上 下
4 / 122
何も知らない聖女

待遇のわけ

しおりを挟む
 クララは、何故自分が魔族から好待遇を受けるのかリリンに質問する。今までの好待遇は、クララには、違和感しか覚えないものだからだった。

「私達が世話を焼く理由は、これまでのクララさんの待遇などに同情した結果です。クララさんが、聖女として目覚めて、教会とパーティーから、嫌がらせなどを受けていた事を知っていますから」
「!!」

 この言葉には、クララは少なからず衝撃を受ける。先程、リリンが言っていた『クララの事は、何でも知っている』という言葉は、場を和ませる冗談だと判断していたからだった。だが、今の言葉で、それが本当の事だと判明した。

 クララは、聖女としての力が目覚めた時、元々住んでいた場所から、教会へと連れて行かれた。それは、クララが、十一歳のことだった。突然、親と離されたクララは、教会にて軟禁状態にされた。そこで、聖女としてのあれこれを詰め込まれたのだ。
 その際に、クララが幼いことを良いことにベタベタと身体を触ってくる男もいた。クララは、常に嫌がっていたが、子供と大人では力の差が歴然としており、それらは、無駄に終わっていた。
 そして、一年後には、カルロス達と共に、魔王討伐のために旅に出ることとなった。旅に出て一年が経った頃、クララの聖女としての能力が、魔族に対して、ほぼ無意味である事が分かった。クララに出来るのは、回復用の薬などを製造して、カルロス達に使って貰う事だけであった。

 それが判明してから、カルロス達は、クララに対して、様々な嫌がらせをするようになる。重い荷物を、わざとクララに持たせる事や食事量を減らす事、そして、クララを追放したときに言っていたような肉体関係を迫ってきていたのだ。
そして、クララの役立たずさに、我慢できなくなったカルロスは、三年間旅を共にしたクララを追放した。
 カルロスが、クララを追放したときに、食事を奢ったのは、せめてもの情けだったのかもしれない。

「教会はともかく、勇者達のしたことは、正当的な事でもあると思いますよ。実際、役立たずではあったわけですから」

 クララは、自身の役立たずさに関しては、きちんと自覚していた。薬などを作って貢献はしていたが、それでも本来の役割を果たせていない時点で、役立たずなのは変わりない。向こうの言い方と言い分に、苛つきはあったものの、追放自体には納得しているところもあったのだった。

「それはそうかもしれませんが、勇者達には、他にもクララさんに嫌がらせした意味があります」
「え?」
「単純に嫌がらせをして、優越感を得ていただけのようです。クララさんの身体を要求したのも、征服感を得たいと思っての事みたいです」
「きも……」

 リリンが教えてくれた事に、クララは思わず本音が漏れてしまった。

「そうですね。それ故、我々の間では、あの勇者は、性欲の勇者と呼称しています」
「なるほど……確かに、道行く先々で女性と遊んでいましたしね」
「魔族に対する強さではなく、性欲の方に強さが振られているようですね。正直、勇者の監視係が可哀想です」

 リリンがそう言うと、同時に部屋の扉がいきなり開いた。

「ここに、聖女の幼女がいるとは本当か!?」

 扉の向こうにいたのは、灰色の髪をオールバックに固めて、燕尾服を着た執事のような老齢の男だった。興奮しているため、鼻息が非常に荒い。

「黙れ」

 その男に、リリンがお盆を投げつける。

「ぐごっ!」

 お盆の角が、男の眉間に刺さった。その後、すぐにリリンがベルを鳴らす。すると、他の執事が一人やって来た。

「お呼びでしょうか?」
「その変態を地下の反省房に入れておいてください」
「かしこまりました」

 変態の男は、執事に連れて行かれた。

「申し訳ありません。ここにも変態が、一人いたのを失念していました」

 リリンが、クララに謝るが、クララは反応をしなかった。クララは、今、自分の胸に手を当てて、虚ろな目になっている。

「私って……幼女に見えますかね? これでも、十五歳なんですが……」
「いえ、年齢のわりに成長は遅いと思いますが、幼女には見えませんよ。恐らく、伝達に問題があったのでしょう」

 成長は遅いという事を認められてしまったので、クララの表情は、更に暗くなる。クララの身体の成長が遅い理由は、成長期である時期に十分な食事などを摂れなかった事と軟禁状態や待遇などのストレスにあると考えられる。
それをクララ自身は、知らないので、自分はあまり成長しないと思っている。だが、幼女と間違われる程酷いとは思っていなかった。

「取りあえず、今日は、もう休みましょう。今のリンゴでは、お腹が満たされないと思いますが、先程吐き出してしまっているので、我慢してください」
「あっ、はい……」

 先程から、リリンがクララにリンゴを食べさせていた理由は、今日の分の食事だった。本来は、もう少ししっかりとした食事を用意するのだが、嘔吐直後ということもあって、軽めのものにしたのだ。

「念のため、扉に鍵を掛けておきます。さっきの変態が、反省房を脱出してくる可能性もありますので。クララさんも、勝手に部屋からは出ないようにしてください。あの変態は、あんなですが、かなり強いので」
「はい……」

 さっきの変態は怖いと感じたため、クララは、大人しく部屋の中にいることにした。ただ、探索は続けようと心の中で決める。そんなクララに、部屋のカーテンを閉めていたリリンが微笑む。

「もし、寝られないのであれば、ここに連れてきた時の様にして差し上げますが、どうしますか?」
「?」

クララは、一瞬何のことかと首を傾げたが、すぐに人族領での最後の記憶を思い出す。結果、顔が一気に真っ赤になる。

「い、いえ、自分で寝られます!!」

 クララはそう言って、羽毛布団を被って、眼を瞑った。すると、不思議なことに、それまでなかった眠気が、一気に襲ってきて、すぐに眠りについた。
 小さく寝息を立てるクララの様子を確認したリリンは、部屋の灯りを消していく。

(身体は疲れていなくても、心は疲れていましたからね。ゆっくりとお休みください)

 リリンは、クララを起こさないように部屋を出て、鍵を閉めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

Gate of World―開拓地物語―

三浦常春
ファンタジー
積みゲーを消化しようと思い立った「俺」が開いたのは、MMO開拓シミュレーションゲームだった。 その名も『Gate of World』。 いずれ来たる魔王討伐に向けて、「勇者」が立ち寄ることのできる村を作る――それが、このゲームの目的らしい。 みんなでワイワイ村作りを行うかと思いきや、放り込まれたのは何もない平野!? しかも初めてやって来た村人はニート!? さらに初心者狩りの噂もあって、まあ大変! 果たして「俺」は、個性豊かな村人達を率いて村を発展させることが出来るのか……! ―――― ★前日譚―これは福音にあらず―公開しました。とある少年による、誰にも知られることのない独白です。   →https://www.alphapolis.co.jp/novel/937119347/869708739 ★カクヨム、ノベルアップ+でも同作品を公開しています。

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
「今度はどんな男の子供なんですか?」 「……どこにでもいる、冴えない男?」 (※本編より抜粋) 主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきて……。 紅と名乗った彼女と親しくなり始めた頃、翠は『マダム・ルージュ』なる人物の噂を耳にする。 名前だけでなく、他にも共通点のある二人の関連とは? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...