上 下
28 / 68
2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

3

しおりを挟む
「どうぞ、こちらへ」

そう言って通された応接室と思わしき部屋に、久志は呆然とした。部屋の中央には重厚感あふれるアンティークなテーブルとソファがあり、壁面には港町の風景が描かれている絵画。赤のじゅうたんに映える数々の調度品が並ぶ世界は、まるで中世のヨーロッパにいる貴族の邸宅を訪れたような錯覚を覚える。

「めっちゃ豪華……」

言葉をなくす久志を、加賀美は小さな子どもを見守るように微笑ましそうに見つめ、ソファに掛けるように促した。

「お茶の用意をしてまいりますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください」

胸に手を当て優雅に一礼した加賀美は、そのまま「では、失礼いたします」と部屋を出ていった。ゆっくりと閉まった扉が締まりきる。その瞬間、久志は「すご……」と声をあげた。

ぐるりと部屋の中を見渡してみるが、どこからどう見ても、場違いな自分。物しかないのに、この威圧感は何だ。

木製の棚の上や、ガラス張りの棚の中にある置物はアンティークものだろうか。どれも、そこにあるのが当然だと主張するかのように堂々と、泰然と並んでいて、招かれたこちらが萎縮してしまうほど。どれが欠けても完成しない、一つ一つが完璧なパズルのピースのように部屋にばちりとはまっていて、もはや「すごい」という語彙力のなさ丸出しの言葉しか出ない。

あまりの違いに、もはや現実世界から切り離されたような気持ちになる。こうなると、アミューズメントパークに遊びに来たような感覚だ。

「あれだな……昔、真司に連れられて行った須磨の旧西尾邸を思い出すわ。こんな豪華な家、神宮寺さんとこも貿易商か何かだったのかも」

一人そんなことを呟いてると、入り口の扉がゆっくりと開いた。久志が視線を入り口の方へと向けると、現れたのは、この屋敷の主。

この世の者とは思えないほどの麗しき御仁、神宮寺薫その人であった。

色白の肌に、さらりと流れるストレートな金髪、澄んだ薄茶色の瞳、筋の通った高い鼻、そして薄らと色づいている唇。どこか中性的で、儚げな印象があるこの屋敷の主人は、やはり誰もが振り向くほどの美貌を持つ男だった。

「待ってたぞ、間宮久志くん」
「こ、こんにちは、神宮寺さん」

ドアに寄りかかり、不敵な笑みを浮かべて立っている美麗な主人。彼こそ、ストーカー事件を解決してくれた恩人であり、なんの変哲もない手作りクッキーを食べてただのフリーターでしかない久志にパティシエにならないかと提案してきた大のスイーツ好きである。

改めて薫を見てみると、今日の出立ちは白のボウタイブラウスに、黒のスーツ姿と相変わらず品が良い佇まい。街を歩けば、男女問わず視線を集めてしまうこと間違いなしの美貌は変わらず健在だ。

「で、今日は何を作ってくれるんだ」

早速本題にと言わんばかりにウキウキとした様子の薫に久志は苦笑した。自分もスイーツ好きを自負しているが、彼はそれに輪をかけてすごいような気がする。

「そうですね、材料を見てから決めようかと思ってるんですが……」

薫の質問にリュックの中身を取り出そうとした久志だったが、そのときワゴンを押してやってきた加賀美がやってきた。「その前に、お茶にしませんか?」と、甘やかな微笑みとともに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...