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3章 思い出のタルト・タタン
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◇◇◇
それから数週間後。久志は薫らと共に、パーティーが行われる松風氏の邸宅へと向かっていた。まだ慣れない高級車に身を縮めているのもあるが、久志はいつもと違う格好をさせられていることにも緊張していた。
「なんだ、そんな思いつめた顔して」
隣から聞こえてきた主人の声に、久志はバッと顔をそちらに向けた。視線の先には足を組んで優雅に佇む美麗な主人がそこにいる。
「いやいや、普通にこんな高価なスーツ着せられて、お金持ちの家のお孫さんの話し相手をしてくれだなんて言われたら緊張しますよ……っ!」
久志が半泣きになってそう声を上げると、薫は「アルバイトとはいえ、みすぼらしい格好で行くわけにはいかないだろう」と何でもないことのように返す。それはそうかもしれないが……。
庶民の久志でも肌で感じてしまうほど、着心地のいい素材を使ったオーダーメイドのスーツ。先日、朔夜に久志が仕立ててもらったのは、自分のアルバイト代何ヶ月分なんだと言いたくなるほど高価なスーツなのである。代金は薫持ちという点は言うまでもない。
そういった高級スーツを普段使いしている薫と心持ちが違うのだということを少しは理解してほしい……なんて、この坊ちゃんに期待するのは間違いだろうか。
「松風氏は真珠の卸売業、加工などを行なっている神戸でも老舗の真珠メーカーだ。パーティにはいろんな人間が来るからな。加賀美の燕尾服も、よそゆき仕様だぞ」
「今日はパールをあしらったブローチもつけているんですよ」
運転席から聞こえてきた弾んだ声。ちらりと横を見てみると、確かに胸元には白のパールが光っている。だからといって、久志の緊張は1ミリも緩和されないのだが。
「そ、そうっスか……」
やっぱりお金持ちの思考は分からない、と庶民の久志は改めて思った。
それから数週間後。久志は薫らと共に、パーティーが行われる松風氏の邸宅へと向かっていた。まだ慣れない高級車に身を縮めているのもあるが、久志はいつもと違う格好をさせられていることにも緊張していた。
「なんだ、そんな思いつめた顔して」
隣から聞こえてきた主人の声に、久志はバッと顔をそちらに向けた。視線の先には足を組んで優雅に佇む美麗な主人がそこにいる。
「いやいや、普通にこんな高価なスーツ着せられて、お金持ちの家のお孫さんの話し相手をしてくれだなんて言われたら緊張しますよ……っ!」
久志が半泣きになってそう声を上げると、薫は「アルバイトとはいえ、みすぼらしい格好で行くわけにはいかないだろう」と何でもないことのように返す。それはそうかもしれないが……。
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「そ、そうっスか……」
やっぱりお金持ちの思考は分からない、と庶民の久志は改めて思った。
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