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思わず笑ってしまったオリビアを見もせず率先的にいじめてきた3人は慌てて部屋を出ていった。あの様子だと推薦状を書いてくれたのかを確認しに行ったのだろう。無効になってしまった理由を正直に話すのかはわからないが焦るのは仕方がない。昇格は侍女にとっての幸せであり名誉なことでもある。もらえる給金も桁違いに変わるから推薦状は侍女にとっても宝。そんな大事な推薦状を濡らしてしまって動揺していたことが手に取るようにわかる。

「哀れね…。イライラして普段の私を演じ忘れていたわ。でも動揺していたから私の変化など気が付かないでしょうけどちょっとスッキリしたわ。名前も知らない侍女さん。ありがとう。」

ツカツカと早歩きで侍女たちはティナの居る皇宮に向かう。別宮から距離があるせいで気持ちの焦りだけが先走った。

息が切れながらも確認したいことがあると出産間近のティナの部屋に訪問する。

「あら、いつも楽しい仕事をしてくれている貴方たちが私の所に来るなんて珍しいわねっ!何か面白いことがあったのぉ?」

「いえ、今日は確かめたいことがありご訪問させていただきました。ティナ様…我々の為に推薦状を書いてくださったとか…。」

「えぇ。もちろんっ!あなた達には色々としてもらっているからね~」

ソファーに寝ころび爪を手入れしながら気軽に返事をする。侯爵家にもなれば推薦状など大したことではないからだ。

「あの…大変申しにくいのですが…推薦状をもう一度書いていただけないでしょうか…」

「えっ?なに?お金に困ってんの?それとも名誉とか?さすがに図々しくない?」

「いえ…あの、実は…」

ティナに仕事を任されお茶を持っていくたびに書類を濡らしていたこと。そしてその中には推薦状があったと侍女は懺悔のようにティナに打ち明ける。

「はぁ?なにそれ。そんなこと誰も頼んでないんですけど」

「えっ…。虐めろとおっしゃられていたので…」

「言ったよ?言ったけどさぁ。皇后の仕事押し付けたいって話したよね?あの女が仕事までできなくなったら本当に仕えない女になって追い出されるじゃん。別にそれでもいいけどフレデリック様の仕事もしてるんだよぉ?最近フレデリック様があの女の仕事遅いって話してたけどあんたたちのせいだったんだね~。重要書類も扱ってるんだしさすがに濡らすのはダメでしょ。昇格の話は私の専属侍女だったんだけどぉ~そんな幼稚な判断しかできない侍女なんていらないわぁ~。今後一切余計な事しないで。私の前に顔も見せないで頂戴。もうあなた達に頼む仕事はないわ。ほら体に障っちゃうでしょ?早く連れて行って。」

その一言で護衛騎士が動き騎士に掴まれ成す術がなく追い出された3人は顔面蒼白で廊下を歩く。3人で虐めていたとはいえ主に一人の人物が行動を起こしておりほかの2人は見物して楽しんでいただけ。なんで巻き込まれなきゃいけないのと侍女同士でもめる。

「頼む仕事はない」と言うことはクビに等しい。正式なお達しは無かったものの皇太子とほぼ同じ権限を手にしている侯爵令嬢の言葉は覆ることがない。

「ちょっとどうするのよ。なんでお茶なんかぶっかけたわけ?さすがにやりすぎだと思ってたのよ!」

「なんで私たちまで…両親になんて言えば…。」

「あなた達もノリノリだったじゃない!!私だけのせいではないわ!」

言い合っているうちにオリビアがの居る別宮の庭園まで戻ってきた3人。その庭園はオリビアが唯一窓から見える庭園で3人が戻ってきたときも庭園を眺めていた。

侍女がどうしたらいいのと空を見上げると見たことのないような薄ら笑いをしたオリビアと目が合った。

怒りを発散するおもちゃを見つけたように侍女は叫んだ。

「男爵家の分際でっ!!」

その気持ちのままオリビアの部屋へと向かう。いつも見て見ぬふりをする門番たちも気持ちが抑えられていない侍女を見てさすが止める。落ち着けという言葉をかけるものの落ち着ける様子はない。そんな外の様子が気になったのかオリビアは鍵のかかっていない自分の部屋の扉を開け中に入るよう指示をした。

「そんなに慌ててどうしたの?」

「ふざけてるのですか?」

「いいえ。私は貴方の事を心配しているだけよ?そうだ!ちょうどよかったわ。これをティナ様に届けてほしいの!推薦状は不慮の事故により無効になりましたので新たに記入をお願いしますっていう内容の手紙をね!」

「ただのお人形の分際で!!」

侍女が大声をあげたと同時にオリビアはその侍女の頬を叩いた。

「落ち着いた?えぇ。私は男爵令嬢でお人形と呼ばれているわ。もうすぐ離縁されるでしょう。しかし今は妃の身分…私にそのような発言をして皇族をなめていると判断されないかしら。」

「わ、私は伯爵家の推薦状でここに来たのですよ!お人形なんか私の主にふさわしくありませんっ!」

「ふさわしい、ふさわしくない以前に自分に与えられた仕事を全うできないものがそんなことを言える立場だとでも?」

「~っ」

怒りで震える侍女を置いてノックもなしにバンッと扉が開くと同時に誰かの「そこまでだ。」という声が響いた。

その声に反応し皆が振り返る。そこには皇太子殿下と少し後ろにくっついているティナ・フィータムがいた。
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