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第2章 過労死した俺、リリアが顔を隠してる理由に迫る。

第23話

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 次の瞬間、重厚な足音が響き渡り、館の入り口から圧倒的な威圧感を放つ影使いが姿を現した。彼の体は黒い影で包まれ、その中心には不気味に赤く光る瞳が浮かび上がっている。
 リリアとアルバジルは、その異様な光景に目もくれずに戦闘を再開させた。
 アルバジルの交戦的な姿勢にリリアが乗っかった形だ。

「アグラヴァイン……」

 イザークは呟く。

「何者なんだ?」

「アグラヴァイン影の一族を率いる長だよ」

 イザークは、悠斗の方を見やり説明をする。

「愚か者ども、よくも影の掟を乱し、我が一族の手を煩わせたな」

 アグラヴァインの声は深く低く、空間を揺らすような圧力が伴っていた。彼の影は波打ち、まるで生き物のように辺りを覆っていく。悠斗はその尋常ならざる力に息を呑み、後ずさりしそうになるが、すぐに気持ちを奮い立たせた。

「影の一族の長か……。ただならぬ強さを感じる」

 イザークも剣を握り直し、静かに構えを取った。

「一族の中でも最強の影使い、アグラヴァイン。王国も、この存在を最も危険視している」

 アグラヴァインは悠斗たちを嘲笑うように見下ろしながら、一族の影を操り始めた。影が渦を巻きながら周囲に広がり、そこから幾重にも枝分かれした刃が次々に悠斗たちを狙って飛び出してくる。

「避けろ、影の刃が来るぞ!」

 イザークの号令で、悠斗はリリーナを引っ張りながら影の刃を避け、イザークも巧みにその攻撃をかわしていく。しかしアグラヴァインの影の攻撃は執拗で、次々と新たな刃が生まれ、彼らに迫ってきた。

「くっ……!」

 悠斗は影を盾にして防御するも、その圧力で押し返され、次第に体力を奪われていく。リリーナも精霊を駆使して応戦していたが、アグラヴァインの力の前では風の精霊の防御が砕かれ、追い詰められつつあった。

「王国の増援はまだ来ないのか……!」

 悠斗が焦りの色を浮かべたその時、外から金属がぶつかる音と共に、複数の軍勢の声が響き渡った。王国の騎士たちが増援として到着したのだ。彼らは堂々と影の一族の館に踏み込み、アグラヴァインの影と激突するべく武器を構えた。

「王国の軍勢か……だが、我が影の力の前にはただの無力な者どもよ!」

 アグラヴァインは手を掲げると、無数の影が黒い霧のように広がり、王国の騎士たちに襲いかかった。影の触手のようなものが騎士たちを弾き飛ばし、剣で切りかかろうとする者たちも、その力の前に次々と倒されていく。

「なんて奴だ……このままじゃ全員がやられるぞ!」

 悠斗は苦悶の表情でアグラヴァインを睨みつけたが、彼の圧倒的な力に対抗する術を見つけられないままでいた。だが、イザークは冷静に状況を見極め、静かに決意を固めたようだった。

「やるしかない……」

「まさか、イザーク……お前、まさか特攻するつもりか?」

「違う。だが、彼の影の力には弱点がある。それを突ければ一瞬の隙を作れるはずだ」

 イザークは静かに説明を続けた。

「アグラヴァインの影は強力だが、広範囲に力を展開すると影の制御が一瞬だけ緩む。その瞬間に、影の中枢を攻撃するんだ」

「影の中枢?」

「彼の影の中心に潜む、本体に直接つながる影の核のようなものだ。だがその瞬間を見極めるには、限界ギリギリまで持ちこたえなければならない」

「分かった。イザーク、俺も手伝う。全力で行こう」

「私も!」

 悠斗とリリーナも覚悟を決め、再び影の力と精霊を駆使してアグラヴァインに立ち向かった。イザークは鋭い剣技と影の力で彼の影に切り込み、悠斗とリリーナは一体となって影の攻撃をかわしつつ、アグラヴァインの隙を狙い始めた。

 やがてアグラヴァインの影が最大限に広がり、制御がやや緩んだ瞬間、イザークが叫んだ。

「今だ、影の中枢を叩き込むんだ!」

 悠斗は全力で影を集中させ、アグラヴァインの影の中心へと突進した。影が激しく揺らぎ、アグラヴァインが動揺した瞬間、リリーナの風の精霊が巻き起こる嵐を呼び起こし、影の力をかき乱した。

「貴様らごときに……!」

 アグラヴァインの怒声が響くが、悠斗の影の力がついに彼の中枢に達し、強烈な一撃を放つ。影の長の力が一瞬だけ崩れ、アグラヴァインはよろめきながら後退した。

しかし、それでも彼は立ち上がり、再び影を強固に展開して悠斗たちに向かってきた。
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