上 下
30 / 68
2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

5

しおりを挟む
「私がきちんと管理しているので健康面には問題ありませんが、放っておいたら朝から晩までスイーツ三昧になるほどスイーツに目がないお方なので」

執事のそんな皮肉めいた視線と言葉にも、薫は一切動じないようだった。むしろ「好きなものを好きなだけ食べて何が悪いんだ」と開き直る豪胆ぶりである。

「程度というものがあるでしょう」

大きなため息をつく加賀美に、日頃の苦労っぷりが想像できた。だが、どちらかというと久志は薫側の意見の持ち主である。「まあ、いいじゃないですか」と、薫の肩を持ち間に入ると、「ほら、彼もそう言ってるぞ」と援護射撃を得た薫が得意げに笑う。

涼しげな表情の主人に恨みがましい視線を送っていた加賀美だったが、そんな執事に先制攻撃を仕掛けたのは薫だった。組んでいた足を解いて前屈みになると、にこりと笑って加賀美を見た。

「加賀美がしっかり管理してくれているから、僕は好きなだけスイーツが食べられるんだ。いつもありがとう、感謝してるよ」

そんな言葉とともに、この世の綺麗を詰め込んだみたいな笑みを向けられた加賀美は、一瞬フリーズしたあと、口元に手を当てごほんと咳払いを一つした。

「……そんな風に褒めたって、これ以上1日に食べるスイーツの量は増やしませんよ」
「分かってるって」

にこにこと笑う主と、眉間にシワを寄せる執事。薫とそんなやりとりをしている加賀美を見ながら、久志は、

「……これは絶対増やすやつだな」

と、そんな感想を呟いた。久志は薫に購入したケーキを持ってくれと言われたときのことを思い出し、彼の坊ちゃんぶりはこの執事が何かと甘やかしているからなのではと推測した。

「そんなことより紅茶も冷めますから、どうぞ」

加賀美の言葉に、久志は「待ってました」と言わんばかりの表情になる。「どうぞ」と促され、フォークと皿を手に持ち、早速「いただきます」と念願のミルフィーユをいただくことに。

「うっまぁ~……」

食べた瞬間に口に広がるやさしい甘さ。久志はその味わいをじっくりと、噛み締めるように堪能した。

「苺の甘酸っぱさと、絶妙にマッチするこのクリームのほどよい甘さ……。パイ生地のサクサク感もたまらないな、これは」

人気店のスイーツにご満悦の久志と、なぜか自分の手柄のように「そうだろう、そうだろう」と、薫はうんうん頷いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...