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第4章
【 74 】 慧瑠 視点 ♂
しおりを挟む学校帰りの中高生でほとんど満席状態のファーストフードは談笑に満ちあふれていて賑やかだ。
最近、売れっ子中の人気歌手の曲が店内に流れはじめると、俺の後ろを通り過ぎた女子学生二人組の「この曲好き~~! 良い曲だよねぇ~~」と楽しそうに話す声が聞こえてきた。
「慧瑠、昨日は殴ったりして、色々と悪かった」
朔登がジュースもポテトもハンバーガーも食べる前に、俺に頭を下げて謝ってきた。
昨日の夜、朔登からラインが送られてきて、俺は急遽、今日の放課後、こうして駅の近くのファーストフードで朔登と会うことになった。
そしてこの後に、俺は璃海と倉橋さんに会う。
「あ、いや……、朔登が怒るのは当然だと思うし、俺も後々どうなるのかちゃんと考えもせずに璃海のことをラブホに連れて行ったりして軽率だったと思う」
それに、朔登だけ反省するのはおかしい。
俺にだって反省すべき点がたくさんある。
俺は朔登とこのまま気まずくなるのは絶対に嫌だったし、このまま朔登との友情が壊れてしまうのも嫌だったから、こうして朔登と話せている現状がとてつもなく嬉しい。
それに、俺も朔登に直接話さなくちゃならないことがある。
これは、朔登にはちゃんと伝えなくてならない内容だ。
「朔登は、璃海のことが好きなんだな」
俺から図星を突かれた朔登は赤面させると同時に苦しそうに噎せはじめた。
俺も智景から『好きな人とか、彼女はいないのか?』と訊かれた時、今の朔登みたいな反応だったのかな?
「ああ、うん、そうだよ。おれ、荻村のことが好きで、それで慧瑠に嫉妬したから、昨日、慧瑠を殴ったのは八つ当たりもあったんだ」
決まり悪そうに言う朔登を見て、俺はすごく胸が痛んだけど、朔登には隠してはダメだと思った。
「俺さ、昨日、璃海を家に泊めたんだ」
朔登が真顔で俺を見る。
その朔登の表情からは、怒っているのか、驚いているのか、悲しんでいるのか、悔しがっているのかは、俺には分からない。
「俺も璃海のことが好きで、昨日から璃海とカレカノとして付き合いはじめた」
俺は璃海と一緒にラブホに入ったことは謝ったけど、璃海とカレカノになって申し訳ないとは思わなかった。
たとえ親友である朔登も璃海のことが好きだったとしても、俺は朔登のために自分の気持ちを誤魔化して、朔登に璃海を譲って応援するつもりは毛頭ない。
倉橋さんにも、朔登にも、俺は璃海のことをほかの誰にも渡したくはない。
「おれ、荻村に告ったけど、フラれているから」
朔登が苦笑いしながら言った。
「好きな人がいるから、おれの気持ちには応えられないってハッキリと断られたよ。その荻村の好きな人って慧瑠のことだったんだな」
俺の知らない所で璃海が朔登にそんなふうに言っていたのだと思うと、俺は嬉しさのあまり璃海への独占欲がさらに増して、愛しさが沸々と込み上げてきた。
「相思相愛な二人を邪魔したいと思うほど、おれは野暮じゃないよ」
朔登が姿勢を崩してハンバーガーにかぶりつく。
確かに朔登は人の物を奪い取ったり、誰かの恋人を横取りするような性格じゃないよなと、昔から朔登のことをよく知っている俺は朔登の友達であることが誇らしく思えた。
「万が一、慧瑠と荻村が別れたら、おれは遠慮なく荻村のことを奪うけどね」
冗談っぽく笑って言ってはいるけれど、これは朔登の本音だろうな。
「ラブホの写真なんだけどさ、朔登は誰が教室の黒板に写真を貼ったのか知っているか?」
俺と朔登との間に漂っていた緊張感が無くなって、いつもの和気あいあいとした雰囲気のなか、俺はずっと気になっていたことを朔登に訊ねた。
朔登はポテトを食いながら首を傾げる。
「さあ……? おれが朝、教室に入った時にはすでに黒板に貼られていて、クラス中が大騒ぎしていたからなぁ……」
あのラブホに泊まった日は成り行きで、偶然、駅で塚越に会ったからラブホに行くことになっただけで、そこに計画性なんてものは何もなかった。
これは、俺達三人を誰かが尾行していたってことなのか……?
俺は自分自身の心の中に得体の知れない不透明で不気味な靄が広がっていくのを感じ取っていた。
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