【第2章完】過労死した俺、今度は異世界で影の力を駆使して死なない程度に頑張ります。

第1章 過労死した俺、異世界に転移して少女を助けるために頑張る

第4話

　悠斗とリリーナは、影の力を使って王宮の地下牢から脱出し、リリアが待つ地点までたどり着いた。二人が安全な場所に隠れ、息を整えると、リリーナはずっと我慢していた感情が一気に溢れ出し、涙を流し始めた。

「リリーナさん、大丈夫か？」

　悠斗はリリーナの肩に手を添え、彼女を気遣った。

「……ごめんなさい……ごめんなさい……。私が、全部……悪いの……」

　リリーナは震えながら言葉を絞り出した。彼女の顔には深い悲しみと後悔が浮かんでいた。

「何を言ってるんだ？リリーナさんが謝ることなんてない。捕まったのは君のせいじゃないだろう？」

　悠斗は困惑しつつも、リリーナを励まそうとする。しかし、リリーナはその言葉を否定するように首を振った。

「違うの……私、わざと捕まりに行ったの。お父さんを守るために……」

　悠斗は驚き目を見開いたが、その後そういうことかと納得する。

「あれは、そういうことだったんだな」

　リリーナはしばらく黙っていたが、やがて深いため息をつき、震える声で話し始めた。

「ジャックの手下が、お父さん宛に手紙を送ってたみたい。『リリーナを連れてこい、そうしたらお前を昇進させてやる』って。それを私が掃除中にたまたま見つけたの。このことをお父さんに聞きたかったんだけど、全然帰ってこなくて。ひょっとしたらお父さんに何かあったんじゃないかって……」

　悠斗はその話を聞き、リリーナの家で見つけた一枚の紙の内容を思い出した。そこには、リリーナの父に対して「リリーナを連れてこい、そうしたら昇進させてやる」と書かれていたのだ。

「リリーナさんを探しに家に行ったときに、その紙を俺も見たんだ」

　リリーナはその言葉に顔を曇らせ、下を向いた。

「お父さん……お父さんはどこに行っちゃったのかな？」

「リリーナさん……。君のお父さんもきっとどこかにいるはずだ。探そう」

　リリーナの瞳に再び希望の光が宿った。

「そうだね……お父さんを見つけなきゃ」

　今後の行動を決意したその時——。

「……無事でよかった……」

　不意に、森の陰から静かな声が響いた。悠斗とリリーナが振り返ると、そこにはリリアが立っていた。彼女はローブを深く被りながらも、ほっとしたという様子が見て取れた。

「リリアさん……？」

　悠斗が声をあげる。リリアは一歩、二歩と近づきながら、悠斗とリリーナの顔をじっくりと見つめた。

「二人とも無事で、本当に良かったわ」

「リリーナさんは無事だけど、今度はリリーナさんのお父さんの行方がわからなんだ」

「お、落ち着いて悠斗！１からしっかりと説明して！」

　リリアは、両手を前にして興奮気味の悠斗を静止した。

　＊
　
　「なるほど。そういうこと。わかったわ。乗り掛かった船だものね。リリーナさんのお父さんも見つけ出しましょう」

　悠斗は、リリアがいない間に何があったのかをリリアに説明した。その際に、リリアとリリーナも挨拶を交わした。
　リリアは、リリーナの存在こそ知っていたが実際に話したのは初めてのようだった。

　「ありがとう。リリアちゃん」

　リリーナはリリアに言う。すでにちゃん付けで呼ぶなど一気に距離を縮めたようである。女性同士のコミュニケーションはすごいなと悠斗は思った。

「王宮の内部で囮になりながら動いてたんだけど、確実なことはまだ分からないけれど、ジャックが特別に管理している地下の隠し部屋があると聞いたわ。そこは、ジャックに逆らった部下が入れられる拷問部屋のような場所みたい」

「拷問部屋……」

　悠斗はリリアの話に耳を傾けながら、隠し部屋がリリーナの父親と関係している可能性を感じた。

「その場所にリリーナのお父さんがいる可能性がありそうだな」

　リリアは頷き、ローブの中から古い地図を取り出した。彼女はそれを広げ、悠斗に手渡す。

「これは私が手下から奪い取った地図よ。この通路を通れば、地下牢のさらに奥にある部屋にたどり着けるかもしれない」

　悠斗は地図を広げて確認し、リリーナとリリアを見つめた。

「これがあれば、リリーナさんのお父さんを救い出すことができるかもしれないな。よし、次はその隠し部屋を目指そう」

「ただ、影の力を使わなければ通れない場所があるの……。だからリリーナちゃんはここでお留守番していて」

「え？私も行く！行かせて？だって私のお父さんを助けにいくんだよ？」

　リリーナは、必死に訴える。しかし、リリーナ自身に戦闘力があるわけではない。たとえ簡単に侵入できるところだとしても、悠斗とリリア2人についていくのは危険である。

「リリーナさん。やりきれない気持ちがあるかもしれないけどここはリリアさんの言うことを聞こう。俺とリリアさんが必ず、リリーナさんのお父さんを連れ戻すから。ね？」

　悠斗はいつになく穏やかな笑顔で、リリーナに伝える。

「……。わかった。ここで言い争ってるうちにお父さんに何かがあったら大変だものね。リリアちゃん、それにユウト。お願い！お父さんを助けて」

「まかせろ」

　悠斗はそう言い。リリアは無言で頷いた。