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1章 出会いのクッキー
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その言葉にハッとした久志が顔を上げた。
「どうして、それを……」
久志の問いかけに、薫は親指で唇についたクッキーの粉を拭いながら、なんでもないようなふうに「答えは本棚の中、だ」と答えた。
「本棚……?」
「大学生なら、大学で使う教科書があってもいいのに、君の本棚には公務員試験用の教科書と、製菓関係の本ばかり。極めつけは、ボロボロになった製菓専門学校の本。出版年と君の年齢を照らし合わせれば、いつ頃通っていたかも簡単にわかる」
相変わらず細かいところまで、よく見ている。久志は「やっぱり、神宮寺さんは観察力がありますね」と苦笑した。そして、おもむろに過去について語り始めた。
「大学生じゃないのは、本当です……。実は、俺……高校卒業してからはパティシエを目指して製菓専門学校に入って、卒業後は憧れのパティスリーで修行を積んでいました。でも……」
そこで言葉を詰まらせた久志の表情が、さらに暗くなる。かと思えば、無理やり笑顔をつくって「でも、たった3ヶ月で辞めちゃったんです」と明るく言った。
「あれだけなりたいって憧れてた職業なのに……っ。あれだけ働きたいって思ってた場所だったのに……っ。仕事がただ辛いからって、俺はそこから、たった3ヶ月で……簡単に逃げ出したんです」
強く、強く握り締められた手。薫はその手を見つめたまま、じっと久志の話に耳を傾けていた。
「初めて会った人に、こんなことをわざわざ説明するのもなって思って黙ってました。……働かないかと言ってくれたことは嬉しいです。だけど、こんな俺がパティシエだなんて、そんな真似、できません……」
「どうして、それを……」
久志の問いかけに、薫は親指で唇についたクッキーの粉を拭いながら、なんでもないようなふうに「答えは本棚の中、だ」と答えた。
「本棚……?」
「大学生なら、大学で使う教科書があってもいいのに、君の本棚には公務員試験用の教科書と、製菓関係の本ばかり。極めつけは、ボロボロになった製菓専門学校の本。出版年と君の年齢を照らし合わせれば、いつ頃通っていたかも簡単にわかる」
相変わらず細かいところまで、よく見ている。久志は「やっぱり、神宮寺さんは観察力がありますね」と苦笑した。そして、おもむろに過去について語り始めた。
「大学生じゃないのは、本当です……。実は、俺……高校卒業してからはパティシエを目指して製菓専門学校に入って、卒業後は憧れのパティスリーで修行を積んでいました。でも……」
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強く、強く握り締められた手。薫はその手を見つめたまま、じっと久志の話に耳を傾けていた。
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