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1章 出会いのクッキー

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◇◇◇

それから1時間後。用事を済ませてから来るという薫に住所を伝え自宅で待っていると、ピンポーンとチャイムの音が聞こえた。ドア穴越しに来訪者を確認すると、そこにいたのは薫と執事の二人。こんな安アパートに似つかわしくない風貌をした人物の登場に、ドアの外だけ異世界空間のような感覚を覚える。

「今、開けます」

チェーンを外し、そっとドアを開ける。イケメン坊ちゃんとイケメン執事とただの一般人の対面に、久志は何だか自分はとんでもないお願いをしてしまったのでは、と今さらながらに自分の無謀さを呪った。

「すみません、お忙しいのにわざわざ……」
「僕が了承したことだ。気にしなくていい。こっちは執事の加賀美だ。彼も同席するけれど、問題ないか?」
「も、もちろんです!」

久志は慌ててそう返し、薫の隣に立っている加賀美に目を向けた。

柔らかそうな、ややウェーブがかかっている黒髪に、ゆるやかな線を描いた二重まぶた。顔がとても小さく、背は179センチの久志よりもやや高いくらい。股下は何センチあるんだと思うほど長く、ビシッと整えられた燕尾服がぴたりとハマっている。久志は何度見ても「THE執事」だなと、改めて思った。

にこやかな笑みを浮かべた加賀美は、「執事の加賀美と申します。以後、お見知りおきを」と礼儀正しく一礼した。優雅な所作は、きっと短期間で身についたものではないのだろう。一般人である自分にまで、そんな恭しく接せられると何だかむずがゆいと思わずにはいられない。

「初めまして、間宮久志です。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」

久志が加賀美にあいさつをすると、「さて」と言った薫が中へと入ってくる。

「早速、室内の調査から始めよう」
「室内……?」
「ああ、ストーカーといえば盗聴器だろう。まずは部屋の中に盗聴器がないか調べるぞ」

そう言って薫が取り出したのは、黒い四角の形をした機械に棒のようなものがついている盗聴器発見器と思われるもの。ドラマや漫画でしか見たことがないそれを、久志は初めて目にした。

「調査のためとはいえ、ストーカー被害に遭っている間宮様のお部屋に、赤の他人が入るのは抵抗があるでしょう。私は玄関前に待機して、扉を開けたままの状態を保っておきます。よろしいでしょうか?」

加賀美の申し出に久志は、小さく息を吐いた。一応、手にはいつでも助けが呼べるようにとスマホをスタンバイさせ、防犯ブザーも持っていたが、その辺りの配慮についても考えられていたようだ。

扉や玄関を調べていた薫だったが、久志の「はい」という返事を聞くと、早速ストーカー調査が開始された。
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