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3章 思い出のタルト・タタン

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「じゃあ、早速お菓子作りを始めようか」
「はい、よろしくお願いします」

仕切り直した久志は、厨房へと香澄を案内して早速お菓子作りのレッスンを始めることにした。久志はいつも使っている黒のシンプルなエプロンを、香澄は持参してきたらしいピンク色のフリルのついたかわいらしいエプロンを身につけて準備に取り掛かる。

ちなみに、薫と加賀美は別室で作業をするとのことだったので、厨房には久志と香澄の二人だけである。

今日、作りたいと香澄からリクエストがあったのは、「タルト・タタン」。甘く煮詰めたリンゴがパイ生地にトッピングされたフランス菓子のひとつだ。

材料は、薄力粉に砂糖、無塩バター、卵黄、牛乳、塩、リンゴ。リンゴは6個と、たっぷり使う。

「じゃあ、まずは生地を先に作っちゃおうか」
「了解です」

久志は香澄に作り方を説明しながら、隣に立つだけ。今日はお菓子作りのレッスンということで作業はできるだけ香澄にやってもらい、体で覚えてもらおうというのが目的だ。

生地は薄力粉に無塩バター、塩をフードプロセッサーで細かく混ぜるところからスタート。バターが細かくなってきたら、さらにそこに卵黄を入れて混ぜたら容器から取り出して、生地をまとめる。

「少し平らにしてラップで包んだら、冷蔵庫で1時間以上寝かせるってところまでが生地づくりだけどOK?」
「はい、OKです。作る前は結構難しいかも、と思ってたんですけど、間宮さんが丁寧に教えてくれるから安心です」

笑顔、まではいかないが、以前よりも柔らかな表情を見せる香澄に、久志もホッと息をつく。

「じゃあ、香澄ちゃんが作った生地は一旦冷蔵庫に入れておくけど、1時間以上待つのも時間がもったいないから、今日は俺が先に作っておいた生地を使います。今度はりんごを煮詰める作業に取り掛かろうか。まずは、りんごの皮むきからだけど、包丁の使い方は大丈夫?」
「はい、皮むきならできます」

包丁を手にして、するするとリンゴの皮を剥き始める香澄。このあたりは問題ないようだと確認した久志は、自分も薫用のタルト・タタンを作り始めることにした。

皮を剥いたリンゴは芯をくりぬいてスライスしておく。それから鍋に砂糖と無塩バターを入れて火にかけ、木べらで混ぜながら程よく焦がす。キャラメル色になったところで火を止めたら、リンゴを並べてまた火にかけ、十数分かけて煮込む作業だ。

「うまくできるか心配……」

作業をしながら、そんな弱音をはく香澄に笑みがこぼれる。大人びていて、しっかり者という印象の香澄だが、そういうところは年相応な感じがした。以前は大人たちに囲まれて、シックなドレスを着ていたという点もあるかもしれないが。

「俺も見てるし、大丈夫だよ」

少し年上の先輩らしく、そんな声かけをしてみる久志。「それに、タルト・タタンって失敗から生まれたスイーツなんだよ?」と、木べらを混ぜながら隣を見ると、「失敗?」と香澄は首を傾げた。
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