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06.師匠、弟子に快感を教わる

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 目覚めると、寝台には私ひとりだった。
 外で水音がしたので窓から覗くと、シューが上半身裸になって井戸の脇で水を被っていた。
 健康法だろうか。

「シュー、おはよう。ちゃんと拭いてね」
「しっしし師匠…おっ、おおおはようございます」

 布を持っていくと、シューは顔を赤くして、声も身体も震えているような…
 井戸水は冷たいだろう。風邪でも引いてしまっては本末転倒だ。
 無理矢理水気を拭うと、目を閉じて大人しく身を任せてくれた。
 シューの身体には、薄くなった傷跡がいくつかあった。


 粉を練って伸ばして切って茹でたものに、香辛料と煮詰めた蕾蜜をかける。甘酸っぱく炒めた茸を添えた。
 
「あっこれ、蕾の蜜。懐かしいです」
「うんうん、美味しいって言ってたよね。心ゆくまでかけてね」
「…覚えててくださったんですね」

 甘い朝食になってしまったが、シューは喜んでくれた…と思う。




「浄化って、幅が広いですよね」
「いろいろできると思う…多分。私は水を綺麗にするだけで満足しちゃってるけど」
「水の浄化を教えていただけますか」
「いいよ~」


「飲んでも問題ない程度にまで浄化するのは難しいんですね…」

 私が手本にと瓶に入れた泥水を浄水するのを見ていたシューはため息をついた。

「そうだね…毒を入れられた井戸とか大変だね」
「え、そんなことをしていたんですか」
「ずーっと昔にね」

 水を通して魔力を送って…と身振り手振りを交えて説明するうちに休憩時間になり、シューは私が先程浄化した水を呷った。

「うん、美味しいです」
「元の泥水見てたのに、よく飲めたね?」
「学院時代は泥水しかなければ飲んでいましたよ」
「ええっ、そんなことしてたの? お腹壊さなかった?」
「簡易の浄水器があったので、まあ大丈夫でした」
「よ…よかったあ」

 恐らく、過酷だったと想像する学校の実習での話だろう。
 ………魔法の学校…だよね?



 この時季になると土から生える、若い芽が夜の間に私の腰のあたりまで伸びる瑞々しい野菜を、畑の片隅に植えてある。
 陽の光を浴びるとみるみる硬くなり葉を出してしまうので、朝のうちに収穫しないといけない。
 そろそろかと思い今朝見に行くと、ちょうど伸びていたので採っておき、休憩時間には油と塩を振って軽く焼いたものを出した。
 シューは、特に美味しい先端部分を譲ってくれた。、



「じゃあ、これを浄化してみようか」

 瓶に入れた水に朝採った酸っぱい果物を絞って少し垂らして、シューに手渡した。

「…はい」

 心の中で、頑張れ頑張れと声をかける。

「……………ぬぅ…」

 シューは魔法を使う時に眉を寄せる。前髪に隠れていてよくは見えないけれど、可愛らしい。

「………魔力は通った気がしますが…あまり手ごたえは…」
「うん、一滴分は浄化されてるよ。上手だよ~あと一息!」
「一滴分、ですか……」
「水の中に混ざる不純物をこう…頭の中に描いて…これは果汁だってわかってるから…」
「はい…」

 呪文で発動できる魔法だったらよかったなあと思った。




 石を吐かせておいた石鯰に白ワインと塩を振り、茸と共に香りのいい大きい葉っぱで包んで蒸し焼きにした。浄化の練習に使った果物を絞ると酸味でさっぱりして美味しい。生の香草を乗せた粥とで夕食にした。

「あっ柔らかい~石鯰捕ってくれてありがとうね、シュー」
「いえ、あの、いつも美味しい料理をありがとうございます。任せてしまってすみません」
「え、そんなの師匠の責務だよ?」
「俺は料理の適性が皆無らしいので、せめて何か森で狩ってきます」
「え、ありがとうね、シュー。でも無理しないでね」
「はい」

 それはとても有難い申し出だ。
 凝った調理はできないのに、弟子に気を使わせて申し訳ない。
 
「あ、明日街に買い出しに行ってもいいかな」
「お供します。発注された数には足りていませんが、媚薬の納品もしますか」
「うん、そうだね。だから今日は調薬しないで早く寝ようかなって」
「そうしましょう」



 揃って寝台に入り、向かい合って横になった。
 窓からの月明りで、きっと互いの顔がよく見える。

 シューは私の胸元にそっと手のひらを当てた。

「…師匠、他に快感を得る場所があるのはご存知ですか」

 私はシューの股間にそっと手のひらを当てた。
 腰が素早く引かれて、温もりが消える。

「おおお俺のじゃなくて」
「知ってはいるけど…快感を得たことはないなあ」
「は、え、そ、それは自分で…?」
「自慰は健康にいいって聞いて、試してみたけど私には合わなかった。痛いだけだったよ~」
「健康に?誰に? いや、ど…どうやって触れたんですか」
「え、全裸になって陰核を指でぐりぐりって」
「おぶふ」
「男性は陰茎を荒々しく扱くらしいから……え、もしかしてやり方がおかしかった?」
「あ、荒々しく…? やり方というか、優しく触れるものじゃないんでしょうか」

 上掛けをめくってころりと仰向けにされ、私の胸元にあったシューの手のひらが下に移動した。

「痛かったり、嫌だったら…言ってくださいね」

 寝衣の上から、触れるか触れないかの強さで陰核の辺りを撫でられた。
 少しづつ、指に力を入れている。何度か触れられていると、

「っ」

 腰がびくりと震えた。

「このくらいがよかったんですよ」

 耳元で囁かれた。なんだか嬉しそうだ。

「そ…そうなんだ…ね」

 いつの間にか口元にあった右手を取られ、先程までシューが触っていた辺りに指先を当てられた。
 渋々まさぐってみるが、よくわからない。

 どうしてこんなことを…ああ、媚薬だ。
 明日…チーズは必ず買う。香辛料は一応全部買い足しておこう。粉も…

「……師匠、何考えてますか」
「え、明日の買い出しの」
「もう…俺がするので、何も考えずに、いいと思ったらためらわずに集中してください」
「え?」
「失礼します、師匠……」

 目の上に手のひらをかざされたので、目を閉じた。
 寝衣の裾をめくられて、少し脚を開かされて、直接陰部に触れられる。
 弱い力で性器の周辺を撫でたり、陰核を指先で挟んだり、シューは私が性感を得る部分を探っている。

 快楽を捕まえられるように、私は目を閉じて彼の指に集中した。

「………あっ?」

 ここかも、と思ったら頬に何かが触れた。
 同時に膣口辺りに指が触れ、身体に力を入れてしまった。

「っ…!」
「まだそこまでは…すみません、力を抜いてください」
「ご、ごめんね、びっくりして…」
「…謝らないでください。濡れているのがわかりますか?」
「……?」
「乾いた指だときっと痛いので…」

 再び、陰核に指が触れた。

「あ、そこ」
「集中してください。ね、」

 反応した場所を執拗に、小刻みに擦られる。

「っ、ん、…っ、はぁ…っ、あ、あ」

 心臓が暴れて、何かが駆け上がってくるような。

「―――っ!」

 下肢が痺れて、膣がひくひくと痙攣している。
 なかなか呼吸が整わない。少し苦しい。
 なのにふわふわと心地よくて、これが音に聞く絶頂という現象なのか。
 下半身が甘く痺れるような、初めての不思議な感覚。


「今の感じ、覚えておいてくださいね」


 初めての性器への刺激で得た快感は、総合すると気持ちがいいものだった。
 しかもこれで健康になれるのか。 

 シューも、井戸水を浴びるよりこっちにすればいいのに…風邪も引かないだろうし…
 
「健康……風邪ひかない…」
「それ、聞いたことないですけど…」


 私は、落ちるように眠ってしまった。らしい。



<媚薬:35本>


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