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1章 出会いのクッキー

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翌日、久志は目をこすりながら、三宮センター街から一本逸れた通りをぶらぶらと歩いていた。

昨夜、吸血鬼らしき人物と会ってしまったことについて、「本物の吸血鬼なのか」「俺ってば、ファンタジー世界の住人の仲間入り?」「もしかして今から世界を救う的な物語が始まるのか⁈」などと、いろいろ考えていたら、なかなか寝付くことができなかったのだ。

おかげで真夜中に、ただひたすらお菓子作りに打ち込むだなんてことをしてしまい、昼間の今はかなり眠い。

「ったく、森があんなとこ連れてくから……」

そうぼやいたところで仕方ないのだが、愚痴のひとつも言いたくなる。もしあの屋敷の主が本物の吸血鬼なら、久志は血を吸われて人間ではなくなっていたのかもしれないのだから。

「って、だからそんな話ないない。吸血鬼とか所詮ファンタジーの話だし……。寝不足で疲れてんな、俺も」

ため息をつきながら、そんなことを呟いているとふと目に入った有名パティスリーの看板。市内にコンセプトの違うさまざまな店を展開する「パティスリートゥーストゥース」の本店だ。

黒と紫で統一されたシックな外観。店先には西洋式の庭園でよく見かける、お洒落なテーブルとイスが並んでいる。海外を思わせる外観はそれだけで絵になり、映える写真が撮れそうだ。

久志は手元にある紙袋をちらりと一瞥した。中には昨夜、なかなか寝付けず、ひたすら作ったお菓子を入れたタッパーが2箱分。真司の家に持っていこうとしたのだが、急用で外出するからまた今度と言われ、持って帰ってきたものが入っている。

(こっちも消費しなきゃだからなぁ……)

と、言いつつ、今はどんなスイーツが並んでいるのかも気になる。なぜなら、トゥーストゥースには季節限定の超絶おいしいスイーツもあるからだ。

(でも、中に入ったら絶対何か買いたくなりそうだし……)

自分の財布と欲望を天秤にかけ、しばらく悩む。だが、どうあらがったってスイーツの甘い誘惑には勝てるわけがなかった。久志は意を決したのか手のひらをぎゅっと握り締め、えいと思い切って中へ入っていった。
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