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第12話

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 リセリアが疲れた様子で膝をついている間も、遥斗の感覚は鋭敏なままだった。周囲の静寂が逆に不自然に思えた。刺客が現れたということは、すぐ近くに潜伏している可能性が高い。彼は慎重に周囲を見渡し、先ほど戦闘があった場所で微かに動く影に気づいた。

「リセリア、少し休んでてくれ。すぐ戻る」  

「待って、危険よ!」  

 リセリアの制止を振り切る形で、遥斗はそちらに向かって足を進めた。戦闘で倒れた刺客たちの中で、一人だけ意識を保っている男が木陰に隠れようとしていたのだ。  

「おい、動くな!」  

 遥斗がその男に声をかけると、男は驚いた様子で振り返り、慌てて逃げようとした。しかし、遥斗は地面に落ちていた木の枝を手に取り、それを投げつけて男の足元を狙った。枝が的確に当たり、男はバランスを崩して転倒した。  

「逃げられると思うなよ」  

 遥斗は男に近づき、その腕を掴んで無理やり立たせた。  

「一体何者なんだ? なぜ俺たちを襲った?」  

 男は目を伏せ、曖昧な口調で答えた。

「俺は命令に従っただけだ……詳しい事情なんて知らない」  

 その言葉を聞いた瞬間、遥斗の胸ポケットに収めていた「真実の秤」が微かに振動し始めた。心地よい温もりとともに、遥斗の脳裏に直感が走る。『嘘をついている』――その確信が湧き上がった。  

「知らない? その割には動きが随分と組織的だったな。俺を騙せると思うなよ」  

 遥斗の鋭い視線に男はたじろぎ、言葉を濁した。しかし、遥斗は続けて「真実の秤」を取り出し、静かに呟いた。  

「真実の秤」  

 透明な光が秤から広がり、男を中心に輪を作る。まるでその場に見えない裁きの場が形成されたかのようだった。男はその光に飲み込まれると同時に、目に見えない圧迫感に苛まれた。  

「おい、やめろ! 俺は本当に知らないんだ!」  

だが、秤の力は容赦しなかった。男の心に隠された真実が露わになり、その内面の記憶が周囲に映し出された。そこには、刺客たちがリセリアを追う理由と、彼らの背後に潜む組織の姿が映し出されていた。  

 映像には、王宮の暗部と呼ばれる影の組織の一員が映し出されていた。その男は、リセリアが何らかの特別な力を持っていることを知り、それを王宮に提供しようとしていた。

「リセリアは、力を持つ最後の生き残りだ。王国の繁栄のために、その力を手に入れる必要がある」  

 刺客たちは命令を受け、リセリアを捕らえる計画を練っていた。しかし、その過程で彼女を一人の人間としてではなく、ただの道具として見なしているのが明白だった。  

 映像が続く中、遥斗はリセリアの過去に触れる部分も目撃した。彼女がどのように囚われの身となり、何度も命を狙われながら逃げ延びてきたのか。彼女の強さと覚悟の裏にある孤独と苦しみが、遥斗の胸に重く響いた。  
 
 映像が消えると同時に、男は膝をつき、恐怖に震え始めた。  

「お前たちは人をなんだと思っているんだ?」

 遥斗は冷たい声で問いかけた。  

「俺たちは……俺たちはただ命令に従っていただけなんだ! 王宮の意向に逆らえば、家族や仲間も危険に晒されるんだ!」  

 男の声は震えていたが、遥斗の目は冷徹だった。

「命令に従っただけ、だと? その結果、何人が傷つき、命を落としたか考えたことはあるのか?」  

 秤が再び光を放ち、男の過去にある裏切りや非道な行為が浮き彫りになる。男はその光景に耐え切れず、頭を抱えて叫び声を上げた。  

「もうやめてくれ! 全部話す! だから俺を見逃してくれ!」  

 男はようやく全てを吐き出し始めた。リセリアを狙う理由、王宮の暗部が彼女の力をどう利用しようとしているのか、そして、その背後にいる本当の黒幕の存在。  

「王宮の暗部の命令を出しているのは、王自身じゃない……それを操っている別の人物がいるんだ。それが誰なのかは俺も知らない。ただ、一つだけわかっている。リセリアが捕まれば、この国は変わる……いや、壊されるかもしれない」  

 その言葉を話すな否や男は気絶した。
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