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3章 思い出のタルト・タタン

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◇◇◇

「で、どうして君はそんな重苦しい空気を放って項垂れているんだ」

あのあと、香澄の話を聞いて一層タルト・タタンづくりに力を注いだ久志なのだが、いまは神宮寺家の客間で床に膝を立てて座り込み、ずんと重い空気を放っていた。

「……いや、香澄ちゃんが総二郎さんと仲直りするために作りたいっていうから、俺も頑張らなきゃって気合入れて作ったんですけど、出来上がったタルト・タタン食べてみても、香澄ちゃんが『お母さんが作った味と、なんか違う』って言ってて……」

ずんと落ち込む久志の隣で、薫はソファに腰かけながらモグモグと久志が作ったタルト・タタンを食べている。

「これも十分おいしいけどな」
「それはどうも……」

久志も立ち上がると、テーブルの上に置かれたプレートをひとつ手に取り、薫の対面にあるソファに腰かけて自分で作ったタルト・タタンを一口食べてみた。

ほんのりとした苦みと、甘酸っぱさ、そして香ばしさが絶妙に重なり、確かにおいしい。だが、仲直りのために作りたいという香澄のためにも、その「母の味」とやらを何とか再現できないだろうか、と変なところで曲りなりにもパティシエ修行をしていた自分の体にスイッチが入ってしまった。

「レシピなどは残っていないのですか」

薫の後ろに立つ加賀美も会話に加わり、顎に手を当てながら久志に尋ねる。

「俺もそれは気になって聞いてみたんですが、ないって言ってました」
「まあ、あるなら今頃こんなに悩むこともないだろうしな」

そう返しながら、パクリと最後の一口を食べる薫。

「それにしても、香澄ちゃんのお母さんは隠し味に何を使ってたんだろう。一般的なレシピとは、何か違うものを入れてると思うんですけど」

久志はうーんと腕を組んで、残っているタルト・タタンを見つめた。

「その答えなら、もう分かったぞ」

すると、聞こえてきた言葉に久志がバッと薫の顔を見る。当の本人は涼しげな表情で優雅にお茶を飲んでいた。

「え、わ、分かったって、どういう……!」

驚く久志に薫は首を傾げながら、ふと笑んだ。麗しいその微笑みに見惚れつつも「隠し味はおそらく……」と続けた薫に、久志はポカンとしたのだった。
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