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大魔女は素直で可愛い子を抱きしめたい

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 この国の北にあり、隣国とを隔てる広大な深い森。
 その昔魔女が支配していたと言われ、「千年の魔女の森」と呼ばれている。

 深部にあるのは、貴重な鉱石を発掘できる洞窟、呪われた城跡、何でも癒す湧き水、魔力を増幅させる遺物、異世界に通じる穴…
 そんな伝承がいくつもあるが、定かではない。探索者を溺れさせる、海のような神秘の森。

 森の恵みは豊かだが、獰猛な野生の獣だけでなく100年前に魔王と共に絶滅したはずの魔物が生息しているという伝え話もある。付近に住む民は先人が置いた目印より先に入ってはいけないと聞かされて育ち、奥まで進む者はいない。

 わたし――ノヴァは幼いころ両親を失い、持て余した親類にその森に棄てられた。
 そして、師匠となる魔法薬師に拾われた。

 あっという間の10年。
「もう教えることはない」と微笑んでくれた、大好きな優しい師匠を先日看取った。

 森の入り口とされる辺りからはやや離れた場所に開けた一角がある。そこには2年ほど師匠と共に過ごした石造りの古い家があり、彼女は生前わたしに譲ってくれていた。

 思い出の家も、今は何も植えられていない薬草畑も、魔道具で作った結界で保存されていた。
 その近くに墓標を建てた。わたしが棄てられ、師匠が拾ってくれたところ。

「もういい歳だし、ここは不便だから」と彼女は悪戯っぽく笑んだけれど、わたしを育てるために街に住まいを替えてくれたのだ。

 
 わたしは師匠と暮らした部屋を引き払い、魔女の森に移り住んだ。

 薬草畑の端の、わたし専用にと師匠が立ててくれた畝。一緒に種を蒔いた時のことを思い出しただけで長い時間動けなくなった。どうして涙が止まらないのか。

 墓に供える花を森で探して、師匠の好きな花も色も知らない事に気づいた。そんな些細な話をもっとしたかった。

 本棚の整理をしていたら、師匠が処方を記した帳面を見つけた。隅にわたしの成長を書きつけてあって、涙を落としてしまった。

 忙しなくしていないと師匠のことを思い寂しくなってしまうので、独自調合の魔法薬の開発に没頭した。行き詰ったときに助言してくれる人がいないことを思い知った。

 彼女の遺品から、魔力がだんだんと薄れていくのを感じながら、枯れたと思っていた涙が溢れ…

 わたしは、前世を思い出した。
 同時に、体内の魔力量が恐ろしく上がるのを感じ、慌てて抑えた。体内の魔力を集中させ、圧縮する…これは、100年前に死んだ魔女の魔法。
 
 やがて記憶が、完全に混ざり合った。
 ―――敬愛する師匠を喪った魔法薬師ノヴァ、それが今生の私。

 そして前世は、一撃崩壊の大魔女なんて呼ばれることもあっ…恥ずかしい!ただの魔力馬鹿なのに!見た目小娘なのに!魔王だって結局…あああ!

 終ぞ慣れなかった不相応な二つ名を思い出し、身悶えた。

 100年前、突如として現れた『魔王』は、魔物を引き連れ瞬く間に王城を奪い取った。
 魔王征討軍に参加した私は、奴に囚われ…
 魔女も、魔法を封じられたらただの非力な女。
 1000年死ねない呪いを受けだのだ。

 魔法は発動できなくとも、魔力はある。『1000年死ねない』を『1000年で死ぬ』に力尽くで密かに書き換えた。

 その時点で998歳を超えていた私は、それから1年といくらか経った頃に、遺体を利用されないよう予めかけておいた呪いにより、骨も魔力も残さず消えた。はず。

 それから何年か後に、魔王は勇者に討伐され城に王族が戻り…とノヴァは歴史書で読んでいる。

 魔王に対する、当時の気持ちが蘇った。奴に虐められたあの日々…

 ―――まっ…魔王~~~~~!

 圧縮しきれていない魔力が激しく乱れて、ノヴァの身体は耐えられずにばたりと倒れてしまった。奴のことは考えないと決めた。

 少しずつ魔力を落ち着かせていると、徐々に心身に馴染んでいった。
 私はもう、前世が魔女だったノヴァではなく、ノヴァの記憶と身体を持つ魔女。
 世を儚んだノヴァの心を、私は追い出してしまったのかもしれない。

 ―――前の生で、この森のずっと深い場所に住んでいたことがあった。
 その頃は魔性の者も霊の種族もいて、賑やかだった。
 
 彼女の記憶を胸に、薬師としての生を精一杯継いでいこうと思う。調薬は久しぶりだ。ノヴァの…そしてその師の、魔法薬師としての評判を落とさないようにしなくては。


 この国では誰もが多少にかかわらず魔力を持っているが、今ではそれを自在に使いこなせる者は少ない。
 ノヴァは師から教わった魔法で身を守りながら森に自生する薬草を採取し、畑で香草を育て、時に街や市場で原材料を調達して調薬を行っていた。
 ここから一番近くの街にある薬局との契約を師から引き継いでいたので、私は月に三度ほど日帰りで常に需要の多い止瀉薬や化膿止めなどの納品に赴いている。
 街での調薬では使えなかった森の薬草のためか、ノヴァの魔法薬は評判がいい。時折「こんな薬は作れないか」と相談を受けることもある。

 調薬や生活で消費する魔力は、体に自然と溜まるぶんだけで充分。前世の魔力を使うまでもない。
 ノヴァの暮らしをなぞるには多いくらいなので、森の樹木に与えたり地下水の浄化などに使った。



・・・・・



 この生活に慣れた頃には、1年が経っていた。

 嵐が来そうな夕暮れ時、ふと窓から外を見ると何かがいた。目を凝らして見るとそれはぼろぼろの痩せた男の子で、慌てて扉を開け中に入るように言うと素直に近寄ってきてくれた。

 以前のことを殆ど思い出せないという彼から聞き出せたのは、シィという名前…愛称かもしれないが。と、身寄りを亡くし隣国側からこの森に迷い込んだということ。ひとりでよくここまで…思わず抱きしめてしまいそうになった。

 栄養が足りていないようで判定はできないけれど、10歳よりは上だろうか。本人がいいと言うまでは、ここに住まわせることにした。

 彼は、私がどこへ行くにもついて来る。ひよこのよう。可愛い。

 仕事中は部屋の隅で静かに読み書きの勉強をしているし、畑仕事や家事は拙いながらも自ら手伝ってくれる。

 上目遣いに見上げられると、思わず笑みがこぼれてしまう。すると、はにかんだような笑顔を返してくれる。

 口数は少ないし、自己主張もしない。私もお喋りな方ではないが、それでも気持ちは通じる。嬉しい。

 乾燥させておいた薬草の根や、畑で摘んだばかりの瑞々しい香草などを、定量の魔力を込めながら煎じる。劣化しないよう保存魔法をかけて、簡単な健胃薬のできあがり。
 調薬する私を、いつからかシィは邪魔にならない場所から見つめるようになっていた。

「シィは薬に興味ある?やってみる?」
と聞くと、瞳を煌めかせて頷いた。
「お願いします…えと、師匠」

 その瞬間私が感じたのは、ときめきというものではないだろうか。

 可愛い同居人は、可愛い弟子になった。 
 魔力の加減などの的確な指導や指示ができず、ノヴァの師を真似ることにした。記憶を辿る。
 ―――穏やかな空気の中、教え上手な師匠と飲み込みが早い弟子がいる。涙がひと粒零れた。

 前世で得意だったのは魔力任せの強大な攻撃魔法で、その他はあまり…特に治癒魔法はまったく使えなかった。体内に圧縮してある『大魔女』の魔力。これを一気に開放すると馬鹿火力で魔物を殲滅させる魔術になる。今は使う必要もない。

 シィに伝えられる、当世で重宝する魔法はないかと脳内で記憶の引き出しを開けていたら、癪に障る顔をした魔王がいたので勢いよく閉めた。


・・・・・


 森の浅いところに建てられた家でふたり、平穏な毎日を過ごす。
 シィは、興味が無いからと街へは同行せず、掃除や畑の世話をしながら私の帰りを待ってくれている。彼への手土産を限られた時間で探すのは、ささやかな楽しみ。

 育った愛弟子は、親目線でも姉目線でも気の利く控えめないい子。素直さも魅力。我儘ひとつ言わないのは少し物足りないかもしれない。私を尊重してくれるのを感じる。とても可愛い。
 落ち着いた雰囲気と所作にやや低めに響く声は柔和で、安心できる。
 そのうえ、すらりとしなやかな体つきで、肌は決して日に焼けない。無駄のない輪郭。極上の絹のような淡い金色の髪は眩く、まつ毛は重たげで宝石のような碧色の瞳に憂いを醸し出す。眉毛は形よく整っている。鼻筋はすっきりと通り、唇は荒れず自然な血色と艶がある。
 有り体に言えば、輝くばかりに美しい。なのに可愛い。
 ノヴァの髪と瞳はこの国によくある茶色と紫色の組み合わせ。少し垂れ目で美人というよりは可愛らしい。柔らかい印象で、よく通る声を持っている。


 シィの薬師としての才は、調薬だけならいずれここを出て独り立ちできる水準だと思う。手先は器用で、魔力の扱い方も丁寧だ。薬草を育てるのが上手なので、そちらを生業にするのもいいかもしれない。それとも他にしたいことなどあるだろうか。

 ある日そんなことを話していたら、彼は悲しげに瞳を伏せてしまった。
 俯きながら、苦しそうに語る。

「……知らない…他の人は…怖いです…」
 なんとなく、人が苦手なのは感じていた。
「ずっとここで…師匠がいてくれれば、他の人はいらないです。だめですか」
「シィ…」

 私はそれでも構わない。シィはそういう訳にはいかない。
 心と頭が違うことを想う。
 答えられなくて顔を伏せていると、両手で頬を掬われ、口づけられた。

「…え、え?」
「これは好きっていう感情……です」
「ん? うん?」
「好きです…」
「わ、私も好きだけど?」

 私は混乱したまま軽々と横抱きにされ、寝室に連れて行かれ、するすると脱がされ、そっと寝台に寝かされてしまった。素早く服を脱ぎ捨てて私の側で膝立ちになったシィが視界の隅に入って、ぎゅうっと目を瞑った。彼を直視できないなんて初めてだ。

「…師匠」
 シィが私をそう呼んでくれてよかった。だって私は『ノヴァ』ではないのだから。

 何度か唇を啄まれた後、ようやく瞼を上げると視線が絡み合い、再び口づけられた。
 柔らかく髪の毛を撫でられ、耳、首すじ、鎖骨へとシィの指が下りていく。

「ずっと……触れたかった…です」
「っ…」
 耳元で囁かれて、腰がびくりと浮いてしまった。可愛いシィが私にこんな…欲を滲ませた声を聞かせるなんて。師匠と弟子という関係に隠していた心までもが反応する。

「あ、ん、ん…っ」
 彼の肌から伝わる魔力は、甘くて包み込まれるような…とても心地よくて、身を任せて浸っていると、
「あ! っあ、あ」
 小さく弾けるような刺激を感じて、高い声が勝手に上がる。

「は…ぁ…あっ、あ、んっ」
 私の反応を見ながら強弱をつけて触れてくる掌に指に舌に、私はすっかり翻弄されていた。

「あの、気持ちいいです、か…?」
「…うん、ふ、あ…っ」

 口内を丹念に舐めまわされ、息も絶え絶えになってしまう。すっかり濡れそぼった部分に、指ではない彼の熱を感じた。

「いれても…いいですか…?」
 不安げに伺う声に、胸が疼いた。
「うん、きて、シィ」

「……っ」
 シィが息をつめながらぐっと腰を進め、すべて繋がったのを感じる。
「あ、ね、シィ、優しく…優しくしてね」
 こらえるように息を整えるシィが、私の瞳を見つめた。

「へえ、優しくされたかったのか」

 愉快そうに見下ろす、その眼は。

 ―――魔王だ。

 同時に纏わりついてきた、覚えのありすぎる魔力に、反射のように身体の奥底がぞくぞくと痺れ…

「やだもー!」
「…っ」

 中のものの形を一層感じると、愛弟子の姿をした魔王が腰を震えさせた。

「…、急に締めんなよ…」
「そ、そんなこと言われても…もー離してー!」
 肩を押しても、まったく効いていない。

「おい、逃げるな」
「やだも~!魔王嫌い!っねえ可愛いシィは魔王の演技だったの?」

「…はぁ?」
不意に膝裏を抱え上げられ、ゆっくりと突きあげられる。シィの顔なのに見覚えのある憎たらしい笑みが歪んだ。

「や、あ、シィを返し、あぁっ」
「なあ、優しくってどうやるんだよ」

 腰を引き、今度は浅い所を的確に責められた。
「あぁっ、あっ、あ、だめだめっ、ねえ、待っ、あっ…んっ!」
 くり返しの刺激から、今度はぐっと奥へ押し込み…ぴたりと動きが止まった。

「ご、ごめんなさい、師匠…」
 さっきまでの魔王の眼差しと魔力は消えている。

 可愛い弟子が戻ってきた~~~よかった~~~

「だ、大丈夫だよシィ」
 繋がったまま体を起こして抱きしめると、そっと抱きしめ返してくれる。不意に耳たぶを食まれた。

「あ、ふふっ、もう…シィ、こっち見て」
 唇を奪ってやんわりと押し倒し、仰向けのシィに乗り上げたまま腰を動かすと、
「あ、師匠、出ちゃ、あっ」
 眉尻を下げぎゅうっと目を閉じても可愛い顔で、達した。


 寝台の上でそれぞれ楽に座り、向かい合う。

「師匠がいないとき、師匠のことを考えていると、自分が魔王…?だったような気持ちになる時があって」
「ふんふん?」
「想像?の中に、師匠とは違うけど、師匠がいるんです。で、その…」
「うんうん?」
「いっ…いやらしいことを…」
「おうふ…」
 シィは顔を真っ赤にして俯いてしまった。可愛い。

「もしかしたら魔王?も僕と同じで師匠をす…あっ、なんでもないです」

 前世の奴の記憶だったら、さぞかし破廉恥だろうなあ忘れて欲しいなあなんて考えていたら、シィの話を一瞬聞き逃してしまった。
「あ、うん」

 ほんとやだ、魔王。
 逆恨みでも八つ当たりでもないはず。

「さっき、自分だけど自分じゃないみたいな感じで…」
「う…うん」
「魔王?が僕の振りをして…でも僕の時もあって。完全に魔王?になってた時も、意識はあって…覚えてます」
「そっかぁ…」

 シィは一生懸命、説明してくれる。
 ノヴァと私とは違う?憑依?
 うーん…理解…できるように頑張ろう…

「必死で抵抗してるうちに戻れて…そ、そこでやめないといけなかったのに」
「あー…」

 わ、私がやめたくなかったというか…し、したかっ…

「師匠と…ごめんなさい! したくて! ごめんなさい!」

 きっと私の顔も真っ赤なのだろう。いつになく熱い。

「師匠が好きです。大好きです。ずっと一緒にいたいんです」

 まっすぐな言葉が、まっすぐ心に届いた。


・・・・・


 明後日は街の薬局へ赴くという日の夜。床に入る寸前、開発したばかりの品を試してもらおうと考えついた。思い立ったらすぐにすませたい性分なので、仕事部屋に向かう。

 シィが仕上げてくれた丸薬を入れた瓶と薬包紙を作業台に置いて、前掛けを手に取ったところで、後ろから抱きしめられた。

「シィ…」

 違う。ま~~~お~~~う~~~…

 なんてこと。腰の高さの机と魔王に挟まれてしまった。
 背後を取った奴は、薄く柔らかい夜着の上から私の身体をまさぐる。前世と違って魔法で抵抗できるけれど、シィの身体を傷つけるわけにはいかない。

 迷っているうちに、私に纏わりつく濃い魔力に強制的に快楽を引き摺り出され、思考が乱れて足元が怪しくなる。目の前の作業台に手をついて体を支えた。

 胸元に視線を落とすと、前世よりも豊満な肉が、シィの手で形を変えられている。
「…っ、ふ、ぁ…っ」
 右手が抜かれたと思ったら、長い裾を手繰るように捲られ、脚の付け根をさすられた。

「っ、あ」
 シィの指の先が、ぬるりと濡れたのがわかった。そのままゆっくりと差し入れられて身体が震える。そこを責められた私がどうなるのか、思い出してしまう。

「…だ、だめ、待って」
「待たねえ…いや、ちょ、待て」

 不意に、奴の魔力が消えた、

「…師匠…わあっ」
元に戻ったシィは固まってしまった。私は中に彼の指を感じたままで、落ち着かない。

「……魔王?の魔力って…反則じゃないですか…?」
ああ~…言いたいことは、うん、わかった…身体が勝手に反応しちゃうんだよね…

 ――僕だけしか知らない師匠をおしえてください…

 耳元で吐息交じりに囁かれ、私はシィの指を根元まで濡らした。


 はっ、奴のいかがわしい魔力で仕事場が汚染されていたらどうしよう。私は慌てて、ノヴァが師に教わった空間浄化魔法をかけた。ごめんなさい…こんなことに使って…っ


・・・・・


 それから数日後、魔王の気配を感じた私は即座に自分の周囲に結界を展開した。今は格段に私の魔力量の方が多いので、奴には破れない。
 …結界も得意なわけではく、強度はあっても広さは両手を広げた幅程度だけれど。
 見たことのない心底不服そうなシィの顔かわっ…奴にできるのは、その辺でぶつぶつ言うことだけ。

 覚えている魔法を重ねたり組み合わせても、私が魔法で奴の乗っ取りを完全に抑えるのは恐らく難しい。
 シィ自身の魔力を鍛えて…それでもしも奴に悪用されると事だ。奴は呪いと封印が得意だった。実に魔王っぽい。

「お前、勝手に消えやがって」
「世界中探してもいねえし」
「もうどーでもいーと思ったから死んだ」
「…何年前だ? こいつの中で俺が魔王だったことを思い出した」

 背後でなにやら喋っているようだけれど、私は部屋の壁に向かい考えに集中する。昔々に覚えた、普段は忘れているちょっとした魔法。意外なものが使えるかもしれない。

「おい…おい」

 前世の私の名は、短いが古語で発音が難しくて奴にはそう呼ばれていた。あ、結界を少し書き換えて音を遮断しようかな。でも、シィに戻ったときにすぐに気づいてあげられないと可哀相。
 

「こいつ見るときのお前何だあれ、俺にはあんな顔しなかっただろ」

 魔王は何やら語り続けている…声はシィなので耳当たりが…いい…

「こいつは俺が守ってやったんだぞ感謝しろ」

 ……

「おい、聞いてんのか? あ、ちょ、おま」

 …はっ、ちょっと寝てた?
「聞く気ないけど!?」
「…よかったです」
 つい反応してしまっ…あれ、シィに戻ってる。私は振り返り結界を解いた。

「あの、師匠、ぎゅってしたいです…いいですか?」
「もちろん!」
 素直で可愛い彼を、私は抱きしめた。


・・・・・


 前世で、魔王だった奴は無駄に有り余る魔力を使って私を辱めた。

 羽毛みたいな感触に変えた掌で全身を撫でまわしたり。
 舌を長く自在に動くようにして、あちこちしつこく嬲ったり。
 ナニの形を変えたり増やしたり動かしたりして同時に何ヶ所も攻めたり。
 可愛らしい女の子の姿になってみたり(でも生えてる)。

 とにかく執拗に責められた。

 奴と私の他には誰もいない王宮で、私は昼間に眠り夜の間は奴の相手をさせられるという生活を送っていた、
 普段は客間に籠っていたが、思いつきで他の場所に連れ出されることもあった。

 手入れをされなくなってしまったけれど優美さを残す庭園で、あの樹はあの花はなんだと聞いておきながら、答える前に四阿で着衣のまま事に及ばれた。
 図書室で、読み終えた本の感想を聞かれたので思い出しながら話していたら、大きな机の上に押し倒されて、しつこく口内を貪られたこともあった。
 奴は私の話を最後まで聞かない。そのうえ「お前が悪い」なんて言う。意味がわからなかった。

 井戸水を浴びるのに限界を感じ、湯を沸かして何度も桶で運び浴槽を満たしたところで奴が乱入してきて、王室御用達の高級な石鹸で泡まみれにされ、散々乱れさせられた。苦労して溜めた湯が汚れた。
 奴は魔法を使って一瞬で湯を取り換えた。私の魔法を返せって心底思った。

 壁に設えられた豪奢で大きな鏡の前で…あああこれは本当に恥ずかしくて思い出したくない。無理矢理に実況させるとか悪趣味が過ぎる。

 玉座にふんぞり返る奴の上に跨らされた時は、終わった後申し訳なさに泣きたい気持ちで掃除をした。それを見た魔王は玉座を破壊した。どうして。


 奴にのしかかられて目が覚めたけれど夢うつつで、腕を伸ばした先に頭があって。ぼんやりと髪の毛をかき回していたら角が無いような気がした瞬間後ろ手に拘束され、目隠しまでされて、うつぶせで最奥を激しく突かれた。
 数日は奴が私の背側に回る体勢ばかりだったけれど、
「腕は背中に回せ、角は触るな」
 なんて注文をつけられて、抱き合う形で唇を奪われて抜かないまま何度も出された。

 ああ、その翌日、奴が城を空けている間に、私は消滅したんだ。


 声が枯れたり、足が立たない腰が痛いと訴えても、魔法でさっと治されて…
 遠回しな「休ませろ」は、奴には伝わらなかった。
 認めたくはないけれどあれ、治癒魔法だったのかな…魔王なのに…くやしい。

 眠気を堪えながら炊事や洗濯をしていると邪魔をしてきて、相手をしないと拗ねるし…面倒だった…
 寝具の洗濯だけは手伝わせたけど…自分だけ魔法使って…奴ぅ…


「知らない? 今日知れてよかったじゃねえか成長したな」
「普通じゃない? お前も俺もそうだろ何か問題あるのか」
「よそ見すんじゃねえ、余計なことを考えるな」
「抗うな、恥ずかしくない、素直に感じろ」
「小せぇんだから工夫しろ。無理じゃねえ不器用か」
「集中しろ、どうなってる? 言え。もっと詳しくだ」
「俺から逃げるな」

 ……その時の表情まで思い出して、心に大波が立つ。


 奴は、毎夜毎夜何度も何度も、絶頂が止まらないままの私を好き勝手に抱いた。
 痛い…と感じたことはなかったけれど、気持ちがよすぎるのは苦しいと言ってもいいほどだった。理性なんてどこかへ行ってしまいそうだった。
 覚えていないだけで実際には…ううん、それ以上考えてはだめ。

 

 窓の外の夜空を見ながら昔のことを思い出したら、奴のことばかりで自分にがっかりだ。


 今夜は眠れないかもしれない。(寝た)



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