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3章 思い出のタルト・タタン

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受付係っぽい人に案内されて中に入り、幅の広い大きな階段を上っていくと、本日のパーティ会場である大広間にたどり着いた。すでに招待客の何人かがおり、いくつかのグループができている。各々がグラスを片手に、歓談を楽しんでいるようだ。

「すご……」

深い赤色の壁紙に、天井にはシャンデリア。落ち着いた雰囲気の大人な空間である。部屋のあちこちにはテーブルが並んでおり、その上には煌びやかな料理の数々が並んでいた。あまりの豪華さに圧倒される久志。と、そのとき──。

「やあ、薫君。よく来たね」

後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには60代くらいの男性がいた。元気よく挨拶をする姿からは、快活そうな雰囲気がにじみ出ており、笑うと目尻にシワができる。

チェック柄のジャケットにシャツ、パンツ姿とファッションも品がよく、その風貌からそこはかとなく余裕──精神的にも金銭的にも──のある感じが漂っていた。

「ご無沙汰してます、松風さん。今日は、お招きいただきありがとうございました」

かしこまった挨拶をする薫に、男性はさらに目尻のシワを深くさせた。どうやら、この人が今日のパーティーの主催者らしい。

「おや、随分しっかりとした挨拶ができるようになったんだね。昔は生意気なことばっかり言って、私に突っかかってきていたのに」
「いつの頃の話ですか、それは」

和やかな会話が繰り広げられる中、初めてお邪魔する久志はそわそわとどこか落ち着かない様子。場違い感が半端なく、いつぞやも感じたときのような異世界気分になってしまう。

「そちらの青年が話していたバイト君かい?」

話の矛先が自分に向かったことに体をびくりと振るわせた久志。慌てて「初めまして!」と言葉を継ぐ。

「先日から神宮寺さんのお宅でアルバイトをしております、間宮久志と申します!今日は僕までお招きいただいて、ありがとうございました」

緊張して少し声がうわずりながらも、失礼のないようにと心を込めて挨拶をする。「今日はよろしくお願いします」と頭を下げた久志の頭上から笑い声が聞こえてきて顔を上げると、にこやかに笑む松風と目が合った。

「松風総二郎だ。こちらこそ、今日は孫の話し相手に、だなんて言って来てもらってすまなかったね」
「俺で役に立てるか分かりませんが」

頬を掻きながら久志が苦笑いを浮かべると、総二郎は眉を下げた。

「今年高校生になったばかりの子なんだが、今日は私もなかなか相手をしてやれんから。話し相手になってくれると助かるよ……ああ、噂をすれば」

総二郎が「香澄かすみ」と名前を呼べば、一人の女の子が反応を見せた。サラサラの髪に、少し釣り上がったシャープな瞳の少女。香澄と呼ばれた少女は、ちらと一瞬久志に視線を向け、どこか面倒くさそうな表情でこちらに近づいてきた。
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