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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

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屋敷に着いて早々、おいしいスイーツを堪能した久志は、本日の目的であるお菓子作りを始めることにした。薫は部屋で本でも読んで待っているとのことだったので、加賀美の案内のもと、まずはキッチンへ。

「それにしてもホントにすごいですね、神宮寺さんちって。俺なんかが、キッチン使わせてもらっていいんでしょうか。……ただのしがないフリーターなのに」

そんな言葉に、加賀美は淡い笑みを浮かべて久志を見た。

「気後れしますか?」
「ええ、そりゃ、ちょっと……。加賀美さんは、神宮寺さんと付き合いが長いんですか?」
「ええ。最初はミスも多くて怒られてばかりでしたよ」

昔を懐かしむような語り口に、久志は「加賀美さんがミスしまくってるところとか、あんまり想像できませんけど」と返す。すると加賀美は「とんでもない。昔はいろいろありましたよ」と、少し困ったように笑った。

と、そのとき、屋敷へ来訪者が来たことを知らせるベルが鳴った。突然鳴ったベルの音に、加賀美は首を傾げていた。

「お客さんですか?」
「みたいですね。今日は荷物の到着や、お客様がいらっしゃるご予定はなかったかと思いますが」

ひとまず、誰が来たのかを確認するためインターホンの画面を覗き込む加賀美。画面に映っているのは、30代から40代くらいの男性だった。

ボタンを一つ押し、「どちら様でしょうか」と加賀美が尋ねると、男性はパッと顔をインターホンの方に向けた。

『突然すみません。白鳥しらとりさんから紹介させていただいて来ました、冨山とみやまという者です。神宮寺さんにお会いしたいのですが……』

画面越しに聞こえてきた声に、久志は首を傾げた。

「白鳥さんって……」
「薫様行きつけのテーラーのご店主です」

久志の知識が正しければ「テーラー」とは、スーツを仕立てる店のことだったはず。また、自分とは縁遠い単語が出てきた。

加賀美の様子を見るに、アポイントの予定はなかったようだが、どういった用件なのだろう。そう思っていると、後ろから呆れたようなため息が聞こえてきた。振り返れば、ポケットに両手を突っ込み壁に寄りかかる薫の姿。

「あの馬鹿は、また勝手なことを……」

忌々しそうに呟く薫を、加賀美は苦笑いを浮かべて見つめていた。
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