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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード
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◇◇◇
「改めて見ると、やっぱすごい家だな……」
製菓用品をリュックに詰め込み、久志がやってきたのは神宮寺邸。今日も変わらず、北野の街に溶け込むように佇む美麗な屋敷である。二階建てのコロニアル様式の建物には格子窓にバルコニー、一階にはテラス。異国情緒たっぷりな雰囲気に、ここが日本であることを忘れてしまいそうになってしまう。
つい先日、真司とここへ来たときには、まさか自分がこう何度もこの屋敷に出向くことになるとは思ってもいなかった久志は、巨大な壁のように立ちはだかる屋敷を前に、一歩後ずさった。と、そのとき──。
「当屋敷になにか御用でしょうか」
聞き覚えのある、はちみつのような甘やかな声。久志が慌てて振り向いた視線の先にいたのは、にこやかな笑みを浮かべる執事の加賀美だった。
「加賀美さん……!」
「お待ちしておりました、間宮様」
にこりと品よく微笑む加賀美に、おずおずと「どうも」と頭を下げる久志。今日もすらりとした細身の燕尾服を着こなし、こんな年下相手にも丁寧な対応で出迎えてくれる。それが、この洋館の優秀な執事である。
「今日はわざわざご足労いただき、ありがとうございました。お迎えはいらないとのことでしたが、本当によろしかったのですか」
「ええ、大丈夫です!ただお菓子を作りに行くだけなのに、あんな豪華な車で迎えに来ていただくのも、なんだか恐縮してしまいますし……」
薫からは「加賀美を迎えによこす」とのことだったが、久志はそれを丁重に辞退した。確かに、黒塗りの高級車に乗ってみたい気持ちがなかったわけではないが、恐れ多すぎて今回は断ったのだ。加賀美は「では、またの機会に」と言うので、「そのときはよろしくお願いします」と久志は返した。
「さて、主人がお待ちかねです。どうぞ中へ」
加賀美はにこりと微笑み、中へ入るように催促する。久志は、ごくりと息を呑み、まるで魔王城に足を踏み入れる勇者のような心持ちで屋敷の中へと入っていった。
「改めて見ると、やっぱすごい家だな……」
製菓用品をリュックに詰め込み、久志がやってきたのは神宮寺邸。今日も変わらず、北野の街に溶け込むように佇む美麗な屋敷である。二階建てのコロニアル様式の建物には格子窓にバルコニー、一階にはテラス。異国情緒たっぷりな雰囲気に、ここが日本であることを忘れてしまいそうになってしまう。
つい先日、真司とここへ来たときには、まさか自分がこう何度もこの屋敷に出向くことになるとは思ってもいなかった久志は、巨大な壁のように立ちはだかる屋敷を前に、一歩後ずさった。と、そのとき──。
「当屋敷になにか御用でしょうか」
聞き覚えのある、はちみつのような甘やかな声。久志が慌てて振り向いた視線の先にいたのは、にこやかな笑みを浮かべる執事の加賀美だった。
「加賀美さん……!」
「お待ちしておりました、間宮様」
にこりと品よく微笑む加賀美に、おずおずと「どうも」と頭を下げる久志。今日もすらりとした細身の燕尾服を着こなし、こんな年下相手にも丁寧な対応で出迎えてくれる。それが、この洋館の優秀な執事である。
「今日はわざわざご足労いただき、ありがとうございました。お迎えはいらないとのことでしたが、本当によろしかったのですか」
「ええ、大丈夫です!ただお菓子を作りに行くだけなのに、あんな豪華な車で迎えに来ていただくのも、なんだか恐縮してしまいますし……」
薫からは「加賀美を迎えによこす」とのことだったが、久志はそれを丁重に辞退した。確かに、黒塗りの高級車に乗ってみたい気持ちがなかったわけではないが、恐れ多すぎて今回は断ったのだ。加賀美は「では、またの機会に」と言うので、「そのときはよろしくお願いします」と久志は返した。
「さて、主人がお待ちかねです。どうぞ中へ」
加賀美はにこりと微笑み、中へ入るように催促する。久志は、ごくりと息を呑み、まるで魔王城に足を踏み入れる勇者のような心持ちで屋敷の中へと入っていった。
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