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1.若様と初夜

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 多夫も多妻も認められる、とある国。

 サイリエール家は、代々女性が当主を継いでいる。

 現当主の長女と次女は女主人の座も多夫も望まず独立しており、三女と四女はまだ幼い。
 適齢期の長男クロウィスは、期待を一身に受けているのだった。
 現在、彼には世話人の仲介があった三名の許嫁候補がいる。

 クロウィスの乳兄弟でもある、使用人のコハク。
 1年ほど前より彼女に与えられた務めは、クロウィスの性の手解き、閨での作法の指南。
 柔らかい物腰のたおやかな女性だが、心を使命感に燃やしていた。


・・・・・


「お誕生日おめでとうございます、若様」
「ありがとう、コハク」

 はにかむ若様にささやかな贈り物を手渡し…そっと顔を寄せ、耳元に囁く。

「今夜、寝所に伺いますね…」
「…っ、あ、ああ」

 私の忍び音にほんのりと頬を赤らめた若様。
 精悍な顔立ちなのに、時折覗かせる可愛らしい一面は彼を年相応に見せる。

 ―――今宵寝所に向かう目的はひとつ。実地での性教育。

(若様には女体に慣れていただき、私は彼の性的な嗜好を研究します。奥様方のために)
 自作の閨事指南書を基に、座学での予習は済ませている。
 古馴染みの薬師の伝手を頼って国内外より取り寄せた艶本や教本…それらを何度も読み込み、一般的でなさそうなものは一旦横に置き、平均を取り、1冊にまとめた。それを私は頭に叩き込んでいる。

(若様の隣に座り、読み上げたり挿絵に解説を加えて説明したりするうちに気になる点が見つかり…現在の最新改訂版は会心の出来だと自負しております)
 
 初回なので、基本的と思われる流れで進んでいくのではないだろうか。
 耳年間の処女である私だが、落ち着いてその時を待っていた。


・・・・・


 月も星も見えない夜。
 小さなランプに照らされた広い寝台の中央に、薄い夜着を落とした私は身を沈める。

「私に遠慮など不要です…さあさあ」
「あ、ああ…よろしく頼む…」

 同じく一糸纏わぬ若様は、表情も動きも硬くなってしまっている。
 私が相手なのだから失敗しても構わない。そんな気持ちを込めて私は頷いた。

 若様は無骨な指で私の身体を愛撫する。

「優しく触れてください…ね、んっ、あ、その位で…っ」

 最初は労わりさするような動きだったが、私が反応した強さに変えられていく。

 想像するしかなかったが、実際こうして触れられるのはとても心地が良いものだった。  
 たどたどしい動きに緊張が伝わってきて、愛しさがこみあげる。

 若様は胸が好きなのだろうか。形を変えて楽しんでいるようだ。 
 少しかさついていた掌は、肌に馴染むようにしっとりとしている。

「あ…っ、ち、力任せにしてはいけません、ん、ん…っ♡」

 先端を舌先で丹念に転がされ、背筋に快感が走った。

 
 右の掌が腰や太ももを撫でている。頃合いかと膝を曲げて立てた。
 両脚の間の若様が体を起こす。
 秘められていた場所を指で押し広げる様子を、じっと見つめている。

(そうです…ここですよ)

 若様が手を伸ばし、指で触れる寸前に戸惑うように瞳を揺らし、

「コハク、もう…限界だ…」

 掠れた声でそう言いながら、私の足の間に膝立ちになり…

(まあ…まあ! ご立派です…! 数々の資料で想像していたものよりもずっと…実物の色や形は…こんな…っ)

 新たな知見を得、私は有り体に言えば興奮している。
 が、冷静に事を進めていく。

「はい。どうぞここに…あ……っ♡」

 若様のものが押し当てられ、そこが存分に濡れていることがわかった。
 時間をかけて挿入され、受け入れるそこが押し広げられていくのを感じる。

「だ、いじょうぶか、コハク」
「…はい、…あまり痛みを感じないようです…そのまま、奥まで」
「ああ…」

 指南書を頭の中で捲る。これは正常位…富車。

「っ、これ以上は進まない…どうしたらいい、コハク」
「はい、どうぞお好きに動いてくださいませ…♡」

 目を閉じた若様は、ゆっくりと前後に腰を動かしながら小さく声を上げる。

「…っ、は、あ…っ」

 私にはわからない性感をこらえているように見える。

「ん、あ、お好きな時に……っ」

(…これは良い眺めですわ。乳兄弟の彼にこんなに『男』を感じる日が来るなんて…感無量です)
 
 呼吸が荒い。私で快感を得ているのだと思うと、得も言われぬ気持ちになる。
 薄目でこっそりと観察していると、若様は目を閉じて小さく呻き、腰を震わせた。
 奥に押し付けられたものが、びくびくと暴れている。

「ふ…うっ…コハク…っ」
「あ、若様…」


「お上手にできましたね、若様…素敵なひとときでしたわ…」

 格別の達成感に浸っていると、唇を塞がれた。
 互いに汗ばんだ肌で抱き合い、夢中で深い口づけを交わし…
 気づくと、若様が腰をゆるゆると前後に動かしていた。
 続いて…これは網代本手?

「もう一度…いいだろうか」
「ええ、何度でも」

 心なしか少しの余裕を感じる若様に、そう答えた、



 何度だったかは、覚えていない。




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