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3章 思い出のタルト・タタン

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◇◇◇

「え、いいんですか。なんの関係もない俺まで、そのパーティーに参加して」

特に予定もない土曜日の朝。時折吹く風が心地よい気候の中、久志は神宮寺邸で庭の手入れをしていた。久志が着くや否や加賀美に「これに着替えてください」と、作業着を渡されたときは何をさせられるのかと身構えたが、加賀美から庭の草むしりを手伝ってほしいとのお達しを受けたのだ。

最近は「アルバイト」と称して、この神宮寺邸のお手伝いをすることが増えてきた。バイトを辞めた身である久志にはありがたい申し出に、こうしてときどき雑用係をやっているというわけだ。

「パーティーの主催者に20そこそこのアルバイトを最近雇ったという話をしたら、ぜひ一緒に来てくれと。何でも高校生くらいのお孫さんがいるらしいから、話し相手になってほしいとのことだ」
「それくらい、別にいいですけど……」

久志はそう言いながら、引っこ抜いた雑草を1ヶ所にまとめた。一方の薫は、テラスにある椅子に座り、優雅にお茶を飲んでいるところ。カップを持つ仕草といい、脚を組んで佇む姿といい、何から何まで絵になる男である。自分のように作業着を着て土まみれになる、なんてことには一生無縁な男だろうと、久志は思った。

「なら、決まりだ。加賀美、もう一人追加だと先方に伝えておいてくれ」
「承知しました」

慇懃いんぎんに主人に一礼した加賀美は、雑草を抱えた久志に向き直る。

「久志、庭の手入れはこれくらいにして次は屋敷の本棚の整理を手伝ってくれますか?」
「わかりました!」
「屋敷に入る前に、離れにある使用人室でシャワーを浴びるように。タオルと着替えは用意してありますから」
「了解です」

実は、この神宮寺邸には離れがある。もともとは住み込みで働いていた使用人たちの寮のようなものだったらしいのだが、今は薫と加賀美の2人しかいないため、ほとんど使われていないらしい。だが、この度新たにアルバイトとして久志がやってくることになり、必要なときは使っていいとの許可をもらったのだ。

「ああ、そうだ久志。ちょっと待て」

薫に突然名を呼ばれ、びくりと体が震えた久志。「なんですか?」と振り返ると、なにやら楽しそうに笑う主人と目が合った。

「今日は昼から出かけるから、身なりはきっちり整えておけよ」
「出かける……?」

尋ね返した久志に、加賀美が側に寄ってきてポンと肩を叩かれた。今度は、どこか暗い表情で。

「……栄養ドリンクが必要になるやもしれません」

どんよりとした空気を漂わせる加賀美の姿に、久志はますます意味が分からなくなり、首を傾げて二人を見つめ返した。
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