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聖女の旅行
魔王城へ帰宅
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魔王城の中に戻ってきたクララ達は、帰宅した旨を知らせるためにカタリナの執務室にやって来た。リリンがノックをする。
「リリンです。マリンウッドより帰って参りました」
「入って」
返事が来たので、クララとサーファと伴って、カタリナの執務室に入る。
「おかえりなさい、三人とも。そこに座って」
カタリナに言われて、対面に並んでいるソファの片方に座る。リリンとサーファは、ソファに座らずにその後ろに立った。
「マリンウッドでは大変だったみたいね。クララちゃんのおかげで、人的被害は最小限で済んだみたいだけど」
「あっ、もう知っているんですね」
噴火発生から、二週間も経っているので、その知らせは魔王城にも届いていた。
「本当によくやってくれたわ。お手柄ね」
カタリナに褒められると、クララは少し照れた。その後、マリンウッドでの出来事を話した。やはり水龍の件は、カタリナも驚いていた。
「とても楽しかったようで安心したわ。今日は、もう休みなさい。他に話があるから、リリンだけは残って」
「かしこまりました。サーファ、クララさんをお願いします」
「はい。では、失礼します。行くよ、クララちゃん」
「はい。じゃあ、失礼します」
「ええ、またね」
クララは、サーファに連れられて、執務室を出て行った。
「さてと、リリンに残って貰ったのは、クララちゃんに伝えるかどうか迷う事が起きたからなのよ」
その前振りだけで、リリンの雰囲気がピリッとする。
「簡単に言うと、あなた達がマリンウッドに行っている間に、勇者が攻めてきたのよ」
「!?」
思ってもみなかった内容に、リリンも驚いた。
「大丈夫だったのですか?」
「知らせによると、勇者はかなり強くなっていたみたいだけど、撃退したらしいわ」
「え?」
カタリナの話を、リリンは素で疑問に感じた。強くなっていたという勇者を撃退したと言う。
「勇者の力が強くなっていたのは、勇者が放った攻撃で、周囲の地形が少し変わったところから判断されているらしいわ。でも、人的被害は、クララちゃんが奮闘したラビオニアを除いて、一番少なかったわ」
「何があったのですか?」
「勇者の力が、無効化されたのよ。勇者本人の力だけだったら、魔族の敵ではないみたいね」
「何故、そのような事が……まさか、クララさんの聖別ですか?」
クララは、魔力酒で酔っぱらってしまった際に、魔王城を聖別した。それで魔王城の効力が消える事はなく、魔族達に力を与えていた。だが、それ以外に何か変わったところがあったのかは分からなかった。それが、ここで判明したのだ。
「私はそう考えているわ。ラビオニアで、クララちゃんが勇者の力を無力化したっていう実例もあるから。魔王城を聖別した効果は、魔族に聖女の力を付与するというものだったんじゃないかしら?」
「では、今後勇者の侵攻を恐れないで良いという事ですか?」
「それはないわね。勇者は、何故か私達魔族を恨んでいるもの。こうして、負けた事で、また力を付ける可能性があるわ。勇者の力が聖女の力を上回れば、無効化は出来ないと思うわ」
「なるほど……今は、クララさんの想いの方が強いという事ですね」
「ええ。本来、相対するはずのない力同士のはずだから、どうなるのか分からないけどね。それで、問題は、これをクララちゃんに話すかどうかなのよ。勇者の話だから、少し迷うのよね」
カタリナとしては、クララに余計な心労をかけたくないのだ。だから、クララに話すかどうかをリリンに相談しようという決断になった。
「そうですね……取りあえずは、黙っておきましょう」
「リリンも同じ考えみたいね。それじゃあ、余程の事がないかぎり、クララちゃんには黙っている方向で」
リリンもクララの心を心配したため、クララには黙っておく方針となった。他にも、せっかくクララが楽しい気分なのに、それを害したくないという気持ちもあった。
リリンが、これで話は終わりだと思っていると、カタリナがにこやかに笑った。
「どうかされましたか?」
「今回の旅行で、リリンはライナー達が開発したあれを持っていったでしょ?」
「あれ……? ああ、写影機の事ですね」
「そうそう。出来れば、撮ったものを見たいなぁって」
「分かりました。後ほど、お持ちします」
「ありがとう。リリンが持っていったって聞いて、ちょっと楽しみにしていたのよ」
カタリナは、クララが楽しんでいる姿を直接見る事は叶わなかったので、せめて写真だけでもと考えていた。
リリンが快諾してくれたので、カタリナは嬉しそうに喜んだ。それを傍から見ていたカタリナの専属メイドは、小さく笑っていた。
その後、カタリナの執務室を後にしたリリンは、クララの部屋に戻ってきた。
「あっ、リリンさん、おかえりなさい」
「はい。ただいま帰りました。夕飯はまだのようですね。食堂を見てきます。少しお待ちください」
「は~い」
久しぶりの魔王城の夕飯を食べ、クララは早々に就寝した。それを確認したリリンは、サーファと二人で写真の仕分けをし、時系列順にまとめたものをカタリナに渡した。それを受け取ったカタリナは、微笑ましいものを見るように、一枚一枚丁寧に見ていった。
「本当に水龍と友達になったのね。それに、どの写真も楽しそうだわ。可愛いわ……もっと昔に写影機があれば、あの子達もこうして撮って上げられたのよね……あっ」
写真に写るクララに癒やされていると、カタリナはある事を思い出した。
「そういえば、二、三週間後に娘達が一時的に帰ってくるって事、伝え忘れていたわ。まぁ、まだ時間があるし、今度でも良いわよね」
カタリナはそう言い訳しつつ、クララの写真を眺め続けた。
「リリンです。マリンウッドより帰って参りました」
「入って」
返事が来たので、クララとサーファと伴って、カタリナの執務室に入る。
「おかえりなさい、三人とも。そこに座って」
カタリナに言われて、対面に並んでいるソファの片方に座る。リリンとサーファは、ソファに座らずにその後ろに立った。
「マリンウッドでは大変だったみたいね。クララちゃんのおかげで、人的被害は最小限で済んだみたいだけど」
「あっ、もう知っているんですね」
噴火発生から、二週間も経っているので、その知らせは魔王城にも届いていた。
「本当によくやってくれたわ。お手柄ね」
カタリナに褒められると、クララは少し照れた。その後、マリンウッドでの出来事を話した。やはり水龍の件は、カタリナも驚いていた。
「とても楽しかったようで安心したわ。今日は、もう休みなさい。他に話があるから、リリンだけは残って」
「かしこまりました。サーファ、クララさんをお願いします」
「はい。では、失礼します。行くよ、クララちゃん」
「はい。じゃあ、失礼します」
「ええ、またね」
クララは、サーファに連れられて、執務室を出て行った。
「さてと、リリンに残って貰ったのは、クララちゃんに伝えるかどうか迷う事が起きたからなのよ」
その前振りだけで、リリンの雰囲気がピリッとする。
「簡単に言うと、あなた達がマリンウッドに行っている間に、勇者が攻めてきたのよ」
「!?」
思ってもみなかった内容に、リリンも驚いた。
「大丈夫だったのですか?」
「知らせによると、勇者はかなり強くなっていたみたいだけど、撃退したらしいわ」
「え?」
カタリナの話を、リリンは素で疑問に感じた。強くなっていたという勇者を撃退したと言う。
「勇者の力が強くなっていたのは、勇者が放った攻撃で、周囲の地形が少し変わったところから判断されているらしいわ。でも、人的被害は、クララちゃんが奮闘したラビオニアを除いて、一番少なかったわ」
「何があったのですか?」
「勇者の力が、無効化されたのよ。勇者本人の力だけだったら、魔族の敵ではないみたいね」
「何故、そのような事が……まさか、クララさんの聖別ですか?」
クララは、魔力酒で酔っぱらってしまった際に、魔王城を聖別した。それで魔王城の効力が消える事はなく、魔族達に力を与えていた。だが、それ以外に何か変わったところがあったのかは分からなかった。それが、ここで判明したのだ。
「私はそう考えているわ。ラビオニアで、クララちゃんが勇者の力を無力化したっていう実例もあるから。魔王城を聖別した効果は、魔族に聖女の力を付与するというものだったんじゃないかしら?」
「では、今後勇者の侵攻を恐れないで良いという事ですか?」
「それはないわね。勇者は、何故か私達魔族を恨んでいるもの。こうして、負けた事で、また力を付ける可能性があるわ。勇者の力が聖女の力を上回れば、無効化は出来ないと思うわ」
「なるほど……今は、クララさんの想いの方が強いという事ですね」
「ええ。本来、相対するはずのない力同士のはずだから、どうなるのか分からないけどね。それで、問題は、これをクララちゃんに話すかどうかなのよ。勇者の話だから、少し迷うのよね」
カタリナとしては、クララに余計な心労をかけたくないのだ。だから、クララに話すかどうかをリリンに相談しようという決断になった。
「そうですね……取りあえずは、黙っておきましょう」
「リリンも同じ考えみたいね。それじゃあ、余程の事がないかぎり、クララちゃんには黙っている方向で」
リリンもクララの心を心配したため、クララには黙っておく方針となった。他にも、せっかくクララが楽しい気分なのに、それを害したくないという気持ちもあった。
リリンが、これで話は終わりだと思っていると、カタリナがにこやかに笑った。
「どうかされましたか?」
「今回の旅行で、リリンはライナー達が開発したあれを持っていったでしょ?」
「あれ……? ああ、写影機の事ですね」
「そうそう。出来れば、撮ったものを見たいなぁって」
「分かりました。後ほど、お持ちします」
「ありがとう。リリンが持っていったって聞いて、ちょっと楽しみにしていたのよ」
カタリナは、クララが楽しんでいる姿を直接見る事は叶わなかったので、せめて写真だけでもと考えていた。
リリンが快諾してくれたので、カタリナは嬉しそうに喜んだ。それを傍から見ていたカタリナの専属メイドは、小さく笑っていた。
その後、カタリナの執務室を後にしたリリンは、クララの部屋に戻ってきた。
「あっ、リリンさん、おかえりなさい」
「はい。ただいま帰りました。夕飯はまだのようですね。食堂を見てきます。少しお待ちください」
「は~い」
久しぶりの魔王城の夕飯を食べ、クララは早々に就寝した。それを確認したリリンは、サーファと二人で写真の仕分けをし、時系列順にまとめたものをカタリナに渡した。それを受け取ったカタリナは、微笑ましいものを見るように、一枚一枚丁寧に見ていった。
「本当に水龍と友達になったのね。それに、どの写真も楽しそうだわ。可愛いわ……もっと昔に写影機があれば、あの子達もこうして撮って上げられたのよね……あっ」
写真に写るクララに癒やされていると、カタリナはある事を思い出した。
「そういえば、二、三週間後に娘達が一時的に帰ってくるって事、伝え忘れていたわ。まぁ、まだ時間があるし、今度でも良いわよね」
カタリナはそう言い訳しつつ、クララの写真を眺め続けた。
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