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10.払暁の恋心(最終話)
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寝台の脇に置かれたランプの仄かな明かりに照らされる、若様の顔は真剣だ。
「愛している」
「…っ、はい」
「君を、だ。仮の婚姻相手ではなく、ココ、君をだ」
「あ…っ、クロさま…」
耳たぶを撫でられ、唇で食まれ、その度に身体が跳ねる。
合間に愛を囁かれて、頭が痺れてしまいそうだ。
「たまに見せてくれる笑顔にどれだけ心を奪われるか…」
もう片方の手は、指を絡めて握られている。大きな掌が熱い。
「真面目で、責任感が強くて、妥協しない性格も好ましい」
筏崩しの状態で挿入されたまま、大きく動かれることはなく、時折押し込むように奥を突かれる。
「ずっと…気がついた時には君を好きだった」
「…ふ、あ……っ、クロさ、あ、あ……」
私は、いつの間にか達していた。足のつま先がに力がこもり、敷布の上を滑る。
若様は私のこめかみに口づけし、再び耳元で囁いた。
「遠慮せずに何でも話して欲しい、俺を頼って欲しい」
大きく柔らかな枕を掴んでいた手を若様の背に這わせると、もう片方の手に絡められていた指が緩んだので、両腕でしがみついた。
「クロさま…っ」
若様の両腕は私の下に回り、さらに身体が密着する。
抱きしめ合うといつも覚える、湧き出てくるような不思議な感覚は何なのだろう。
しばらくそのままでいると、腰を抱えて上体を起こされた。胸を探られたので腕を首に回し、足を腰に絡めた。
座位…唐草居茶臼の形になる。
腕の力を緩めて近い距離で見つめると、同時に唇を寄せ合った。
互いに唇を啄み、舌を絡め、舌先で擽る。
きっと、互いに弱い部分を知っている。
その間も若様の手は、片方は胸を掌で掬い上げたまま指で先端を刺激していたが、もう片方の手が秘部の敏感な突起をとらえた。
特別に性感が強い部分に触れられ、快感に過敏になっている身体が再び絶頂に向かう。
「どうか、俺を信じて欲しい…」
「は…い…っ、ふ…っ、あ、あ…ん……」
身体が痙攣し、中にある若様のものをきつく締めたのがわかった。
「は……っ、ココ……」
若様が動きを止めて、身震いした。内に律動を感じる。
全身に力が入らず、荒い息のままぐったりともたれかかっていると背をさすられ、そんな優しい掌ですら刺激になってしまう。
「ん、ん…っ、あ、わ、私」
「うん…」
「私…で、よろしいんですか…?」
「俺はもう、君でないと駄目だ」
脱力したままの私は、しばらくの間気を失ったように眠っていたようだ。
私を抱きかかえるようしている若様の静かな寝息を感じる。
『朝目覚めて君がいないのは寂しい』
『君との時間は夢だったのかと思ってしまう』
そんなことを言われてしまっていたので、抜け出すわけにはいかない。
冴えてしまった目を閉じ、先程の若様とのやりとりを思い返した。
…・…・…・…・…
「言いにくいかもしれないが、本音で答えて欲しい」
「…? はい。承知いたしました」
私は若様を見つめながら、話の続きを待つ。
「姉たちも妹たちも当主になる意思がないなら、俺が妻を娶ってその人か生まれた娘に当主になってもらうしかないんだが――」
黙って軽く頷く。
「それでも、姉たちや妹たちやその娘が当主になりたいと言えばそちらが優位になってしまう。どうやら世話人はそのことを詳しくは説明していなかったらしい」
「…まあ」
「ココはこの家の…女性が当主になることをどう思う?」
この国では多夫も多妻も認められているが、奥様の伴侶は旦那様だけだ。
サイリエール家の主人として務めている立派な姿を、私は心から尊敬している。
「私から申し上げることは何も…私も奥様のようになれたらと思っております」
私も、奥様のように忙しい夫を支えられる妻となりたいものだ。縁があれば。
「いや…違うな……だめだ…勘違いするな俺…」
いつか見かけた、凛とした奥様と穏やかな旦那様が談笑する姿を思い浮かべていて、若様が呟いた言葉はよく聞こえなかった。
「君は、どうして俺の閨事の指南役を引き受けてくれた?」
「それは………大切な仕事を任せていただけたのが光栄で」
今度は私が、話すのを促されている。
「知らないことを知るのはとても楽しく…」
「……」
「クロさまと…共に過ごす時間が増えるのが嬉しく…」
「……」
「触れ合えるということに心惹かれ…」
「……俺もそうだ」
若様は私の手を取り、真剣な眼差しで言った。
「君がひとりになってしまった時に…約束したことを覚えているか…?」
「はい、もちろんです」
「ずっとこの家にいてくれ、けれど、俺が家を出る時にはついてきて欲しいと…」
「はい。使用人としてずっと置いていただきたく思います。約束が守れるように」
「……」
「独立される時にお供させていただけるのでしたら…この上ない喜びです」
どこでも若様を…おこがましいが、支えられる使用人になれるように精進している…と自分では思っている。
約束をするまでもなく、物心ついたころにはサイリエール家の使用人になりたいと思っていたし、唯一の肉親を亡くしたばかりの私への配慮はとても有難かった。
「実は、結婚の申し込みのつもりだった」
「…………えっ」
「君のことがずっと好きだった、もちろん今もだ」
―――目の前がぱっと明るくなった気持ちがした。
もしかしたら、
『いつまでも乳兄弟でいるのは嫌だ』
『必ず、君を守る』
『俺には君しかいない』
私が使用人として生きていけるよう、互いの立場をわきまえるよう諭してくれているのではなく?
雇用主として、使用人として、ではなく?
私を想っ…想…想っ……?ていて?…の言葉だった…??
結婚の申し込みというのは……本心で? その頃から…?
わ…私も……!
「わ、私…私も、クロさまが好きです、心よりお慕いしております」
「ココ…!」
「ですから、幸せになって欲しいのです…っ!」
それが、閨事の指南役を引き受けた理由だ。
若様はがくりと項垂れてしまったまま、動かない。
また何かおかしなことを言ってしまったのだろうか…
「俺の指南役を引き受けてくれたと知って、他の女性と結ばれるのを願っているのだと悲観したものだが…いや本心からそう思ってくれてはいるんだな…望みは無いのだと諦めようにも、肌を重ねるうちにますます愛おしくなってしまって」
不意に抱き寄せられて、頭の上から密やかな声が響く。
今日の若様は、たくさん話をしてくれる。
会話が無くても苦にはならないが、うれしい。
「君も俺のことを好いてくれるのなら……もう、諦められない」
夢の中にいるような心持ちで耳を傾けていた。
「君を心から愛している」
「………」
頭が固くてで融通が利かないうえに思い込みが激しく、他人に対して壁を作りがちな私にも、伝わらないわけがない。
でもどうしよう、どうしたらいい。
指南書に無いことはわからない。
「母や祖母のことを気にしているなら、君の母君も揃っている時に許しを得ている」
「……そんな昔に…」
「君さえ良いと言ってくれるなら、決して反対はしないと。望まないなら当主にならなくていい」
「俺は君と一緒に幸せになりたい。もう一度、君の心を聞かせてくれないか」
「……私も、そう思います………あ…、あいして、いま…す…」
…・…・…・…・…
涙が溢れてしまわないよう瞼を強く瞑って、愛しい温もりに寄り添った。
暗い時間が過ぎて目覚めたら、堂々と光に向かえますように。
「愛している」
「…っ、はい」
「君を、だ。仮の婚姻相手ではなく、ココ、君をだ」
「あ…っ、クロさま…」
耳たぶを撫でられ、唇で食まれ、その度に身体が跳ねる。
合間に愛を囁かれて、頭が痺れてしまいそうだ。
「たまに見せてくれる笑顔にどれだけ心を奪われるか…」
もう片方の手は、指を絡めて握られている。大きな掌が熱い。
「真面目で、責任感が強くて、妥協しない性格も好ましい」
筏崩しの状態で挿入されたまま、大きく動かれることはなく、時折押し込むように奥を突かれる。
「ずっと…気がついた時には君を好きだった」
「…ふ、あ……っ、クロさ、あ、あ……」
私は、いつの間にか達していた。足のつま先がに力がこもり、敷布の上を滑る。
若様は私のこめかみに口づけし、再び耳元で囁いた。
「遠慮せずに何でも話して欲しい、俺を頼って欲しい」
大きく柔らかな枕を掴んでいた手を若様の背に這わせると、もう片方の手に絡められていた指が緩んだので、両腕でしがみついた。
「クロさま…っ」
若様の両腕は私の下に回り、さらに身体が密着する。
抱きしめ合うといつも覚える、湧き出てくるような不思議な感覚は何なのだろう。
しばらくそのままでいると、腰を抱えて上体を起こされた。胸を探られたので腕を首に回し、足を腰に絡めた。
座位…唐草居茶臼の形になる。
腕の力を緩めて近い距離で見つめると、同時に唇を寄せ合った。
互いに唇を啄み、舌を絡め、舌先で擽る。
きっと、互いに弱い部分を知っている。
その間も若様の手は、片方は胸を掌で掬い上げたまま指で先端を刺激していたが、もう片方の手が秘部の敏感な突起をとらえた。
特別に性感が強い部分に触れられ、快感に過敏になっている身体が再び絶頂に向かう。
「どうか、俺を信じて欲しい…」
「は…い…っ、ふ…っ、あ、あ…ん……」
身体が痙攣し、中にある若様のものをきつく締めたのがわかった。
「は……っ、ココ……」
若様が動きを止めて、身震いした。内に律動を感じる。
全身に力が入らず、荒い息のままぐったりともたれかかっていると背をさすられ、そんな優しい掌ですら刺激になってしまう。
「ん、ん…っ、あ、わ、私」
「うん…」
「私…で、よろしいんですか…?」
「俺はもう、君でないと駄目だ」
脱力したままの私は、しばらくの間気を失ったように眠っていたようだ。
私を抱きかかえるようしている若様の静かな寝息を感じる。
『朝目覚めて君がいないのは寂しい』
『君との時間は夢だったのかと思ってしまう』
そんなことを言われてしまっていたので、抜け出すわけにはいかない。
冴えてしまった目を閉じ、先程の若様とのやりとりを思い返した。
…・…・…・…・…
「言いにくいかもしれないが、本音で答えて欲しい」
「…? はい。承知いたしました」
私は若様を見つめながら、話の続きを待つ。
「姉たちも妹たちも当主になる意思がないなら、俺が妻を娶ってその人か生まれた娘に当主になってもらうしかないんだが――」
黙って軽く頷く。
「それでも、姉たちや妹たちやその娘が当主になりたいと言えばそちらが優位になってしまう。どうやら世話人はそのことを詳しくは説明していなかったらしい」
「…まあ」
「ココはこの家の…女性が当主になることをどう思う?」
この国では多夫も多妻も認められているが、奥様の伴侶は旦那様だけだ。
サイリエール家の主人として務めている立派な姿を、私は心から尊敬している。
「私から申し上げることは何も…私も奥様のようになれたらと思っております」
私も、奥様のように忙しい夫を支えられる妻となりたいものだ。縁があれば。
「いや…違うな……だめだ…勘違いするな俺…」
いつか見かけた、凛とした奥様と穏やかな旦那様が談笑する姿を思い浮かべていて、若様が呟いた言葉はよく聞こえなかった。
「君は、どうして俺の閨事の指南役を引き受けてくれた?」
「それは………大切な仕事を任せていただけたのが光栄で」
今度は私が、話すのを促されている。
「知らないことを知るのはとても楽しく…」
「……」
「クロさまと…共に過ごす時間が増えるのが嬉しく…」
「……」
「触れ合えるということに心惹かれ…」
「……俺もそうだ」
若様は私の手を取り、真剣な眼差しで言った。
「君がひとりになってしまった時に…約束したことを覚えているか…?」
「はい、もちろんです」
「ずっとこの家にいてくれ、けれど、俺が家を出る時にはついてきて欲しいと…」
「はい。使用人としてずっと置いていただきたく思います。約束が守れるように」
「……」
「独立される時にお供させていただけるのでしたら…この上ない喜びです」
どこでも若様を…おこがましいが、支えられる使用人になれるように精進している…と自分では思っている。
約束をするまでもなく、物心ついたころにはサイリエール家の使用人になりたいと思っていたし、唯一の肉親を亡くしたばかりの私への配慮はとても有難かった。
「実は、結婚の申し込みのつもりだった」
「…………えっ」
「君のことがずっと好きだった、もちろん今もだ」
―――目の前がぱっと明るくなった気持ちがした。
もしかしたら、
『いつまでも乳兄弟でいるのは嫌だ』
『必ず、君を守る』
『俺には君しかいない』
私が使用人として生きていけるよう、互いの立場をわきまえるよう諭してくれているのではなく?
雇用主として、使用人として、ではなく?
私を想っ…想…想っ……?ていて?…の言葉だった…??
結婚の申し込みというのは……本心で? その頃から…?
わ…私も……!
「わ、私…私も、クロさまが好きです、心よりお慕いしております」
「ココ…!」
「ですから、幸せになって欲しいのです…っ!」
それが、閨事の指南役を引き受けた理由だ。
若様はがくりと項垂れてしまったまま、動かない。
また何かおかしなことを言ってしまったのだろうか…
「俺の指南役を引き受けてくれたと知って、他の女性と結ばれるのを願っているのだと悲観したものだが…いや本心からそう思ってくれてはいるんだな…望みは無いのだと諦めようにも、肌を重ねるうちにますます愛おしくなってしまって」
不意に抱き寄せられて、頭の上から密やかな声が響く。
今日の若様は、たくさん話をしてくれる。
会話が無くても苦にはならないが、うれしい。
「君も俺のことを好いてくれるのなら……もう、諦められない」
夢の中にいるような心持ちで耳を傾けていた。
「君を心から愛している」
「………」
頭が固くてで融通が利かないうえに思い込みが激しく、他人に対して壁を作りがちな私にも、伝わらないわけがない。
でもどうしよう、どうしたらいい。
指南書に無いことはわからない。
「母や祖母のことを気にしているなら、君の母君も揃っている時に許しを得ている」
「……そんな昔に…」
「君さえ良いと言ってくれるなら、決して反対はしないと。望まないなら当主にならなくていい」
「俺は君と一緒に幸せになりたい。もう一度、君の心を聞かせてくれないか」
「……私も、そう思います………あ…、あいして、いま…す…」
…・…・…・…・…
涙が溢れてしまわないよう瞼を強く瞑って、愛しい温もりに寄り添った。
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