失われた王国の王女と絶対忠誠騎士、運命に導かれる2人

疾風

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第7話 次々と現れる闇

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 リアナはエリオットの手の温もりを感じながらも、その不安が完全に消え去ることはなかった。彼の言葉には確かに救いがあったが、リアナの胸の奥にある恐怖は深かった。

「エリオット――」

 リアナが再び口を開きかけた瞬間、空気が突然変わった。彼女の耳にかすかな振動音が届き、次第にそれが大きくなっていく。城の回廊を包む静寂が破られ、遠くから何かが近づいてくる気配がした。

「リアナ、静かに」

 エリオットがすぐに身構え、剣の柄に手をかけた。彼の鋭い視線が、暗闇の奥に何かを捉えたかのようだった。

「何かが来る……」

 彼の言葉が終わる前に、回廊の向こうから、何者かの足音が響き渡った。その足音は重く、ゆっくりと、しかし確実にこちらに向かっていた。

 リアナの心臓が跳ね上がる。息を潜め、彼女はエリオットの後ろに一歩下がった。金色の光がかすかに彼女の手のひらから漏れ出し、再び制御が効かなくなるのではないかという恐怖が襲いかかってきた。

「……誰だ?」

 エリオットの声が冷たく響いた。彼は剣を抜き、前方に向けて構えた。その刃は薄暗い回廊の中で鈍く光を反射していた。

 すると、足音が止まった。そして、静寂が再び城内を支配する。

「エリオット、気をつけて……」

 リアナは息を詰め、彼の肩越しにじっと前方を見つめた。何も見えない。しかし、確かにそこには何かがいる。冷たい空気が肌に触れるたびに、何者かの気配が強く感じられた。

「何か感じる?」

 エリオットが低い声で尋ねた。リアナはかすかに頷いた。彼女の中にある力が何かに反応している。それが敵なのか、何なのかはまだ分からないが、この場にいる何者かが彼女の存在を知覚しているのは確かだった。

「出てこい!」

 エリオットの叫びと同時に、暗闇の中からひとつの影が現れた。影はゆっくりと、回廊の柱の陰から姿を現し、二人の前に立ちはだかった。

 それは、黒いローブに身を包んだ男だった。フードを深く被り、顔はほとんど見えなかったが、その不気味なオーラがリアナの全身に寒気を走らせた。男の持つ雰囲気は、不気味という言葉を具現化させたようなものであった。

「やはり……」

 エリオットは剣を握る手に力を込めた。

「お前は誰だ?」

 男はエリオットの問いに答えなかった。代わりに、ゆっくりとリアナの方へ顔を向けた。彼のフードの奥から、冷たく光る瞳がリアナをじっと見つめる。

「……お前がリアナか」

 その言葉が響いた瞬間、リアナの中で再び何かがざわめいた。男の声には奇妙な響きがあり、まるで彼女の中に直接入り込んでくるかのようだった。リアナは一瞬、頭がくらりとした。

「リアナに何をするつもりだ!」

 エリオットが怒りを抑えながら叫んだが、男は動じることなく冷静に答えた。

「私はただ……彼女を確認しに来ただけだ」

「確認?」

 エリオットが一歩前に踏み出し、男に詰め寄ろうとした瞬間、男の手から何かが放たれた。闇の中から現れた黒い影のようなものがエリオットの足元に広がり、彼の動きを一瞬で封じ込めた。

「何だ、これは……!」

 エリオットはその黒い影に囚われ、身動きが取れなくなった。リアナは目を見開き、恐怖で体が硬直した。

「リアナ、逃げろ!」

 エリオットが必死に叫んだが、リアナはその場から動けなかった。彼女の中で何かが反応している――。男が近づくにつれ、その感覚が強まっていく。

「逃げることはない」

 男の声が再び響く。そして彼はゆっくりと手を差し出した。

「お前は……私の鍵だ」

「……鍵?」

 リアナは混乱しながらも、彼の言葉の意味を考える。しかし、彼の目の前でその手を取ることができず、ただ後ずさるだけだった。

「何を言っているの?」

 リアナの問いかけに、男はフードの中で微かに笑ったようだった。

「お前の力は、私を目覚めさせるためにある……私の存在を、再びこの世界に解き放つためのものだ」

 リアナは目を見開いた。男の言葉が何を意味しているのか理解はできない。しかしこの数時間の間に色々なことが起きすぎている。

「私はそんなことを……!」

 リアナが反論しようとした瞬間、彼女の体が再び震え始めた。金色の光が彼女の手から漏れ出し、制御不能なエネルギーが体中を駆け巡った。リアナはそれを止めようと必死に耐えたが、力はどんどん強まっていく。

「リアナ!」

 エリオットの声が遠くから聞こえたが、リアナの意識はすでにその暴走する力に引き込まれつつあった。彼女の視界は再びぼやけ、光に包まれたかと思えば、次の瞬間には完全に別の場所に投げ出されていた。

 *


 リアナはふと気がつくと、冷たい石の床の上に横たわっていた。周囲は暗闇に包まれており、何も見えない。息を整えようとしたが、胸の奥にある不安が彼女を締め付ける。

「……どこ……?」

リアナは立ち上がり、周囲を見回した。だが、どこを見ても闇ばかりで、何の手がかりもなかった。
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