要が見込めると判断したクララは、媚薬も作る薬に加える事を改めて決める。
 因みにこの間、サーファは、顔を真っ赤にしていた。本当は耳を塞いでおきたかったのだが、クララの護衛として周辺警戒をしないといけないので、耳を塞ぐわけにもいかず、全部聞かないといけなかった。
 魔王城に戻ってきたクララ達は、部屋ではなく直接薬室に戻った。アリエスがちゃんと仕事を出来ているか確認するためだ。

「ただいま」

 そう言いながら扉を開けると、せっせと作業をしているアリエスが、そこにいた。

「あ、お、おかえり。目標数は作れたよ」
「本当? すぐに確認するね」

 アリエスが嘘をついているとは思ってはいないが、雇い主として、ここはしっかりと確認しないといけない。

「…………」

 黙々と数を数えるクララに、若干アリエスが緊張する。クララから怒られるなんて事はないと思われるが、やはりこういう場面では緊張してしまうようだ。

「うん。大丈夫。ちゃんと数は合ってるよ。そうしたら、今日はもう切り上げて良いから。お疲れ様」
「う、うん。良かったぁ」
「別に目標数に達してなくても、怒らないよ? 量は大分多いし」

 軍と薬屋に卸す分を作るので、作らないといけない薬の量は多い。それでも、かなり余裕を持たせてはいるので、目標数に届かなくてもすぐに影響が出るという事はない。

「それにしても、サーファさんも無しに、良く作れたね」
「あ、うん。私が持つ事の出来るギリギリの量を作るようにしてたんだ。クララよりは力があるから、その分作れる量は多かったのかも」
「うぐっ……」

 アリエスに力で負けている事を痛感させられ、クララは肩を落とす。そのクララの肩に、リリンが手を置く。

「クララさん。アリエスは、病み上がりとはいえ、獣族です。力で負けているのは、当たり前と考えた方が良いです。そして、アリエスが完全に元に戻ったら、クララさんよりもかなり上になります。今の内に勝てるという幻想は捨てましょう」
「うっ……じゃ、じゃあ、せめてサラよりも力強くなれますか?」
「無理でしょう。エルフと言えど、畑仕事をしている訳ですから」

 友人間で一番力が弱い判定を受け、それが覆る事はないと断言されてしまった。リリンが、ここまではっきりと言い切ったのは、下手に希望を持たせない方が良いからだ。

「ク、クララは、今のままでも良いと思うよ。か、可愛いし」
「いや、別にムキムキになりたい訳ではないんだよ?」
「え、あ、そうなの?」

 今までの話をまとめて、アリエスは、クララがムキムキの力持ちになりたいのだと考えていた。唐突に可愛いなんて言葉が出て来たから、そう考えているとクララは察したのだ。

「私、てっきり筋肉への憧れがあるんだと思ってたよ」
「さすがに、そこまでの憧れはないよ。それがあったら、喜んで運動するし。ただ、同じ細腕の皆に負けられないって思っていたんだけど、そもそも素養が違いすぎたよ」
「えっと……ごめん?」
「ううん。謝らないで。そもそもアリエスが悪いわけじゃないし。こっちの方こそ、困らせちゃってごめんね。私は、私の出来る事を最大限にやれるようにならないとね」

 クララは、自分の持ち味を活かす事に集中する事を誓った。

「そうだよ。無理に比べる必要はないんだから」

 サーファがそう言って、クララを後ろから抱きしめる。

「そうですね。取りあえず、後片付けは手伝うよ」
「えっ、さすがに悪いよ」
「良いの良いの。私の薬室なんだから」

 サーファから離れたクララは、アリエスと一緒に薬室の後片付けをしていく。アリエスは、基本的に綺麗に薬室を使うので、後片付けに時間は掛からなかった。
 そして、業務を終えたアリエスは、そのまま自宅へと帰っていった。ここでも、サーファはついていかない。これも一人で魔王城を歩く練習だ。緊張しないで歩くのは無理だが、最初の頃よりは緊張せずに歩けていた。だが、これは、まだ始まりに過ぎない。ここは、魔王城。つまり、魔王が歩いている可能性もあるのだから。
 アリエスとも別れたクララは、部屋に戻り、薬学書を持ってサーファの膝に座る。普通に椅子に座って読んでいても、いつの間にかサーファの膝に乗せられてしまうので、最初から座ったのだった。サーファも特に文句を言わずに、クララを抱きしめていつも通り過ごした。
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