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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード
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◇◇◇
「冨山さん!」
訳もわからぬまま言われた通りの道で裕次郎を追いかけた久志は、見覚えのある後ろ姿を見つけ、その名を呼んだ。裕次郎は久志の顔をちゃんと覚えていたようで、「君はさっきの」と呟いていた。
「どうしたんだい?そんなに走って」
「いえ、その……これ、冨山さんのボタンじゃないですか?」
ハンカチに包んだボタンを見せた久志に、裕次郎は自分のスーツのボタンを確認し始めた。だが、どこのボタンも取れている様子はなく、「私のものではないようだよ」と返される。それはそうだろう。このボタンの持ち主は、薫なのだから。
「そ、そうでしたか……。すみません、呼び止めてしまって」
へらりと笑ってボタンをポケットにしまい、裕次郎に一礼した久志。何がなんだかわからないが、自分は言われた通りのことをやったまでだ。また屋敷に引き返すか、と振り返ったところで「あの……!」と裕次郎に呼び止められる。遠慮がちな声に後ろを見れば、裕次郎は眉を八の字にして久志を見つめていた。
どうしたのだろうか、と首を傾げる久志。すると、
「よかったら、コーヒーでもどうかな……?せっかく来てくれたし、奢るよ」
裕次郎はそう言って、近くにあった蔦に覆われたレンガ造りの建物を指差した。
「冨山さん!」
訳もわからぬまま言われた通りの道で裕次郎を追いかけた久志は、見覚えのある後ろ姿を見つけ、その名を呼んだ。裕次郎は久志の顔をちゃんと覚えていたようで、「君はさっきの」と呟いていた。
「どうしたんだい?そんなに走って」
「いえ、その……これ、冨山さんのボタンじゃないですか?」
ハンカチに包んだボタンを見せた久志に、裕次郎は自分のスーツのボタンを確認し始めた。だが、どこのボタンも取れている様子はなく、「私のものではないようだよ」と返される。それはそうだろう。このボタンの持ち主は、薫なのだから。
「そ、そうでしたか……。すみません、呼び止めてしまって」
へらりと笑ってボタンをポケットにしまい、裕次郎に一礼した久志。何がなんだかわからないが、自分は言われた通りのことをやったまでだ。また屋敷に引き返すか、と振り返ったところで「あの……!」と裕次郎に呼び止められる。遠慮がちな声に後ろを見れば、裕次郎は眉を八の字にして久志を見つめていた。
どうしたのだろうか、と首を傾げる久志。すると、
「よかったら、コーヒーでもどうかな……?せっかく来てくれたし、奢るよ」
裕次郎はそう言って、近くにあった蔦に覆われたレンガ造りの建物を指差した。
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