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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

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◇◇◇

「ということなんで、さっきの遺言状の謎解きを解決するのを手伝ってくれませんか?」

あのあと、裕次郎と別れてから久志は、薫のいる神宮寺邸に戻ってきた。先ほど裕次郎を招いた応接室に通されると、そこにいたのは三人は座れるであろう大きなソファにだらりと横たわる屋敷の主人。そんな主人の側に寄り、久志は喫茶店での話を聞かせて今に至る。

「お願いします」

一生懸命に頼み込む久志に、薫はちらりとその澄んだ美しい瞳を向ける。

「言っておくが、僕はさっきの申し出を断った覚えはないぞ」

「富山氏が勝手に出て行っただけだ」と続ける薫に、久志は「確かに」と返す。

「ということは、最初からあの謎解きはするつもりで?」
「でなきゃ、わざわざ君にあんな真似をさせてまで、富山氏を追いかけろだなんて言わないだろう?」
「確かに……」
「富山氏は何やら僕に対して萎縮してしまっていたようだから、へら~とした君を向かわせ、詳しい話を聞いてもらおうと思ってな。害のなさそうな、学生風の君なら口を開くだろうと踏んだんだ」
「んん?なんか、俺、さらっと貶されてません?」

聞き捨てならない台詞に久志がにこにこ笑いながら、そう返せば、すかさず優秀な執事からのフォローが入る。

「『聞き上手な間宮様なら、きっと相手の心を開いてくれるだろう』と思っての言葉かと」
「……かなりの意訳」

あはは、と乾いた笑みを浮かべつつ、薫が乗り気なのは久志にとってはありがたいことである。だが、当の本人はどうやらぐったりとして元気がない様子。久志が「ど、どうかしたんですか」と首を傾げると

「汗を何度もハンカチで拭っていたから、きっと北野の急な坂を歩いて上ってきたのだろうし、うちで出した飲み物にもほとんど手をつけてなかったから、帰りにどこかの喫茶店に寄って話でもするのだろうと思っていたが、こんなに時間がかかるとは……!糖分が足りなくて、頭が働かない……」

と、薫。いきなりなんだ、とギョッと驚いていると、お行儀悪くソファに寝そべっていた薫が急に立ち上がって、久志の服をぐいと引っ張ると、その美麗な顔を近づけてこう言った。

「今日は僕にスイーツを作ってくれる約束だっただろう⁈いますぐ、何か作ってくれ!」と──。
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