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可愛がられる聖女
薬室の従業員
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クララ達が魔王城に帰ってきてから、一週間が経った。旅行であった大きな波乱が嘘かのように、魔王城にはいつも通りの日々が流れていた。それを良い事と思うのか、悪い事と思うのかは、人それぞれだが、クララはそれを良い事だと思う事にした。
魔王城が大慌てしなくても、マリンウッドの対処が上手くいっていると考えられたからだ。若干心配は残っているが、メイリーがいるので大丈夫という考え方もある。
そんな中で、クララは、自分の薬室に来た。いつも通りの薬作りだが、今日は今までと違う事がある。
「えっと、確か今日からでしたよね?」
「はい。今、サーファが迎えに行っていますので、ここでお待ちください」
そう。クララが不治の病から助けたアリエスが、この薬室に合流する予定だった。アリエスは、身体を動かすリハビリと薬師としてのリハビリを行っていたので、病を治してすぐに合流という事は出来なかった。だが、クララが旅行に行っている間にも、リハビリを続けていて、ようやく合流出来るまでになったのだ。
そういった理由で、クララはまだかまだかとそわそわしているのだった。
そんな待ち遠しい状態になっていると、薬室の扉が開いてサーファが入ってきた。サーファは、扉を開けたままアリエスに中に入るよう促す。
すると、緊張からか同じ方の手足を同時に前に出して歩いていた。それだけでなく、表情もかなり硬い。
「えっと……アリエスさん、大丈夫?」
「だ、だだ、だだあ、だ、大丈夫で、です」
誰がどう見ても大丈夫じゃないアリエスに、クララは軽い足取りで近づいていく。そして、若干震えているアリエスの手を握る。
「魔王城だから、緊張しちゃうと思うけど、多分、その内慣れると思うよ。私もリリンさんもサーファさんもいるから大丈夫」
クララがそう言って笑うと、アリエスの表情が少しだけ解れた。だが、まだ緊張はしている。こればかりは、クララの言う通り慣れるしかないので、時間を掛けないと無理だろう。
だが、そんなアリエスの緊張を最大まで引き上げる出来事が起きる。
「仕事が片付いたから遊びに来たわよ~」
魔王妃であるカタリナが遊びに来てしまったのだ。珍しく仕事が早く終わったので、若干浮かれている。それに加えて、二週間程クララがいなかったので、寂しかったというのもある。いつもなら歓迎するところだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
クララは、カタリナの腰を掴んで、後ろを向かせる。そして、そのまま背中を押して薬室から出て行かせる。
「え?」
「アリエスさんが来ていて、カタリナさんがいると、緊張してしまいますから、慣れるまでは薬室にくるのを控えてください。部屋にいるときだったら、いつでも来て下さって構いませんから」
「えぇ~!?」
カタリナを薬室の外に出したクララは、薬室の扉を閉める。外に閉め出されてしまったカタリナは、肩を落としながら自分の執務室へと帰っていった。ちなみに、これをメイドに愚痴ったところ、クララの言い分がごもっともと言われ、またふて腐れていた。
クララがカタリナを追い出した光景を見たアリエスは、口をパクパクと開閉していた。魔王妃であるカタリナに対してぞんざいな扱いをしていたからだろう。
「まぁ、時々カタリナさんとか魔王様が来る時もあるから、そっちも慣れてね」
「は、はい!」
まさか、魔王や魔王妃が訪れるような場所とは思っておらず、アリエスの緊張度は増していく一方だった。
「それじゃあ、まずは、アリエスさんがどのくらい出来るのかを確認させてもらうね」
「わ、分かりました! あ、後、私の事は呼び捨てでお願いします」
「そう? 分かった。じゃあ、私の事も呼び捨てで良いよ」
自分と同い年くらいだろうから、アリエスも同じく呼び捨てにして良いと考えたクララだったが、アリエスは少し戸惑っていた。
「えっと……でも、私の雇い主ですから……」
「え? ああ、それを気にして、ずっと敬語だったの? 全然気にしなくて良いよ。同い年くらいなんだし、気楽にやろう?」
クララは笑いながらそう言う。クララが本心からそう言ってくれている事を感じたアリエスは、リリンやサーファの事を見る。クララ本人が許可してくれたとしても、実際にそうして良いかは別だと考えたからだ。
リリンとサーファは、首を縦に振る。
「えっと……わ、分かった。これからよろしく、クララ」
「うん。よろしくね。アリエス。じゃあ、改めて、アリエスの実力を見させてもらうね」
「うん……!」
アリエスは、まだ緊張しているようだが、その目は弱々しいものではなくなっていた。
クララ達は、薬室の扉の横に立って、アリエスを見守る。アリエスは、薬室内を軽く見ていき、どこに何があるのかを把握していく。
そして、一度深呼吸をしてから薬の調合を始めた。たどたどしさも感じさせず、スムーズに調合していくのを見て、クララは少しご機嫌になっていた。
「嬉しそうですね?」
クララの様子に気付いたリリンが、小さな声で話しかける。
「はい。あそこまで薬作りが出来るのなら、基本的な量産は任せても良さそうですし、安定して薬の提供が出来そうですから。それに、私も新しい薬を作り始められそうです」
「なるほど、確かにそうですね」
新しい薬草がなかったという事もあるが、最近は薬室内でやることと言えば、薬の量産だけだった。尚且つ、その量産に集中しないと、数が足りなくなる可能性もあったので、新薬の製造に手を付けられる状態ではなかった。
そんなこんなで、クララが作っている薬は、アリエスも問題無く製造出来た。
「うん。ちゃんと出来てるし、これならどこに卸しても大丈夫だね」
「あ、ありがとう」
「それじゃあ、アリエスには、今作った薬の量産をお願いするね。ここの大きな鍋とかを使って良いから。重かったりしたら、サーファさんに頼めば手伝って貰えるから」
クララがそう言ってサーファを見たので、アリエスもサーファの方を見る。二人の視線を受けたサーファは、にっこりと笑って手を振った。
「まぁ、材料がないから、しばらくの間は、私も一緒に」
クララがそこまで言った瞬間、薬室の扉が勢いよく開く。
「クララ! 収穫出来たよ!」
「サラ!?」
勢いよく入ってきたサラの手には、大量の実が入った籠があった。サラは、それをクララに手渡す。
「それがモイスの実。これから二日に一回くらいは収穫出来ると思う。まだ数を揃えられないから、そこは頭に入れておいて」
「うん。分かった。態々持ってきてくれて、ありがとう」
「せっかくの最初の収穫物だから、ちゃんと渡しておきたかったんだ。まぁ、仕事の途中だから、これで失礼するね。あ、そうそう。また新しい薬草を育て始めたから、暇があったら薬草園に来て」
「あ、うん。分かった」
サラは、クララに手を振り、リリン達に頭を下げてから薬室を出て行った。若干急いでいる雰囲気があったので、本当に仕事の途中で来たようだった。
「サラって、本当に嵐みたいですね」
「そうでしたね。取りあえず、薬草園に向かう日は近くに作っておきます」
「はい。お願いします」
リリンにそう言ったクララは、アリエスの方に向かう。
「新しい材料が来たから、私は別の薬を作るね。アリエスは、そのまま量産をお願い。アリエスが作る薬が、店頭に並んだり、軍の人が使ったりするから、丁寧にお願いね」
「う、うん!」
アリエスが薬の量産をしている間に、クララは新しく届いたモイスの実を手に取る。モイスの実の大きさは、手のひらと同じくらいだ。モイスの実は、喉薬や保湿薬に使用する実で、どちらも比較的簡単に作る事が出来る。
モイスの実と向き合っているクララの横にリリンがやってくる。
「使えそうですか?」
「はい。喉に効く薬とお肌の保湿に使う薬が出来ます。種の方は保湿薬で、果肉の方が喉に効くんです」
「種ですか?」
「はい。種に油がたっぷり入っているので、それを絞って色々したら出来上がりです」
キラキラした目で説明するクララの頭を、リリンは優しく撫でる。クララからしたら、突然撫でられたので、驚いていたが、いつも通りといえばいつも通りなので、そのまま受け入れる。
「では、私は部屋の掃除に行きますが、危険な事はしないで下さいね?」
「あ、はい」
「サーファ、この場は任せます」
「分かりました」
アリエスの手伝いをしていたサーファは、毅然と返事をする。この生活にも大分慣れたので、こういった面でも頼もしさが出て来た。薬室の管理(主にクララの管理)をサーファに任せて、リリンはクララの部屋の掃除をしに向かう。
魔王城が大慌てしなくても、マリンウッドの対処が上手くいっていると考えられたからだ。若干心配は残っているが、メイリーがいるので大丈夫という考え方もある。
そんな中で、クララは、自分の薬室に来た。いつも通りの薬作りだが、今日は今までと違う事がある。
「えっと、確か今日からでしたよね?」
「はい。今、サーファが迎えに行っていますので、ここでお待ちください」
そう。クララが不治の病から助けたアリエスが、この薬室に合流する予定だった。アリエスは、身体を動かすリハビリと薬師としてのリハビリを行っていたので、病を治してすぐに合流という事は出来なかった。だが、クララが旅行に行っている間にも、リハビリを続けていて、ようやく合流出来るまでになったのだ。
そういった理由で、クララはまだかまだかとそわそわしているのだった。
そんな待ち遠しい状態になっていると、薬室の扉が開いてサーファが入ってきた。サーファは、扉を開けたままアリエスに中に入るよう促す。
すると、緊張からか同じ方の手足を同時に前に出して歩いていた。それだけでなく、表情もかなり硬い。
「えっと……アリエスさん、大丈夫?」
「だ、だだ、だだあ、だ、大丈夫で、です」
誰がどう見ても大丈夫じゃないアリエスに、クララは軽い足取りで近づいていく。そして、若干震えているアリエスの手を握る。
「魔王城だから、緊張しちゃうと思うけど、多分、その内慣れると思うよ。私もリリンさんもサーファさんもいるから大丈夫」
クララがそう言って笑うと、アリエスの表情が少しだけ解れた。だが、まだ緊張はしている。こればかりは、クララの言う通り慣れるしかないので、時間を掛けないと無理だろう。
だが、そんなアリエスの緊張を最大まで引き上げる出来事が起きる。
「仕事が片付いたから遊びに来たわよ~」
魔王妃であるカタリナが遊びに来てしまったのだ。珍しく仕事が早く終わったので、若干浮かれている。それに加えて、二週間程クララがいなかったので、寂しかったというのもある。いつもなら歓迎するところだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
クララは、カタリナの腰を掴んで、後ろを向かせる。そして、そのまま背中を押して薬室から出て行かせる。
「え?」
「アリエスさんが来ていて、カタリナさんがいると、緊張してしまいますから、慣れるまでは薬室にくるのを控えてください。部屋にいるときだったら、いつでも来て下さって構いませんから」
「えぇ~!?」
カタリナを薬室の外に出したクララは、薬室の扉を閉める。外に閉め出されてしまったカタリナは、肩を落としながら自分の執務室へと帰っていった。ちなみに、これをメイドに愚痴ったところ、クララの言い分がごもっともと言われ、またふて腐れていた。
クララがカタリナを追い出した光景を見たアリエスは、口をパクパクと開閉していた。魔王妃であるカタリナに対してぞんざいな扱いをしていたからだろう。
「まぁ、時々カタリナさんとか魔王様が来る時もあるから、そっちも慣れてね」
「は、はい!」
まさか、魔王や魔王妃が訪れるような場所とは思っておらず、アリエスの緊張度は増していく一方だった。
「それじゃあ、まずは、アリエスさんがどのくらい出来るのかを確認させてもらうね」
「わ、分かりました! あ、後、私の事は呼び捨てでお願いします」
「そう? 分かった。じゃあ、私の事も呼び捨てで良いよ」
自分と同い年くらいだろうから、アリエスも同じく呼び捨てにして良いと考えたクララだったが、アリエスは少し戸惑っていた。
「えっと……でも、私の雇い主ですから……」
「え? ああ、それを気にして、ずっと敬語だったの? 全然気にしなくて良いよ。同い年くらいなんだし、気楽にやろう?」
クララは笑いながらそう言う。クララが本心からそう言ってくれている事を感じたアリエスは、リリンやサーファの事を見る。クララ本人が許可してくれたとしても、実際にそうして良いかは別だと考えたからだ。
リリンとサーファは、首を縦に振る。
「えっと……わ、分かった。これからよろしく、クララ」
「うん。よろしくね。アリエス。じゃあ、改めて、アリエスの実力を見させてもらうね」
「うん……!」
アリエスは、まだ緊張しているようだが、その目は弱々しいものではなくなっていた。
クララ達は、薬室の扉の横に立って、アリエスを見守る。アリエスは、薬室内を軽く見ていき、どこに何があるのかを把握していく。
そして、一度深呼吸をしてから薬の調合を始めた。たどたどしさも感じさせず、スムーズに調合していくのを見て、クララは少しご機嫌になっていた。
「嬉しそうですね?」
クララの様子に気付いたリリンが、小さな声で話しかける。
「はい。あそこまで薬作りが出来るのなら、基本的な量産は任せても良さそうですし、安定して薬の提供が出来そうですから。それに、私も新しい薬を作り始められそうです」
「なるほど、確かにそうですね」
新しい薬草がなかったという事もあるが、最近は薬室内でやることと言えば、薬の量産だけだった。尚且つ、その量産に集中しないと、数が足りなくなる可能性もあったので、新薬の製造に手を付けられる状態ではなかった。
そんなこんなで、クララが作っている薬は、アリエスも問題無く製造出来た。
「うん。ちゃんと出来てるし、これならどこに卸しても大丈夫だね」
「あ、ありがとう」
「それじゃあ、アリエスには、今作った薬の量産をお願いするね。ここの大きな鍋とかを使って良いから。重かったりしたら、サーファさんに頼めば手伝って貰えるから」
クララがそう言ってサーファを見たので、アリエスもサーファの方を見る。二人の視線を受けたサーファは、にっこりと笑って手を振った。
「まぁ、材料がないから、しばらくの間は、私も一緒に」
クララがそこまで言った瞬間、薬室の扉が勢いよく開く。
「クララ! 収穫出来たよ!」
「サラ!?」
勢いよく入ってきたサラの手には、大量の実が入った籠があった。サラは、それをクララに手渡す。
「それがモイスの実。これから二日に一回くらいは収穫出来ると思う。まだ数を揃えられないから、そこは頭に入れておいて」
「うん。分かった。態々持ってきてくれて、ありがとう」
「せっかくの最初の収穫物だから、ちゃんと渡しておきたかったんだ。まぁ、仕事の途中だから、これで失礼するね。あ、そうそう。また新しい薬草を育て始めたから、暇があったら薬草園に来て」
「あ、うん。分かった」
サラは、クララに手を振り、リリン達に頭を下げてから薬室を出て行った。若干急いでいる雰囲気があったので、本当に仕事の途中で来たようだった。
「サラって、本当に嵐みたいですね」
「そうでしたね。取りあえず、薬草園に向かう日は近くに作っておきます」
「はい。お願いします」
リリンにそう言ったクララは、アリエスの方に向かう。
「新しい材料が来たから、私は別の薬を作るね。アリエスは、そのまま量産をお願い。アリエスが作る薬が、店頭に並んだり、軍の人が使ったりするから、丁寧にお願いね」
「う、うん!」
アリエスが薬の量産をしている間に、クララは新しく届いたモイスの実を手に取る。モイスの実の大きさは、手のひらと同じくらいだ。モイスの実は、喉薬や保湿薬に使用する実で、どちらも比較的簡単に作る事が出来る。
モイスの実と向き合っているクララの横にリリンがやってくる。
「使えそうですか?」
「はい。喉に効く薬とお肌の保湿に使う薬が出来ます。種の方は保湿薬で、果肉の方が喉に効くんです」
「種ですか?」
「はい。種に油がたっぷり入っているので、それを絞って色々したら出来上がりです」
キラキラした目で説明するクララの頭を、リリンは優しく撫でる。クララからしたら、突然撫でられたので、驚いていたが、いつも通りといえばいつも通りなので、そのまま受け入れる。
「では、私は部屋の掃除に行きますが、危険な事はしないで下さいね?」
「あ、はい」
「サーファ、この場は任せます」
「分かりました」
アリエスの手伝いをしていたサーファは、毅然と返事をする。この生活にも大分慣れたので、こういった面でも頼もしさが出て来た。薬室の管理(主にクララの管理)をサーファに任せて、リリンはクララの部屋の掃除をしに向かう。
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