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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード
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「どうぞ、こちらへ」
そう言って通された応接室と思わしき部屋に、久志は呆然とした。部屋の中央には重厚感あふれるアンティークなテーブルとソファがあり、壁面には港町の風景が描かれている絵画。赤のじゅうたんに映える数々の調度品が並ぶ世界は、まるで中世のヨーロッパにいる貴族の邸宅を訪れたような錯覚を覚える。
「めっちゃ豪華……」
言葉をなくす久志を、加賀美は小さな子どもを見守るように微笑ましそうに見つめ、ソファに掛けるように促した。
「お茶の用意をしてまいりますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください」
胸に手を当て優雅に一礼した加賀美は、そのまま「では、失礼いたします」と部屋を出ていった。ゆっくりと閉まった扉が締まりきる。その瞬間、久志は「すご……」と声をあげた。
ぐるりと部屋の中を見渡してみるが、どこからどう見ても、場違いな自分。物しかないのに、この威圧感は何だ。
木製の棚の上や、ガラス張りの棚の中にある置物はアンティークものだろうか。どれも、そこにあるのが当然だと主張するかのように堂々と、泰然と並んでいて、招かれたこちらが萎縮してしまうほど。どれが欠けても完成しない、一つ一つが完璧なパズルのピースのように部屋にばちりとはまっていて、もはや「すごい」という語彙力のなさ丸出しの言葉しか出ない。
あまりの違いに、もはや現実世界から切り離されたような気持ちになる。こうなると、アミューズメントパークに遊びに来たような感覚だ。
「あれだな……昔、真司に連れられて行った須磨の旧西尾邸を思い出すわ。こんな豪華な家、神宮寺さんとこも貿易商か何かだったのかも」
一人そんなことを呟いてると、入り口の扉がゆっくりと開いた。久志が視線を入り口の方へと向けると、現れたのは、この屋敷の主。
この世の者とは思えないほどの麗しき御仁、神宮寺薫その人であった。
色白の肌に、さらりと流れるストレートな金髪、澄んだ薄茶色の瞳、筋の通った高い鼻、そして薄らと色づいている唇。どこか中性的で、儚げな印象があるこの屋敷の主人は、やはり誰もが振り向くほどの美貌を持つ男だった。
「待ってたぞ、間宮久志くん」
「こ、こんにちは、神宮寺さん」
ドアに寄りかかり、不敵な笑みを浮かべて立っている美麗な主人。彼こそ、ストーカー事件を解決してくれた恩人であり、なんの変哲もない手作りクッキーを食べてただのフリーターでしかない久志にパティシエにならないかと提案してきた大のスイーツ好きである。
改めて薫を見てみると、今日の出立ちは白のボウタイブラウスに、黒のスーツ姿と相変わらず品が良い佇まい。街を歩けば、男女問わず視線を集めてしまうこと間違いなしの美貌は変わらず健在だ。
「で、今日は何を作ってくれるんだ」
早速本題にと言わんばかりにウキウキとした様子の薫に久志は苦笑した。自分もスイーツ好きを自負しているが、彼はそれに輪をかけてすごいような気がする。
「そうですね、材料を見てから決めようかと思ってるんですが……」
薫の質問にリュックの中身を取り出そうとした久志だったが、そのときワゴンを押してやってきた加賀美がやってきた。「その前に、お茶にしませんか?」と、甘やかな微笑みとともに。
そう言って通された応接室と思わしき部屋に、久志は呆然とした。部屋の中央には重厚感あふれるアンティークなテーブルとソファがあり、壁面には港町の風景が描かれている絵画。赤のじゅうたんに映える数々の調度品が並ぶ世界は、まるで中世のヨーロッパにいる貴族の邸宅を訪れたような錯覚を覚える。
「めっちゃ豪華……」
言葉をなくす久志を、加賀美は小さな子どもを見守るように微笑ましそうに見つめ、ソファに掛けるように促した。
「お茶の用意をしてまいりますので、どうぞごゆっくりお寛ぎください」
胸に手を当て優雅に一礼した加賀美は、そのまま「では、失礼いたします」と部屋を出ていった。ゆっくりと閉まった扉が締まりきる。その瞬間、久志は「すご……」と声をあげた。
ぐるりと部屋の中を見渡してみるが、どこからどう見ても、場違いな自分。物しかないのに、この威圧感は何だ。
木製の棚の上や、ガラス張りの棚の中にある置物はアンティークものだろうか。どれも、そこにあるのが当然だと主張するかのように堂々と、泰然と並んでいて、招かれたこちらが萎縮してしまうほど。どれが欠けても完成しない、一つ一つが完璧なパズルのピースのように部屋にばちりとはまっていて、もはや「すごい」という語彙力のなさ丸出しの言葉しか出ない。
あまりの違いに、もはや現実世界から切り離されたような気持ちになる。こうなると、アミューズメントパークに遊びに来たような感覚だ。
「あれだな……昔、真司に連れられて行った須磨の旧西尾邸を思い出すわ。こんな豪華な家、神宮寺さんとこも貿易商か何かだったのかも」
一人そんなことを呟いてると、入り口の扉がゆっくりと開いた。久志が視線を入り口の方へと向けると、現れたのは、この屋敷の主。
この世の者とは思えないほどの麗しき御仁、神宮寺薫その人であった。
色白の肌に、さらりと流れるストレートな金髪、澄んだ薄茶色の瞳、筋の通った高い鼻、そして薄らと色づいている唇。どこか中性的で、儚げな印象があるこの屋敷の主人は、やはり誰もが振り向くほどの美貌を持つ男だった。
「待ってたぞ、間宮久志くん」
「こ、こんにちは、神宮寺さん」
ドアに寄りかかり、不敵な笑みを浮かべて立っている美麗な主人。彼こそ、ストーカー事件を解決してくれた恩人であり、なんの変哲もない手作りクッキーを食べてただのフリーターでしかない久志にパティシエにならないかと提案してきた大のスイーツ好きである。
改めて薫を見てみると、今日の出立ちは白のボウタイブラウスに、黒のスーツ姿と相変わらず品が良い佇まい。街を歩けば、男女問わず視線を集めてしまうこと間違いなしの美貌は変わらず健在だ。
「で、今日は何を作ってくれるんだ」
早速本題にと言わんばかりにウキウキとした様子の薫に久志は苦笑した。自分もスイーツ好きを自負しているが、彼はそれに輪をかけてすごいような気がする。
「そうですね、材料を見てから決めようかと思ってるんですが……」
薫の質問にリュックの中身を取り出そうとした久志だったが、そのときワゴンを押してやってきた加賀美がやってきた。「その前に、お茶にしませんか?」と、甘やかな微笑みとともに。
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