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第3話
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遥斗の能力『真実の秤』の詳細
『真実の秤』は、遥斗が自らに向けられる言葉や行動が「真実」であるか「偽り」であるかを直感的に見極める力だ。その上に、内に秘めた真実さえも見破り理解することができる。そしてそれは、ただ単に相手の言葉が嘘か本当かを見抜くだけではない。何が嘘なのか。嘘をついている背景はどのようなものかまで自在に理解することができる。
使用者が『真実の秤』の力を発動させたとき、偽りを抱えている者に対しては無言の威圧感が放たれ、相手が不安に駆られる。嘘をついている者には、自らの欺瞞が重りのようにのしかかり、逃げ場を失わせるような苦しみを感じさせるという副作用もある。この力はまだ遥斗が完全に習得したわけではなく、発動には集中力を要し、持続時間にも限りがある。だが、それでもこの力を駆使すれば、彼を蔑み、侮辱してきた者たちを一人ずつ裁き、償わせることができるかもしれない。
*
遥斗は日々の奴隷生活の中で、自分の力を練習する機会を探し続けた。彼は表向きには無力な奴隷として振る舞いながらも、心の内で『真実の秤』の使い方を試行錯誤していた。
ある日、厨房で皿を運んでいる最中、彼は料理長が他の奴隷に高圧的に特に手を上げながら命令する様子を目にした。
「上から、痛めつけてでもこき使えって言われてるんだよぉ~。悪く思うなよなぁ」
料理長は顔をしかめて奴隷に悪態をつき、皿を粗雑に押し付けていた。それを見て遥斗は『真実の秤』を発動させてみた。目を凝らし、料理長の顔をじっと見つめると、遥斗の視界にわずかだが薄い灰色の靄《もや》が見え始めた。それは料理長が抱える偽りや後ろめたさが可視化されたものである。
遥斗はその靄の色と重さから、料理長は上から奴隷に対しての扱いを改善するように言われていること。それにもかかわらず上に隠れて奴隷を酷使していることを直感的に理解した。奴隷を雑に扱うのが当たり前の世界ではあるが、この国では手を挙げ使い物にならなくしてしまってはいけない、と教育されているようである。この王国はそれほど、奴隷のコマが揃っているわけではないようだ。
遥斗の能力は、相手の「表面の言葉」だけでなく「心の中の欺瞞」まで浮き彫りにする力を持っている。料理長のような立場を悪用する人間に対して、いつかこの力で報いを与えたいと遥斗は強く心に誓った。
遥斗が『真実の秤』を確実に操れるようになるためには、実践が必要だと感じていた。そして、ついにその機会が訪れた。
ある夜、遥斗は厨房で残り物の整理をしていたところ、貴族の一人が酔っ払ってふらふらと厨房に入ってきた。彼は遥斗に気付くと、愉快そうに口元を歪めて笑いながら近づいてきた。
「おい、お前、ちょっとここに来い」
遥斗は無言のまま貴族の男に従ったが、その心には冷たい怒りが渦巻いていた。この男は、遥斗が召喚されて間もないころ、初めて「異世界からの英雄」として王宮で紹介された時に、遥斗を嘲り笑っていた貴族の一人だった。
貴族の男が命じるままに遥斗は近づく。
「なんでしょうか?」
「なぁ、俺がお前を雇ってやろうか?腐っても、異世界からやってきた英雄候補だったやつだ。俺が給料の良い職を面倒見てやっても良い」
遥斗は『真実の秤』を発動させる。
貴族の男の表情を見つめた。その瞬間、彼の視界に赤黒い靄が現れ、貴族の男が持つ浅ましい偽りの本性が浮かび上がった。は遥斗に対する嫌悪感と、見下しの気持ちが渦巻いていることが明確に感じ取れた。
どうやら、先日、自分の屋敷にいた奴隷を自らの手で殺めてしまい、新しい奴隷を探しているようだった。
「嘘つけ。お前んちの奴隷になどなってたまるか」
遥斗はそう言って、唾を吐く。
「貴様!なんて口の聞き方をするんだ……!」
貴族はそう言いながらいきなり背中を平手打ちした、遥斗はその場に倒れ込んでしまった。男は笑いながら「クソがっ!異世界の英雄と言われた男も一瞬にしてただの奴隷か、情けないものだなぁ~」と言う。
…貴様こそ、何の価値もないくせに
遥斗は内心で毒づきながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、視界に広がる赤黒い靄が男の周りに重く降り積もり、彼の心の「真実」を映し出していく。貴族の男は最初は遥斗に気付かずにいたが、徐々にその冷たい威圧感に顔色が青ざめ、目を泳がせ始めた。
「お、おい。貴様、俺に何をした!?」
男は怯えた様子で後退りし、次第に焦りと恐怖が顔に浮かんできた。遥斗の『真実の秤』は相手のついた嘘を明らかにし、使用者に教えてくれる。そして、嘘をついた相手は精神的な圧力をかける。その重さに耐えきれず、男は膝をついて震え出し、「許してくれ」と懇願し、そして気絶した。
まだ力は弱いが、これが遥斗にとって初めての「裁き」だった。
貴族の男が恐怖で崩れ落ちる姿を見て、遥斗は不思議な達成感を感じた。自分がこの異世界での最初の一歩を踏み出したような気がしたのだ。この力で王国の悪人、偽善者たちを裁き、彼らに報いを与えることができる――そんな確信が彼の胸に芽生え始める。
『真実の秤』は、遥斗が自らに向けられる言葉や行動が「真実」であるか「偽り」であるかを直感的に見極める力だ。その上に、内に秘めた真実さえも見破り理解することができる。そしてそれは、ただ単に相手の言葉が嘘か本当かを見抜くだけではない。何が嘘なのか。嘘をついている背景はどのようなものかまで自在に理解することができる。
使用者が『真実の秤』の力を発動させたとき、偽りを抱えている者に対しては無言の威圧感が放たれ、相手が不安に駆られる。嘘をついている者には、自らの欺瞞が重りのようにのしかかり、逃げ場を失わせるような苦しみを感じさせるという副作用もある。この力はまだ遥斗が完全に習得したわけではなく、発動には集中力を要し、持続時間にも限りがある。だが、それでもこの力を駆使すれば、彼を蔑み、侮辱してきた者たちを一人ずつ裁き、償わせることができるかもしれない。
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遥斗は日々の奴隷生活の中で、自分の力を練習する機会を探し続けた。彼は表向きには無力な奴隷として振る舞いながらも、心の内で『真実の秤』の使い方を試行錯誤していた。
ある日、厨房で皿を運んでいる最中、彼は料理長が他の奴隷に高圧的に特に手を上げながら命令する様子を目にした。
「上から、痛めつけてでもこき使えって言われてるんだよぉ~。悪く思うなよなぁ」
料理長は顔をしかめて奴隷に悪態をつき、皿を粗雑に押し付けていた。それを見て遥斗は『真実の秤』を発動させてみた。目を凝らし、料理長の顔をじっと見つめると、遥斗の視界にわずかだが薄い灰色の靄《もや》が見え始めた。それは料理長が抱える偽りや後ろめたさが可視化されたものである。
遥斗はその靄の色と重さから、料理長は上から奴隷に対しての扱いを改善するように言われていること。それにもかかわらず上に隠れて奴隷を酷使していることを直感的に理解した。奴隷を雑に扱うのが当たり前の世界ではあるが、この国では手を挙げ使い物にならなくしてしまってはいけない、と教育されているようである。この王国はそれほど、奴隷のコマが揃っているわけではないようだ。
遥斗の能力は、相手の「表面の言葉」だけでなく「心の中の欺瞞」まで浮き彫りにする力を持っている。料理長のような立場を悪用する人間に対して、いつかこの力で報いを与えたいと遥斗は強く心に誓った。
遥斗が『真実の秤』を確実に操れるようになるためには、実践が必要だと感じていた。そして、ついにその機会が訪れた。
ある夜、遥斗は厨房で残り物の整理をしていたところ、貴族の一人が酔っ払ってふらふらと厨房に入ってきた。彼は遥斗に気付くと、愉快そうに口元を歪めて笑いながら近づいてきた。
「おい、お前、ちょっとここに来い」
遥斗は無言のまま貴族の男に従ったが、その心には冷たい怒りが渦巻いていた。この男は、遥斗が召喚されて間もないころ、初めて「異世界からの英雄」として王宮で紹介された時に、遥斗を嘲り笑っていた貴族の一人だった。
貴族の男が命じるままに遥斗は近づく。
「なんでしょうか?」
「なぁ、俺がお前を雇ってやろうか?腐っても、異世界からやってきた英雄候補だったやつだ。俺が給料の良い職を面倒見てやっても良い」
遥斗は『真実の秤』を発動させる。
貴族の男の表情を見つめた。その瞬間、彼の視界に赤黒い靄が現れ、貴族の男が持つ浅ましい偽りの本性が浮かび上がった。は遥斗に対する嫌悪感と、見下しの気持ちが渦巻いていることが明確に感じ取れた。
どうやら、先日、自分の屋敷にいた奴隷を自らの手で殺めてしまい、新しい奴隷を探しているようだった。
「嘘つけ。お前んちの奴隷になどなってたまるか」
遥斗はそう言って、唾を吐く。
「貴様!なんて口の聞き方をするんだ……!」
貴族はそう言いながらいきなり背中を平手打ちした、遥斗はその場に倒れ込んでしまった。男は笑いながら「クソがっ!異世界の英雄と言われた男も一瞬にしてただの奴隷か、情けないものだなぁ~」と言う。
…貴様こそ、何の価値もないくせに
遥斗は内心で毒づきながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、視界に広がる赤黒い靄が男の周りに重く降り積もり、彼の心の「真実」を映し出していく。貴族の男は最初は遥斗に気付かずにいたが、徐々にその冷たい威圧感に顔色が青ざめ、目を泳がせ始めた。
「お、おい。貴様、俺に何をした!?」
男は怯えた様子で後退りし、次第に焦りと恐怖が顔に浮かんできた。遥斗の『真実の秤』は相手のついた嘘を明らかにし、使用者に教えてくれる。そして、嘘をついた相手は精神的な圧力をかける。その重さに耐えきれず、男は膝をついて震え出し、「許してくれ」と懇願し、そして気絶した。
まだ力は弱いが、これが遥斗にとって初めての「裁き」だった。
貴族の男が恐怖で崩れ落ちる姿を見て、遥斗は不思議な達成感を感じた。自分がこの異世界での最初の一歩を踏み出したような気がしたのだ。この力で王国の悪人、偽善者たちを裁き、彼らに報いを与えることができる――そんな確信が彼の胸に芽生え始める。
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