52 / 68
3章 思い出のタルト・タタン
9
しおりを挟む
受付係っぽい人に案内されて中に入り、幅の広い大きな階段を上っていくと、本日のパーティ会場である大広間にたどり着いた。すでに招待客の何人かがおり、いくつかのグループができている。各々がグラスを片手に、歓談を楽しんでいるようだ。
「すご……」
深い赤色の壁紙に、天井にはシャンデリア。落ち着いた雰囲気の大人な空間である。部屋のあちこちにはテーブルが並んでおり、その上には煌びやかな料理の数々が並んでいた。あまりの豪華さに圧倒される久志。と、そのとき──。
「やあ、薫君。よく来たね」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには60代くらいの男性がいた。元気よく挨拶をする姿からは、快活そうな雰囲気がにじみ出ており、笑うと目尻にシワができる。
チェック柄のジャケットにシャツ、パンツ姿とファッションも品がよく、その風貌からそこはかとなく余裕──精神的にも金銭的にも──のある感じが漂っていた。
「ご無沙汰してます、松風さん。今日は、お招きいただきありがとうございました」
かしこまった挨拶をする薫に、男性はさらに目尻のシワを深くさせた。どうやら、この人が今日のパーティーの主催者らしい。
「おや、随分しっかりとした挨拶ができるようになったんだね。昔は生意気なことばっかり言って、私に突っかかってきていたのに」
「いつの頃の話ですか、それは」
和やかな会話が繰り広げられる中、初めてお邪魔する久志はそわそわとどこか落ち着かない様子。場違い感が半端なく、いつぞやも感じたときのような異世界気分になってしまう。
「そちらの青年が話していたバイト君かい?」
話の矛先が自分に向かったことに体をびくりと振るわせた久志。慌てて「初めまして!」と言葉を継ぐ。
「先日から神宮寺さんのお宅でアルバイトをしております、間宮久志と申します!今日は僕までお招きいただいて、ありがとうございました」
緊張して少し声がうわずりながらも、失礼のないようにと心を込めて挨拶をする。「今日はよろしくお願いします」と頭を下げた久志の頭上から笑い声が聞こえてきて顔を上げると、にこやかに笑む松風と目が合った。
「松風総二郎だ。こちらこそ、今日は孫の話し相手に、だなんて言って来てもらってすまなかったね」
「俺で役に立てるか分かりませんが」
頬を掻きながら久志が苦笑いを浮かべると、総二郎は眉を下げた。
「今年高校生になったばかりの子なんだが、今日は私もなかなか相手をしてやれんから。話し相手になってくれると助かるよ……ああ、噂をすれば」
総二郎が「香澄」と名前を呼べば、一人の女の子が反応を見せた。サラサラの髪に、少し釣り上がったシャープな瞳の少女。香澄と呼ばれた少女は、ちらと一瞬久志に視線を向け、どこか面倒くさそうな表情でこちらに近づいてきた。
「すご……」
深い赤色の壁紙に、天井にはシャンデリア。落ち着いた雰囲気の大人な空間である。部屋のあちこちにはテーブルが並んでおり、その上には煌びやかな料理の数々が並んでいた。あまりの豪華さに圧倒される久志。と、そのとき──。
「やあ、薫君。よく来たね」
後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには60代くらいの男性がいた。元気よく挨拶をする姿からは、快活そうな雰囲気がにじみ出ており、笑うと目尻にシワができる。
チェック柄のジャケットにシャツ、パンツ姿とファッションも品がよく、その風貌からそこはかとなく余裕──精神的にも金銭的にも──のある感じが漂っていた。
「ご無沙汰してます、松風さん。今日は、お招きいただきありがとうございました」
かしこまった挨拶をする薫に、男性はさらに目尻のシワを深くさせた。どうやら、この人が今日のパーティーの主催者らしい。
「おや、随分しっかりとした挨拶ができるようになったんだね。昔は生意気なことばっかり言って、私に突っかかってきていたのに」
「いつの頃の話ですか、それは」
和やかな会話が繰り広げられる中、初めてお邪魔する久志はそわそわとどこか落ち着かない様子。場違い感が半端なく、いつぞやも感じたときのような異世界気分になってしまう。
「そちらの青年が話していたバイト君かい?」
話の矛先が自分に向かったことに体をびくりと振るわせた久志。慌てて「初めまして!」と言葉を継ぐ。
「先日から神宮寺さんのお宅でアルバイトをしております、間宮久志と申します!今日は僕までお招きいただいて、ありがとうございました」
緊張して少し声がうわずりながらも、失礼のないようにと心を込めて挨拶をする。「今日はよろしくお願いします」と頭を下げた久志の頭上から笑い声が聞こえてきて顔を上げると、にこやかに笑む松風と目が合った。
「松風総二郎だ。こちらこそ、今日は孫の話し相手に、だなんて言って来てもらってすまなかったね」
「俺で役に立てるか分かりませんが」
頬を掻きながら久志が苦笑いを浮かべると、総二郎は眉を下げた。
「今年高校生になったばかりの子なんだが、今日は私もなかなか相手をしてやれんから。話し相手になってくれると助かるよ……ああ、噂をすれば」
総二郎が「香澄」と名前を呼べば、一人の女の子が反応を見せた。サラサラの髪に、少し釣り上がったシャープな瞳の少女。香澄と呼ばれた少女は、ちらと一瞬久志に視線を向け、どこか面倒くさそうな表情でこちらに近づいてきた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる