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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード
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◇◇◇
『ああ、すまないね!連絡をすると言っていたが、急に新作のスーツのデザインがひらめいて、すっかり電話するのを忘れていたよ!イギリス製のファンタスティックな生地を仕入れてね!生地を触った瞬間、みるみるうちにアイデアが泉のように湧いてきて、これはすぐにパターン制作に取りかからなければと思っていたら、綺麗さっぱり抜けてしまったいたようだ!でも、どうせ暇をもてあまして退屈していた頃だろう?僕が君に極上のエンターテイメントを提供するから、存分に楽しんでくれたま──』
話の途中だったが、無表情の薫が音を立てて受話器を置くと、受話器越しに漏れてきた声が止む。どさりとソファに座り込んだ薫は、「まったく……」とため息をついて持っていた木製のアンティークな電話機を加賀美に手渡した。
加賀美によると、どうやら電話の相手の「白鳥さん」は、腕は超一流のテーラーなのだそうだが、少々変わった性格の人物らしく、こういったことは多々あるのだそう。受話器越しに漏れてくる会話から、なんとなく変わった人だということは想像できた。
「白鳥さんからは、神宮寺さんに連絡しておくから大丈夫ってお話だったんですが……」
「僕の元には、そんな連絡一つもなかったけれど」
薫の向かいにあるソファに座る男性は、肩を縮めて申し訳なさそうにしていた。
「本当に突然、お邪魔して申し訳ありませんでした」
「あなたが気にすることではない。悪いのは、あの変人テーラーだ」
相変わらずの物言いに、久志は加賀美の隣に立って苦笑いを浮かべる。薫は「それで、ご用件は?」と男に話を切り出した。
「改めまして、私は冨山不動産の、富山裕次郎と申します。
実は、会社の代表を務めていた父が先日病気で亡くなりまして……。今日、ご相談させていただきたかったのは、その父が残した遺言書のことなんです」
裕次郎はそう言うと、ビジネスバッグから一通の手紙を取り出した。「拝見しても?」と薫が尋ねると、裕次郎が「どうぞ」と返したので加賀美と久志も一緒になって覗きこむ。
「私には兄と姉の二人の兄弟がいるのですが、遺言書には父が遺した財産を均等に分けるという内容とは別に、一人だけが相続できる品があるようなんです」
「ここにある『以下の謎が解けたものには私が大切にしていた宝も与えることとする』のことか……」
その文章の下には、こう続いていた。
『ああ、すまないね!連絡をすると言っていたが、急に新作のスーツのデザインがひらめいて、すっかり電話するのを忘れていたよ!イギリス製のファンタスティックな生地を仕入れてね!生地を触った瞬間、みるみるうちにアイデアが泉のように湧いてきて、これはすぐにパターン制作に取りかからなければと思っていたら、綺麗さっぱり抜けてしまったいたようだ!でも、どうせ暇をもてあまして退屈していた頃だろう?僕が君に極上のエンターテイメントを提供するから、存分に楽しんでくれたま──』
話の途中だったが、無表情の薫が音を立てて受話器を置くと、受話器越しに漏れてきた声が止む。どさりとソファに座り込んだ薫は、「まったく……」とため息をついて持っていた木製のアンティークな電話機を加賀美に手渡した。
加賀美によると、どうやら電話の相手の「白鳥さん」は、腕は超一流のテーラーなのだそうだが、少々変わった性格の人物らしく、こういったことは多々あるのだそう。受話器越しに漏れてくる会話から、なんとなく変わった人だということは想像できた。
「白鳥さんからは、神宮寺さんに連絡しておくから大丈夫ってお話だったんですが……」
「僕の元には、そんな連絡一つもなかったけれど」
薫の向かいにあるソファに座る男性は、肩を縮めて申し訳なさそうにしていた。
「本当に突然、お邪魔して申し訳ありませんでした」
「あなたが気にすることではない。悪いのは、あの変人テーラーだ」
相変わらずの物言いに、久志は加賀美の隣に立って苦笑いを浮かべる。薫は「それで、ご用件は?」と男に話を切り出した。
「改めまして、私は冨山不動産の、富山裕次郎と申します。
実は、会社の代表を務めていた父が先日病気で亡くなりまして……。今日、ご相談させていただきたかったのは、その父が残した遺言書のことなんです」
裕次郎はそう言うと、ビジネスバッグから一通の手紙を取り出した。「拝見しても?」と薫が尋ねると、裕次郎が「どうぞ」と返したので加賀美と久志も一緒になって覗きこむ。
「私には兄と姉の二人の兄弟がいるのですが、遺言書には父が遺した財産を均等に分けるという内容とは別に、一人だけが相続できる品があるようなんです」
「ここにある『以下の謎が解けたものには私が大切にしていた宝も与えることとする』のことか……」
その文章の下には、こう続いていた。
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