上 下
21 / 34
第2章 過労死した俺、リリアが顔を隠してる理由に迫る。

第21話

しおりを挟む
悠斗とリリーナは互いにうなずき合い、イザークの後を追うことを決意した。古びた石造りの洋館は奥へ進むほど異様な空気が肌を刺してくる。石壁には時折奇妙な紋様が描かれ、目を凝らすと不規則な形の影が壁に映っていた。

「リリアさんはこの先にいるのか?」

 悠斗がイザークに尋ねた。

「その可能性が高い。闇の回廊を通ると、影の一族の隠れた拠点に出る。そこには一族の儀式が行われる場所がある。彼らの掟を破った者には“影の浄化”が施されるはずだ」

「影の浄化……?」

 リリーナが不安そうに呟いた。

「影の一族が造り出した古代の儀式で、裏切り者の影をその場で消し去るものだ。彼女の力を永遠に封じることを意味する。当たり前だが、魔力が0になると言うことだ。魔力が0になると人は正気を失ったような状態になる」

 悠斗はその話を聞いてはじめて、この世界では魔力がいかに大切なものであるかを理解する。

「そんな……」

 リリーナの顔が青ざめ、息を呑んだ。

「だからこそ急ぐ必要がある」

 イザークの声には、冷静の中にも焦燥の色が混じっていた。
 三人は奥へ進み、ついに洋館の廊下の突き当たりに重厚な扉が現れた。扉には無数の鎖が絡まり、中心には影の一族の紋章と思われるものが刻まれている。イザークが手をかざし、影の力を使って鎖を解くと、鈍い音とともに扉がゆっくりと開いた。

 奥の部屋には広大な空間が広がり、中央には黒い石で造られた円形の祭壇が据えられていた。祭壇の上には薄い霧が漂い、その中に一人の人物が倒れていた。

「リリアさん!」

 悠斗は叫び、祭壇に向かって駆け出した。
 祭壇の上で横たわっているリリアの体はぐったりと動かず、彼女の体を覆う影が微かに蠢いている。リリアは目を閉じており、影に縛られて身動きが取れないようだった。

「待て、悠斗。ここで闇雲に動けば影に捕まる」

 イザークが警告した。
 イザークは祭壇に向かって手を伸ばし、影の力を使って周囲の影を消し始めた。薄暗い影が霧のように薄れ、リリアの体を包む呪縛も徐々に解けていった。

「リリアさん、今助けるから!」

 悠斗は声をかけ、リリアにそっと手を伸ばした。その時、彼の影がリリアの影に重なり、二人の影が互いに反応し合うように揺れた。

「うん……あ……」

 リリアが微かに目を開け、悠斗に気づくと、驚いたような表情を見せる

「か、悠斗……なんで……どうやって、どうしてきたの……」

「勝手にいなくなったんだ。そりゃあ探すに決まってるだろ」

「リリアちゃん!!!!よかった無事で!」

 リリーナが、たまらずリリアに抱きつく。リリアはそれをまんざらではない表情で押しのけるポーズをとる。
 リリアは安堵の息をついたが、その視線がイザークに向けられると、瞳の奥に緊張が走った。

「イザーク……なぜ?」

「僕は、王国の密偵だ。影の一族を滅ぼす命を受けている。一族の人間ではない君を救うこともまた王国の目的でもある」

イザークの言葉に、リリアは目を伏せ、微かに頷いた。

「……そう、あなたはずっと、影の一族を崩すために働いていたのね。気づかなかった……」

「僕は役割を果たす」

「そう」

 リリアは淡々と答える。

「ところでリリアさんはここで捕まってたみたいだけど、一族の連中はどうしたんだ?捕まえるよりもさっさとその影の浄化とか言うのをやったほうが良いと思うんだが」

 悠斗は、疑問に思ったことを口にする。

「影の浄化は、儀式的な要素がある。まず、『闇の隔絶』と言って生贄になる物を48時間影でこの祭壇に縛りつけるんだ。その間、一族はここに来てはいけないことになっている。その間、一族は別の場所で『浄め』という宴会のような物を開催する。だが、少し気になるのは先ほど悠斗たちを襲っていた男、名前をアルバジルというが、彼がなぜここにいたのかがわからない。一体何を企んでいるのだろうか……」

 アルバジルが、イザークの一言でこの場を去ったのは、『闇の隔絶』中に近づいたから注意されたと感じたのだろう。

「それで、これからどうするつもりなの?」

 リリアが、言う。

「ひとまず、王国に指示を仰ぐ。少し待っていてくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...