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5.愛称と距離

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 今後は、婚約者候補を別棟の奥方用の離れに招き、私の面談や若様との顔合わせなどののち、合意があれば床入り。
 婚約を交わしてそのまま離れに住むもよし、合わななければ破談も止む無し、といった流れとなる。
 これらは前当主である大奥様の意向だ。


「皆様にご承諾いただけました」
「……そうか、任せてすまない」
「いいえ、お仕事ですので」
「……」

 そう若様に伝えるとしばらく何とも言えない顔をしていたが、ゆっくりと抱きしめられた。
 いつになく、腕に力がこもっている…ような気がする。

「コハク……」
「…どうしたいのか、教えてくださいませ」

 雰囲気でわかるが、きちんと口にして、確認して欲しい。

「…したい、君を抱きたい」
「はい」

 (本番はもうすぐです。何か不安があるのでしたら練習いたしましょう)



「君の指南書、だが」
「はい」
「最初自習するようにと言って俺に渡しただろう」
「ええ」
「翌日にこんなものは読めないと突き返したのは、手が止まらなくなったからだ」
「え、あら、あ…そういう…そういう意味でしたの」
「今度はすぐ隣で、何度も読み聞かされて…どうにかなりそうだった」

 若様は、私を抱え上げ膝に乗せた。

「早く初夜がくればいいのにと毎日思った…長かった」
「ふふ、それはそれは…お待たせいたしました」

 (指南書の出来を褒められたということでしょう…嬉しい…!)

「…通じていないな」
「え、すみません、何か?」
「…何でもない」

 少しだけ話をするために訪れたはずの寝室の、寝台ではなく、長椅子の上で。
 私は夜着を脱ぎ、素肌を晒した。
 腰掛ける若様に跨り首に腕を回し、口づけを交わしながら胸を両手で愛撫される。
 やはり胸が好きなのだろうか、異なる感触が楽しいのか。奥様向けの指南書に書き添えておこう。

 若様の夜着の釦を外して昂ぶりにそっと手を伸ばし強弱をつけながら扱くと、さらに大きく、硬度も増した。透明な雫が滴る。
 指南書を読んで、こんな風にひとりで…なんて考えていたら抱え上げられ。
 抱き地蔵で繋がった。

「確か…この辺りがいいんだったな」
「え…あっ」

 若様が、入口辺りを擦るように腰を動かす。

「この辺か…?」
「え、あ、おそらく…あっ、ああ♡」

 そこは教本に書かれていた中の浅い場所にある敏感な部分で、指南書にもまとめていた。

 (実践していただけて嬉しいです…それにしても、こんなによいものだなんて…!)

 私からも角度を合わせ、いいところに当たるように動き、互いに高まっていく。


「あ、あっ、だめです、わたし、もう…あ、~~~っ♡」
「…っ、はぁ…っ」
「…んんっ……はぁ…っ」

 若様の様子を見るに、私だけ先に達してしまったようだ。
 上体の力が抜けてしまいそうで、長椅子の背もたれに手をつこうと上体を少し倒すと、抱きしめられた。

「……すみませ…ん、わたし、だけ…っ」
「…よかったのなら、嬉しい…」

 脚に力が入らないので、自分の重みで先端が奥に当たっている。その刺激で熱が鎮まらない。
 しばらくぼんやりとしながら唇だけの口づけを交わしていると、若様がゆるゆると腰を動かした。

「あ、あっ…」
「そろそろ…動いても?」
「は、い…あ、あっ♡」


 腰をしっかりと抑えられてそのまま突き上げられ、上体を後ろに反らしてしまった。
 若様の膝に手を置き、律動を受け止める。

「ん、あっ、あ、んん、は、あっ、こんど、は」
「ああ…一緒に」
「はい、あ、あっ、―――っ♡」


 今度こそ中に脈動を感じて、同時に昇りつめた達成感に胸が熱くなる。
 愛し合う男女ならきっと幸福感というものなのだろう。

 短い間に絶頂を重ねて過敏になった身体は、抱きしめられて髪の毛を梳かれただけでも震えてしまう。

「ふ…あっ……若様…」
「コハク……」


、呼吸が整って腰を浮かせると、横抱きで寝台まで運ばれた。
 背もたれにかけておいた夜着を着せてもらい、後始末までさせてしまった。
 疲労感はあるが、今夜は気を失うように眠っていない。
 私は若様の腕枕で横になり、指で髪の毛を弄られている。
 若様は、外れたままの釦を私に指先で弄ばれている。
 なんとなく甘い雰囲気になっているのを感じる。
 
 (閨事の後の、大切な時間ですね…いいですよ…!)

「……ココ、俺は君を」
「っ! 愛称で呼ぶのは良いですね、親しみが増します!」
「……そうか、では君もそうして欲しい」
「はい、クロさま…」
「ココ…」
「ふふ、幼い頃のようですねぇ…あの頃のクロさまはお可愛らしかった…っ」


「関係が前進したと思っていたのに…後退してしまったのか…今…」

 若様が何か呟いたような気がしたが、乳兄弟として無邪気に遊んでいた頃の天使のような姿を思い出して心を和ませていたせいで、聞き逃してしまった。

「いけない、もうこんな時間…それでは、おやすみなさいませクロさま…ふふ、いい夢を」
「あ、ああ…おやすみ、ココ」


 (今夜はいろいろと進歩したような気がします…ふふっ)

 少々浮かれた気分で自室に戻り、起床時間までぐっすりと眠った。
 残念ながら、幼い頃の若様の夢は見られなかった。


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